99 / 242
96・前聖王陛下③
しおりを挟む出自を告げると余計に納得されるだけで済んだ。
自分の育った環境以外のことなどサフィルにはよくわからない。
子爵はいつもサフィルの容姿を、母によく似ていると褒めそやしていたけれど。ただ、彼は母の信望者なので、また少し事情が違うのではないかと思われた。
「ふむ。そんなものかね」
そんなにまで非凡なのに。
言外に告げられても、サフィルは頷く以外に術を持たない。
実際にサフィルの容姿など、その程度の物なのだ。
「僕は、あの、魔力は多いのですがその……それほど、魔法や魔術が得意なわけではないので……」
ご期待に沿えていなかったのなら申し訳ない。
それらについても、確かに他者より多少は出来る自覚ぐらいある。
だが、祖母や母のようないわゆる天才と言えるほどのものではなかった。
「まぁ、魔法や魔術の巧みさ等、聖王妃には必要なものでもないがね」
気にするようなことではないと頷かれ、サフィルはなんとか笑みを返した。
その笑みは非常にぎこちなく、だがセディはそれを指摘しない。
「ともあれよく来てくれた。歓迎しよう。ただ、申し訳ない、私はご覧の通り老齢でね。ろくに相手も出来そうにない。我が伴侶も伏せることが多い。気を悪くしないでくれたまえ、歓迎していないわけではないんだ。女官によく言いつけておいたから、少しでも楽しんでもらえるといいのだが……ここは聖王都の喧騒などとは遠いからね。ゆっくりするにはもってこいの場所ではある。寛いでいってくれると嬉しい」
そんな風に申し訳なさそうにされ、サフィルの方こそ恐縮してしまった。
「いえっ! あの、僕こそ……僕の我儘で。そちらの都合も顧みず押しかけてしまって……」
「いやいや、挨拶がしたいと、我々に会いたいと希望してくれたのだと聞いている。その気持ちはとても嬉しい。気にするようなことではないさ」
「でしたら、いいんですけど……」
かかと朗らかに笑い飛ばされ、ようやくサフィルは僅かばかり力を抜くことが出来た。
やはりセディはリシェに似ていて、だがリシェよりもセディの方が僅かばかり、細やかな気遣いが出来る人のように思えた。
その後も少しばかり言葉を交わして、長居はせずに部屋を辞す。
元々サフィルはおしゃべりな性質をしておらず、気の利いたこと一つ言えない上、人見知りで何を話せばいいのかさえ分からなかったというのもあるが、見るからに老齢なセディを長く引き留めるのも気が引けたという部分があった。
セディは最後まで友好的な態度を崩さず、とてもいい人そうだというのがサフィルの印象。
そしてこの後続けて、臥せっているという前聖王妃陛下とも会う予定になっていた。
0
お気に入りに追加
907
あなたにおすすめの小説
薬師は語る、その・・・
香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。
目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、
そして多くの民の怒号。
最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・
私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中
結婚式の晩、「すまないが君を愛することはできない」と旦那様は言った。
雨野六月(旧アカウント)
恋愛
「俺には愛する人がいるんだ。両親がどうしてもというので仕方なく君と結婚したが、君を愛することはできないし、床を交わす気にもなれない。どうか了承してほしい」
結婚式の晩、新妻クロエが夫ロバートから要求されたのは、お飾りの妻になることだった。
「君さえ黙っていれば、なにもかも丸くおさまる」と諭されて、クロエはそれを受け入れる。そして――
国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。
【完結】酔った勢いで子供が出来た?!しかも相手は嫌いなアイツ?!
愛早さくら
BL
酔って記憶ぶっ飛ばして朝起きたら一夜の過ちどころか妊娠までしていた。
は?!!?なんで?!!?!って言うか、相手って……恐る恐る隣を見ると嫌っていたはずの相手。
えー……なんで…………冷や汗ダラダラ
焦るリティは、しかしだからと言ってお腹にいる子供をなかったことには出来なかった。
みたいなところから始まる、嫌い合ってたはずなのに本当は……?!
という感じの割とよくあるBL話を、自分なりに書いてみたいと思います。
・いつも通りの世界のお話ではありますが、今度は一応血縁ではありません。
(だけど舞台はナウラティス。)
・相変わらず貴族とかそういう。(でも流石に王族ではない。)
・男女関係なく子供が産める魔法とかある異世界が舞台。
・R18描写があるお話にはタイトルの頭に*を付けます。
・頭に☆があるお話は残酷な描写、とまではいかずとも、たとえ多少であっても流血表現などがあります。
・言い訳というか解説というかは近況ボードの「突発短編2」のコメント欄からどうぞ。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【R18】【Bl】魔力のない俺は今日もイケメン絶倫幼馴染から魔力をもらいます
ペーパーナイフ
BL
俺は猛勉強の末やっと魔法高校特待生コースに入学することができた。
安心したのもつかの間、魔力検査をしたところ魔力適性なし?!
このままでは学費無料の特待生を降ろされてしまう…。貧乏な俺にこの学校の学費はとても払えない。
そんなときイケメン幼馴染が魔力をくれると言ってきて…
魔力ってこんな方法でしか得られないんですか!!
注意
無理やり フェラ 射精管理 何でもありな人向けです
リバなし 主人公受け 妊娠要素なし
後半ほとんどエロ
ハッピーエンドになるよう努めます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる