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93・離宮にて②

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 緊張しながらも大人しく女官長についていくと、案内されたのは最上階、東側の一室で、見晴らしも日当たりも非常によかった。
 大変明るい雰囲気の部屋である。
 前聖王陛下や聖王妃陛下の私室は西側にあり、ここはいわば対になっていて、来客用の区画なのだそうだ。
 部屋は二間続き。寝室と寛ぐ為なのだろう、応接セットなどのある居間のような部屋。
 風呂とトイレも付随していて、それぞれが大変に広々としている。
 そちらの雰囲気は、王宮のサフィルに宛がわれている私室に似ていた。
 おそらくはマチェアデュレこの国の主流となっている作りなのだろう。
 後ほど呼びに来るともう一度告げて部屋を出た女官長を見送って、サフィルは旅装を解くのもそこそこに、つい、ソファへと深く身を預けた。
 ふぅ、溜め息のように深く息を吐く。

「聖王妃陛下。お疲れかとは存じますが、先にお召しかえを」

 促され頷くが、なかなか動く気になれないのは、侍女の言うようにやはり疲れているからなのだろう。
 この部屋自体にも緊張はするのだが、それでも移動中とはやはり違うし、近くにいてくれる侍女や侍従、護衛は見知った者ばかり。
 彼らにだってまだ慣れているとは言い難いけれども、全く身も知らぬ者たちに囲まれているよりはいくらも息が吐ける。
 なかなか動こうとしないサフィルを、侍女たちはそれ以上執拗に促したりなどせず、静かに待ってくれているようだった。
 いくらかじっとして、息を整えて、ようやくのろのろと動き出すと、待っていたとばかりに着替えらしき衣装を差し出された。
 今、身に着けているものとあまり変わらないが、少しばかり装飾が多く、正装により近いことがわかる。
 おそらくはこの後、前聖王陛下や前聖王妃陛下に会う予定だからなのだろう。
 サフィルは当然のことながら、基本的には着替えに人の手など必要としない。
 勿論、仕上げや手の届かないところにある編み上げ部分などでは侍女や侍従に手伝ってもらうことはあるけれど、それぐらいである。
 ただ、服そのものはあまり自分では選ばなかった。
 特に聖王妃今の立場になってからは、ちゃんと場面に適したものを選べるのか、あまり自分では自信が持てず、侍女たちに任せきりだった。
 なので今も同じように、侍女に促されるままの衣服を身に着けていく。
 仕上げに服のみならず髪も簡素に少しだけまとめてくれた。
 そうして着替え終わって、改めてソファに体を預けた。
 途端、体が重くなったような気がする。だが、今日ばかりはこのまま休んでしまうわけにもいかず。
 それでも、ほんの僅かだけの休息を、サフィルは取ろうと目を瞑った。
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