84 / 242
81・新しい1日②
しおりを挟む待っていた相手が訪れたのだろう、扉を叩かれたのはそれからほどなくしてのこと。
現れたのは見覚えのある司祭で、僅かばかり戸惑いが滲んでいる。
「聖王妃陛下においてはご機嫌麗しく」
丁寧に礼を尽くされ、サフィルは鷹揚に頷く。
昨日よりもこの扱いに慣れている自分に気付いた。
分不相応だ、そう感じるのは変わらない。だが『聖王妃』。その立場に慣れていかなければならないのだろう。
司祭はサフィルの許しを得てようやく顔を上げた。
そしてかしこまった様子で口を開く。
「聖王陛下より、聖王妃陛下が知識をご所望とお伺いしました。つきましては私が、お伝え出来ることもあるかと考えはせ参じた次第です。しかしながらこちらはお寛ぎになられる空間、このままお伝え致してしまえば慌ただしくもなりましょう。宜しければより適した場所へとご案内致したく存じます。私にその栄誉を賜れるご許可を頂ければと」
要は移動するので着いて来て欲しいということなのだろう。
へりくだった遠回しな言い方はわかりにくく、サフィルは全く慣れていなかった。
しかし、意味が理解できないというほどではなかったので、サフィルはやはり鷹揚に頷く。
「許します」
そうしていながら、あれ? そういえばリシェと司祭の間の会話などは、もっと気安いように見えたな、とも思い出して、出来ればあれぐらいで接して欲しいとぼんやり思い、また後でリシェにお願いしておくことにした。
多分今この場で司祭に告げても、この態度であるのだ、聞いてはもらえないような気がしたためだった。
なんだかリシェばかり頼っているな、とも思ったけれど、今朝の嬉しそうな様子を思い出して、気にしないことにする。
リシェはサフィルの我が儘を厭っているようには見えなかった。ならば気にしすぎるのもまた違うのだろう。
サフィルは低頭したまま、案内のため先に部屋を出るのだろう、踵を返した司祭に続こうと立ち上がった。
侍女や護衛達が心得たとばかり、何人か付き従ってくれるのを確かめながら歩き出す。
廊下を進み、中庭の方へ向かっているのがわかって、どうやら向かっているのは図書館の方なのかもしれないと思い至った。
なにせ昨日歩いた場所とほとんど同じだ。
なるほど、知識を得るのに図書館ほど適した場所もないだろう。
ちょうどいいと内心で頷いた。
いずれにせよ図書館には近々足を運ぶ予定だったのだ。
だが、それはあまりに暇だったからであり、今からなにがしか知識を得られるのなら、その必要もなくなるかもしれなかった。でも、同時にどちらでもいい、そうも思う。
そもそも読書が趣味だというわけでもない。
なら目的ぐらい変わっても、大きな違いはないだろう。
図書館。どんな本があるのだろうか。
サフィルは想像して、少しだけ楽しみにも思えたのだった。
0
お気に入りに追加
907
あなたにおすすめの小説
薬師は語る、その・・・
香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。
目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、
そして多くの民の怒号。
最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・
私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中
結婚式の晩、「すまないが君を愛することはできない」と旦那様は言った。
雨野六月(旧アカウント)
恋愛
「俺には愛する人がいるんだ。両親がどうしてもというので仕方なく君と結婚したが、君を愛することはできないし、床を交わす気にもなれない。どうか了承してほしい」
結婚式の晩、新妻クロエが夫ロバートから要求されたのは、お飾りの妻になることだった。
「君さえ黙っていれば、なにもかも丸くおさまる」と諭されて、クロエはそれを受け入れる。そして――
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
番だと言われて囲われました。
桜
BL
戦時中のある日、特攻隊として選ばれた私は友人と別れて仲間と共に敵陣へ飛び込んだ。
死を覚悟したその時、光に包み込まれ機体ごと何かに引き寄せられて、異世界に。
そこは魔力持ちも世界であり、私を番いと呼ぶ物に囲われた。
奴の執着から逃れられない件について
B介
BL
幼稚園から中学まで、ずっと同じクラスだった幼馴染。
しかし、全く仲良くなかったし、あまり話したこともない。
なのに、高校まで一緒!?まあ、今回はクラスが違うから、内心ホッとしていたら、放課後まさかの呼び出され...,
途中からTLになるので、どちらに設定にしようか迷いました。
【完結】酔った勢いで子供が出来た?!しかも相手は嫌いなアイツ?!
愛早さくら
BL
酔って記憶ぶっ飛ばして朝起きたら一夜の過ちどころか妊娠までしていた。
は?!!?なんで?!!?!って言うか、相手って……恐る恐る隣を見ると嫌っていたはずの相手。
えー……なんで…………冷や汗ダラダラ
焦るリティは、しかしだからと言ってお腹にいる子供をなかったことには出来なかった。
みたいなところから始まる、嫌い合ってたはずなのに本当は……?!
という感じの割とよくあるBL話を、自分なりに書いてみたいと思います。
・いつも通りの世界のお話ではありますが、今度は一応血縁ではありません。
(だけど舞台はナウラティス。)
・相変わらず貴族とかそういう。(でも流石に王族ではない。)
・男女関係なく子供が産める魔法とかある異世界が舞台。
・R18描写があるお話にはタイトルの頭に*を付けます。
・頭に☆があるお話は残酷な描写、とまではいかずとも、たとえ多少であっても流血表現などがあります。
・言い訳というか解説というかは近況ボードの「突発短編2」のコメント欄からどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる