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81・新しい1日②

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 待っていた相手が訪れたのだろう、扉を叩かれたのはそれからほどなくしてのこと。
 現れたのは見覚えのある司祭で、僅かばかり戸惑いが滲んでいる。

「聖王妃陛下においてはご機嫌麗しく」

 丁寧に礼を尽くされ、サフィルは鷹揚に頷く。
 昨日よりもこの扱いに慣れている自分に気付いた。
 分不相応だ、そう感じるのは変わらない。だが『聖王妃』。その立場に慣れていかなければならないのだろう。
 司祭はサフィルの許しを得てようやく顔を上げた。
 そしてかしこまった様子で口を開く。

「聖王陛下より、聖王妃陛下が知識をご所望とお伺いしました。つきましては私が、お伝え出来ることもあるかと考えはせ参じた次第です。しかしながらこちらはお寛ぎになられる空間、このままお伝え致してしまえば慌ただしくもなりましょう。宜しければより適した場所へとご案内致したく存じます。私にその栄誉を賜れるご許可を頂ければと」

 要は移動するので着いて来て欲しいということなのだろう。
 へりくだった遠回しな言い方はわかりにくく、サフィルは全く慣れていなかった。
 しかし、意味が理解できないというほどではなかったので、サフィルはやはり鷹揚に頷く。

「許します」

 そうしていながら、あれ? そういえばリシェと司祭の間の会話などは、もっと気安いように見えたな、とも思い出して、出来ればあれぐらいで接して欲しいとぼんやり思い、また後でリシェにお願いしておくことにした。
 多分今この場で司祭に告げても、この態度であるのだ、聞いてはもらえないような気がしたためだった。
 なんだかリシェばかり頼っているな、とも思ったけれど、今朝の嬉しそうな様子を思い出して、気にしないことにする。
 リシェはサフィルの我が儘をいとっているようには見えなかった。ならば気にしすぎるのもまた違うのだろう。
 サフィルは低頭したまま、案内のため先に部屋を出るのだろう、踵を返した司祭に続こうと立ち上がった。
 侍女や護衛達が心得たとばかり、何人か付き従ってくれるのを確かめながら歩き出す。
 廊下を進み、中庭の方へ向かっているのがわかって、どうやら向かっているのは図書館の方なのかもしれないと思い至った。
 なにせ昨日歩いた場所とほとんど同じだ。
 なるほど、知識を得るのに図書館ほど適した場所もないだろう。
 ちょうどいいと内心で頷いた。
 いずれにせよ図書館には近々足を運ぶ予定だったのだ。
 だが、それはあまりに暇だったからであり、今からなにがしか知識を得られるのなら、その必要もなくなるかもしれなかった。でも、同時にどちらでもいい、そうも思う。
 そもそも読書が趣味だというわけでもない。
 なら目的ぐらい変わっても、大きな違いはないだろう。
 図書館。どんな本があるのだろうか。
 サフィルは想像して、少しだけ楽しみにも思えたのだった。
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