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27・食の好み
しおりを挟むなるほど、移動中に食べるなら、これほど手軽なものもないだろう。
手に持ちやすそうな大きさに切り分けられ、かつ一つ一つが半ばほどを紙に包まれている。
手が汚れないようにと言う配慮か、見る限り滴り落ちるようなソースなども使用されていないようだった。
正直、祭事用にと着せ付けられている衣装は装飾も多く、またすぐに着脱できるようなものでもなく。このまま食事を摂るのに躊躇いを覚えていたので助かる。
なにせ色が真っ白なのだ。
いくらちょっとぐらいの汚れなら、洗浄魔法等を駆使すればすぐに除去できるだろうとは言え、そもそも汚すこと自体、気が引けた。
何も言わず、手伝うことも出来ず、ただただリシェの滑らかな手つきを眺めるだけのサフィルの前に、リシェは続けて飲み口以外を蓋で覆うことが出来るカップをバスケットから取り出し、同じくバスケットに入っていたのだろうポットからお茶を注ぎ入れた。
匂いがあまりなく、また湯気なども立っていなさそうなところから見るに、おそらく熱いお茶ではない。
ぬるいか冷たいか。
移動中に飲むことを考えるとそちらの方がいいのは確かだった。
「どれがいいとかある? 嫌いなものとかはない? 苦手なものとか」
手渡すサンドイッチに迷ったのか、訊ねられ、サフィルは首を横に振った。
「特にありません。どれでも……」
「そっか。逆に好きなものは?」
「うーん、どうでしょう? どれもおいしそうだと思います」
紙に包まれていない部分から覗く具材は様々で、本当にどれもおいしそうにサフィルには見えた。
好き嫌いが一切ないだとかいうわけではないのだけれど、見る限り特段、そういったものはどちらも見当たらない。
と、言うか、サフィルが好むのはパイだとかそういうものなので、そもそもサンドイッチにはなり得ないのだが。
苦手だというならば、実は海鮮の生もの等が該当する。しかしそもそも、海に面していないマチェアデュレでは海鮮、それも生ものなど、それ自体が稀少だった。
ちなみに実は聖王都事態は大きな、ともすれば海にも見えそうなほどの湖に面しており、そこで採れる魚などはよく使用されている。
反面、生で食す習慣はなく、揚げたり煮たり焼いたり。基本的にはある程度火を通すのが主流である。つまりサフィルの苦手なものは食卓に上がらない可能性が非常に高く、サフィルもそれは知っていたので、敢えて告げる必要性を感じていなかったのだった。
「うーん、じゃあ、これから行こうか。俺の好物なんだ」
「ありがとうございます。……お茶も」
差し出された一切れを受け取りながら、先程は話しかけられたのもあり、言いそびれたお茶の礼も一緒に告げておく。
リシェは快活ににこと笑った。
「どういたしまして。気にしないで」
手の中にあるサンドイッチを見れば、どうやら蒸し鶏が挟まっているらしい。
リシェの好みはこれなのか。覚えておこう。
サフィルは知らず、そんなことを思っていた。
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