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31・新たなる現状②
しおりを挟む陛下はとにかく私を放さない。
一緒にいる時間を減らしてしまってからはなおさら、陛下と一緒にいる時に、私が一人で椅子に座ったことなどなかったし、私が自分の手で食事を摂れたことさえなかった。
なにせ、私の定位置は陛下の膝の上で、私の口へと食事を運ぶのは、陛下の役目なのである。
当然、風呂にも一緒に入っては、髪の毛から手足の指先までもを全て陛下に洗われて、かつ、かなり高い頻度でそのまま求められて、お風呂から出た後まで、保湿剤などで顔の皮膚を整えることから始まり、肌や髪に香油を塗りこむことまで、全て陛下が手ずから私へと施した。
女官や侍女の手を煩わせることすらなく、彼女らに与えられている仕事は、事前の準備までのみ。それ以外の全てを陛下が行うのである。
陛下自身の世話については、自分付きの侍従に勝手にさせているのに、私には他者が触れることを許さなかった。
朝の身支度も、ドレスを着せることまで、可能な限り陛下自らが手を伸ばしてくるのだ。私にそうして傅く陛下の姿は、出来合いどころの話ではなく、羞恥心と申し訳なさで、私をいつだって居た堪れなくさせた。
性質が悪いのは、自分の記憶を振り返る限り、これらが接触を減らしたことによる反動などではなく、どうも元からである所。
私も私で、
「フィアに触れるのは私だけでありたいんだ」
などと甘く囁かれては、恥じらいはしても拒むことなど、出来るはずがなく。ただ諾々と受け入れるばかり。
溺れそうだった。
自分が本当に駄目になってしまうと思った。いくら私も陛下をお慕いしていると言ったって、こんなこと。否、幸せを感じてしまってもいるのだけれど。でも。
お腹の中の子供を育てるには、陛下の魔力が必要で、子供が生まれてからも一年は、陛下とは離れない方がいいことがわかっている。
それはこの世界の摂理であり、子供の為を思うなら必須となる条件だった。
半年後に予定されていた陛下と私の婚姻式は当たり前のことながら出来るはずがなく、私はそのまま子供が生まれてからも落ち着いてからの方がよいだろうと、やはり情けなくもアリムエ執政官を通して進言し、それは通って、なんと、二年後まで延びることとなった。つまり、子供が生まれてからも更に、一年半以上の猶予が出来たということである。
なお、それまでは王妃としての公務もほとんど割り振られることはないらしい。
そんな王妃にいる意味などないのではないかとも思ったが、子供がいる以上そちらが優先で構わないとのこと、結局、陛下が決めたことに逆らう者など誰もいなかった。
否、もしかしたらいたのかもしれないが、少なくとも私の知る限りでは存在せず、自分で進言しておいてなんだが、流石に都合がよすぎるとおかしな不安に襲られたが、構わないではないかと必死に自分を慰めた。都合がよすぎて悪いことなど何もないのだから。
陛下からの過剰なまでの寵愛に溺れそうになりながら、日々は飛ぶように過ぎていった。
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