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20・垣間見た終焉
しおりを挟む「ニーファ嬢」
リコスが私を支えるように寄り添ってくれる。
故国の話……否、ニディアの話に、それでも私が心を痛めていることを、理解してくれているからなのだろう。
リコスはここアンセニースの辺境伯爵家の子息で、そして、私の家が落ち着いたのを見計らって、実は私へと婚約の打診をしてきてくれていた。
つい先日、私はそれを受けたばかり。
もともとリコスには好感を抱いていたので、嬉しいと、そう感じたほどだった。
今日はそれを受けて初めて挨拶にと訪問してくれていたのだけれど、そこでもたらされた報告が先程のそれ。
否、コリデュアで明確なことが成されたのが昨日と言っていたので、予定にはなかったのだろうそれを、わざわざ報告することとしてくれたのだろう。
きっと私が心の何処かで、コリデュアを、否、ニディアを気にかけていることを知っていたからこそ。
故国に対して思うことはいろいろある。
私がこれまで生きてきた日々や、王宮での仕打ち。受けてきた王子妃教育や、何故かしなければならなかった、本来ならばシュネス殿下がするはずの執務など。
特にシュネス殿下から受けた対応はひどかった。
とは言え、それは私も同じこと。
父は実際に色々と動いていたとは思うのだが、私はただ何もしなかっただけだった。
王妃様がそう言ったことに関しては特に何かおっしゃったりしなかったのをいいことに、シュネス殿下に私の方から、歩み寄ろうとしなかっただけ。
初めから私を嫌っていたシュネス殿下に、好かれる努力などを私は一切しなかったのだ。
その結果としてそのうちにシュネス殿下が耐えられなくなり、私に何かをしようとすることは、元よりわかり切ったことだった。
とは言えそれが、こちらの想定しうる、一番望ましい結果となったのは、おそらくはニディアの誘導ゆえであるのだろうことを、私はすでに知っていた。
関りはそう多くなどなかったはずだ。
なのになぜか、そう思う。でも。
「リコス様。私は……」
私は。
いつか対峙した時の、私へと注がれたニディアの眼差しを思い出す。
どこか慈しむような、あるいは眩しい物でも見るような。憧憬を孕んだそれ。
彼女のその眼差しだけで、私への思慕を示してくれていたのである。
彼女と私が実際に対峙したのなどたったのそれだけ。だけどそれだけで充分で。
何かを、吐き出してしまいたかった。
でも何をどう言葉にすればいいのか、私にはよくわからなかった。だから。
「……いいえ。今はただ、こちらへと脅威が来なくなったのであろうことを、喜ぶより他、ありませんわよね」
一度そっと目を伏せ、次いでやんわりと微笑んだ。
リコスもまた、何か言いたげに目を細める。だけど実際には何も言わず。やはり静かに目を伏せ、そして。
「そうですね。予定通り、こちらの望む通りの現状になった。それは間違いなく喜ばしいことです。ですから、私たちはこれからのことを考えましょう。私たちの未来のことを」
ついで柔く笑んでそう告げた。
私も微笑む。
「ええ、共に」
私たちの未来は、ありがたいことに決して暗くなどない。
それをただ、喜べばいいだけなのだろう。
故国が国の名を変えた。
その事実にどうしようもない感傷を覚えながら。私に出来ることは、それを忘れずにいることだけ。
一つの国の終わりを見た。
ただ、それだけの話だった。
Fine.
+++++
※このまま続けてニディア視点、シュネス視点、王妃視点を書く予定……だったのですが、書き始めたらひどいことになったのですが、この話が全年齢だったことを思い出したので、R-18にして連載を分けます。
※ので、この分はこれで完結とします。
※もし、そちらを見かけた際は、宜しくして頂けたら嬉しいです。(ちょっと時間を置いて落ち着いて書こうと思うのですぐには上げません。でも本命は実はそっちだったので書きたいとは思っています。)
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