上 下
17 / 21

16・感謝と、そして

しおりを挟む

 まだ何か言いたいことがあるというのだろうか。
 シュネス殿下のお言葉を、何一つ否定せずに受け入れたというのにいったい何を。
 思わず寄ってしまった眉を、いったいどうとらえたというのだろう。私にはよくわからない。
 ただ、歪んだまま、苛立ったようなシュネス殿下の雰囲気は全く変わらず。そして。

「本当はお前のような者っ、捕らえて処刑でもしてしまおうかと思っていたのだっ! だが、罪など何も侵していない以上、そのようなことはできないと口うるさい者がいてなっ! 罪など、俺を蔑ろにした、それで充分だろうにっ……! くそっ! ニディアにも感謝しろ! 視界に入らなくなればそれでいいだろうと、追放ならばいいのではないか、そう進言してきたのはニディアなのだからなっ! そうでなければ、それぐらいで済ますものかっ!」

 そんな風に、怒声のよう、浴びせられた言葉に私はびっくりしてしまう。
 まさか碌に問えるような罪もないというのに、処刑まで考えていらしたとは。
 私はいったいどれほど嫌われていたのだろうか。
 もちろん、何もしていないし心当たりもない。
 私からしてみれば、何なら、私に歩み寄って来なかったのは、むしろシュネス殿下の方だった。
 シュネス殿下は腐っても王族。私の方からの歩み寄りなど、立場を踏まえれば容易ではないことぐらい、わかりそうなものなのだけれど。
 きっとそう言うことではないのだろうな、漠然と思う。
 そして、敢えて追放へと誘導したらしいニディアが、私はますます気になって仕方なくなってしまうのだった。
 これはいったいどう反応すればいいのだろう。
 いずれにせよ、まさか無視するわけにもいかない。
 私はやはり慇懃に腰を折った。

「かしこまりました。ニディア様に感謝いたします」

 ただただシュネス殿下の言葉に従う姿勢を見せる。
 何も逆らわない。
 父も私の傍らで、同じように腰を折っていた。
 シュネス殿下はいまだ気分を害したというような表情のまま。
 まだ何か気に食わないらしい。
 大変な騒ぎとなってしまっているのだが、王妃様はまだいらっしゃらない。
 私はちらと、下げたままの頭の先、シュネス殿下に気付かれないように父と密かに目配せし合った。
 小さく、視線だけで頷き合う。
 次にシュネス殿下が何も言わないうちにと、私は静かに口を開いた。

「でしたら、シュネス殿下。僭越ながら私共はこのまま下がらせて頂きます。シュネス殿下、及びニディア様の寛大なご対処に今一度感謝を」

 改めて深く礼を取り、それでは失礼致しますと、辞去の挨拶を告げる。

「っ……! ああ、そうだなっ、とっとといなくなってしまえっ!」

 シュネス殿下はやはりどこまでも憤ったまま。
 いっそ追い立てるように、私達の辞去を、それでも許して下さったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~

可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

一体だれが悪いのか?それはわたしと言いました

LIN
恋愛
ある日、国民を苦しめて来たという悪女が処刑された。身分を笠に着て、好き勝手にしてきた第一王子の婚約者だった。理不尽に虐げられることもなくなり、ようやく平和が戻ったのだと、人々は喜んだ。 その後、第一王子は自分を支えてくれる優しい聖女と呼ばれる女性と結ばれ、国王になった。二人の優秀な側近に支えられて、三人の子供達にも恵まれ、幸せしか無いはずだった。 しかし、息子である第一王子が嘗ての悪女のように不正に金を使って豪遊していると報告を受けた国王は、王族からの追放を決めた。命を取らない事が温情だった。 追放されて何もかもを失った元第一王子は、王都から離れた。そして、その時の出会いが、彼の人生を大きく変えていくことになる… ※いきなり処刑から始まりますのでご注意ください。

婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。

藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」 婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで← うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。

【完結】婚約破棄断罪を企んでおられるようなので、その前にわたくしが婚約破棄をして差し上げますわ。〜ざまぁ、ですわ!!〜

❄️冬は つとめて
恋愛
題名変えました。 【ざまぁ!!】から、長くしてみました。 王太子トニックは『真実の愛』で結ばれた愛するマルガリータを虐める婚約者バレンシアとの婚約破棄を狙って、卒業後の舞踏会でバレンシアが現れるのを待っていた。

【完結】孕まないから離縁?喜んで!

ユユ
恋愛
嫁いだ先はとてもケチな伯爵家だった。 領地が隣で子爵の父が断れなかった。 結婚3年。義母に呼び出された。 3年も経つのに孕まない私は女ではないらしい。 石女を養いたくないそうだ。 夫は何も言わない。 その日のうちに書類に署名をして王都に向かった。 私は自由の身になったのだ。 * 作り話です * キチ姑います

婚約破棄されてしまった件ですが……

星天
恋愛
アリア・エルドラドは日々、王家に嫁ぐため、教育を受けていたが、婚約破棄を言い渡されてしまう。 はたして、彼女の運命とは……

処理中です...