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8・似ているということ

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 ニディア嬢の態度は一貫していた。
 ただひたすらシュネス殿下に阿って、媚びて。縋って体を擦り付けて、可愛らしさをアピールして甘えていた。
 シュネス殿下がそんなニディア嬢にどんどん傾倒していっているのがよくわかった。
 今までその立場、能力ゆえに、人に甘えられたことなどなかったのだろう。
 だからこそ今まで満たされたことがなかったのだろう自尊心をくすぐられたのに違いない。
 わかっていて私たちは誰も止めず、ただ白けた気分で眺めるだけ。
 もともとシュネス殿下の周りには人がおらず、それがニディア嬢を側に寄せるようになって、ますます更に孤立していっているように見えたけれど、そんなことを二人は、全く気にもしていないようだった。
 そして今日もまた、

「シュネス様ぁ~!」

 なんて、甘ったるいニディア嬢の声が響く。それに応える、

「ははは、どうした、ニディア!」

 なんて言う、初めて耳にするのではないかと思うような、弾むようなシュネス殿下のお返事も。
 二人は下町の、庶民の、恥じらいを知らない恋人同士のように仲が良く見えた。
 そしてそれは私たちにとって決して悪いことではなく、だから皆が受け入れていたのである。
 とは言え、そのようなシュネス殿下のご様子が、彼ご自身にお母君の耳に入らないはずがなく、私は王子妃教育とやらの名目で王宮に上がった際などに、

「貴方、情けなくも平民上がりの小娘なんかに立場を脅かされているそうね」

 などとはっきり咎められたりしたけれど、

「……シュネス殿下が、お望みでおられるようなので……」

 とあくまで殊勝な態度を貫いていれば、

「ふん。わかっているなら貴方も精々、あの子の機嫌を取ることよ」

 などと発破をかけられるだけで済んだりなどした。
 おそらく王妃は、どうでもいいと思っていたのだろう。
 否、私を侮って、私が今の立場にしがみつくと考えていたのか。
 だからシュネス殿下の機嫌を取れなどと言う。
 何も返さない私のことも気にした様子のない王妃は、結局ご自身の物差しでしか、物事を図れない人なのだ。
 そしてそこから外れる存在をことごとく認められない人。
 きっとそんな風に、ニディア嬢を小娘などと言っているけれど、多分王妃は私のことよりも、ニディア嬢のことの方が理解しやすいと判断することだろう。
 そしてそれはつまり、彼女の方にこそ、好感を持ちやすいということに他ならない。

(シュネス殿下と王妃様はよく似ておられるから……)

 きっと違うのは性別だけ。そのようなお二人だから。
 もしかしたら少し接するだけで、王妃もまたニディア嬢のことを気に入るのかもしれないと思うと、なんだか私は可愛そうになってしまった。
 それは勿論、ニディア嬢のことが、だった。

(だって、気に入られてしまったら、それは……)

 逃れられない、ということなのだから。
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