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5・少女と殿下

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「シュネス殿下は凄いですぅー! 私、尊敬しちゃぁう!」

 きゃるきゃると媚びるような高い声が辺りに響く。
 可愛らしいと言えるものだとは思うのだが、言っている言葉と対照を踏まえ、どうしても辺りの空気を白けさせてしまうものであることだけは確かだった。
 第二王子殿下……――シュネス殿下は間違っても、「凄い」と称せるような、他者より優秀な部分が何もない。
 精々が、得意なのだろうと思われる分野で平均的な様子を見せるのが関の山で、他などいっそ、出来ないと言い切ってもいいような有り様なのである。
 なにせ全く努力などは、なされたりなさらない方だから。
 それどころか、出来るだけ勉学などの煩わしいことからは遠ざかろうとしておられまでするような方だった。
 加えて、選民思想を隠さない、傲慢極まりない態度などを含め、いったいどこに尊敬できる部分があるというのか。
 全く理解できないが、言われたシュネス殿下は満更でもない様子で、時に得意げにまでしておられる始末。
 どうしようもない方だなと、私などは溜め息を禁じ得ないような状況だった。
 そんな風に、ファミニディシア・イポシュニエ……――ニディアという愛称であるらしい彼女は、まさに私達の探していた理想的な存在のようだったのである。
 あからさまな媚びは、見ていて痛々しいほどだったが、シュネス殿下にとっては効果的であったらしく、

「はは。ニディアはよくわかっているじゃないか! どこかの誰か・・・・・・とは大違いだなぁ。おい、聞いてくれよ、皆、私の凄さを理解しないんだ!」

 などと機嫌よく、むしろ自ら進んでニディアを側から離さないようになるのに、それほどの時間などかからなかったのだ。
 こちらに聞こえるように強調したのだろう、どこかの誰か・・・・・・とやらが誰に対する当てこすりなのかなんてあまりにも明らかだったが、当然私は反応せず、遠巻きに彼らを眺めるだけだった。
 そうしたらシュネス殿下は鼻白まれて、

「ふんっ! どいつもこいつもっ! 私を何だと思っているのかっ! 私は王太子、未来のこの国の国王だぞ?! もっと敬われてもいいはずだっ! なにせこの国唯一の、正統なる・・・・後継者なのだからなぁ!」

 どの口が正統だとか言っているのかと思わなくもないが、今となっては唯一の王子であることは間違いがなく、また、母親が王妃様であることも、動かしがたい事実ではあった。
 ただし、明確に王妃様に興味を持たれていない国王陛下が父親であるのか否かは疑わしいところではあったのだが。
 それは言い出したらキリがなかったし、いずれにせよ、シュネス殿下が国王になられると、この国は終わるのだろうなということだけは確かで。
 それをわかっているのかいないのか、ニディアは、

「全く、その通りでございますわねぇ! シュネス殿下は尊くておられるのにぃっ」

 などと賛同したりなどしていて、

「そうだろう、そうだろう、はは、本当にお前はよくわかっている」

 という風によりシュネス殿下のご気分を気持ちよくさせているようだった。
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