6 / 21
5・少女と殿下
しおりを挟む「シュネス殿下は凄いですぅー! 私、尊敬しちゃぁう!」
きゃるきゃると媚びるような高い声が辺りに響く。
可愛らしいと言えるものだとは思うのだが、言っている言葉と対照を踏まえ、どうしても辺りの空気を白けさせてしまうものであることだけは確かだった。
第二王子殿下……――シュネス殿下は間違っても、「凄い」と称せるような、他者より優秀な部分が何もない。
精々が、得意なのだろうと思われる分野で平均的な様子を見せるのが関の山で、他などいっそ、出来ないと言い切ってもいいような有り様なのである。
なにせ全く努力などは、なされたりなさらない方だから。
それどころか、出来るだけ勉学などの煩わしいことからは遠ざかろうとしておられまでするような方だった。
加えて、選民思想を隠さない、傲慢極まりない態度などを含め、いったいどこに尊敬できる部分があるというのか。
全く理解できないが、言われたシュネス殿下は満更でもない様子で、時に得意げにまでしておられる始末。
どうしようもない方だなと、私などは溜め息を禁じ得ないような状況だった。
そんな風に、ファミニディシア・イポシュニエ……――ニディアという愛称であるらしい彼女は、まさに私達の探していた理想的な存在のようだったのである。
あからさまな媚びは、見ていて痛々しいほどだったが、シュネス殿下にとっては効果的であったらしく、
「はは。ニディアはよくわかっているじゃないか! どこかの誰かとは大違いだなぁ。おい、聞いてくれよ、皆、私の凄さを理解しないんだ!」
などと機嫌よく、むしろ自ら進んでニディアを側から離さないようになるのに、それほどの時間などかからなかったのだ。
こちらに聞こえるように強調したのだろう、どこかの誰かとやらが誰に対する当てこすりなのかなんてあまりにも明らかだったが、当然私は反応せず、遠巻きに彼らを眺めるだけだった。
そうしたらシュネス殿下は鼻白まれて、
「ふんっ! どいつもこいつもっ! 私を何だと思っているのかっ! 私は王太子、未来のこの国の国王だぞ?! もっと敬われてもいいはずだっ! なにせこの国唯一の、正統なる後継者なのだからなぁ!」
どの口が正統だとか言っているのかと思わなくもないが、今となっては唯一の王子であることは間違いがなく、また、母親が王妃様であることも、動かしがたい事実ではあった。
ただし、明確に王妃様に興味を持たれていない国王陛下が父親であるのか否かは疑わしいところではあったのだが。
それは言い出したらキリがなかったし、いずれにせよ、シュネス殿下が国王になられると、この国は終わるのだろうなということだけは確かで。
それをわかっているのかいないのか、ニディアは、
「全く、その通りでございますわねぇ! シュネス殿下は尊くておられるのにぃっ」
などと賛同したりなどしていて、
「そうだろう、そうだろう、はは、本当にお前はよくわかっている」
という風によりシュネス殿下のご気分を気持ちよくさせているようだった。
11
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~
可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。
悪役令嬢より取り巻き令嬢の方が問題あると思います
蓮
恋愛
両親と死別し、孤児院暮らしの平民だったシャーリーはクリフォード男爵家の養女として引き取られた。丁度その頃市井では男爵家など貴族に引き取られた少女が王子や公爵令息など、高貴な身分の男性と恋に落ちて幸せになる小説が流行っていた。シャーリーは自分もそうなるのではないかとつい夢見てしまう。しかし、夜会でコンプトン侯爵令嬢ベアトリスと出会う。シャーリーはベアトリスにマナーや所作など色々と注意されてしまう。シャーリーは彼女を小説に出て来る悪役令嬢みたいだと思った。しかし、それが違うということにシャーリーはすぐに気付く。ベアトリスはシャーリーが嘲笑の的にならないようマナーや所作を教えてくれていたのだ。
(あれ? ベアトリス様って実はもしかして良い人?)
シャーリーはそう思い、ベアトリスと交流を深めることにしてみた。
しかしそんな中、シャーリーはあるベアトリスの取り巻きであるチェスター伯爵令嬢カレンからネチネチと嫌味を言われるようになる。カレンは平民だったシャーリーを気に入らないらしい。更に、他の令嬢への嫌がらせの罪をベアトリスに着せて彼女を社交界から追放しようともしていた。彼女はベアトリスも気に入らないらしい。それに気付いたシャーリーは怒り狂う。
「私に色々良くしてくださったベアトリス様に冤罪をかけようとするなんて許せない!」
シャーリーは仲良くなったテヴァルー子爵令息ヴィンセント、ベアトリスの婚約者であるモールバラ公爵令息アイザック、ベアトリスの弟であるキースと共に、ベアトリスを救う計画を立て始めた。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ジャンルは恋愛メインではありませんが、アルファポリスでは当てはまるジャンルが恋愛しかありませんでした。
婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。
藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」
婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで←
うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。
【完結】ああ……婚約破棄なんて計画するんじゃなかった
岡崎 剛柔
恋愛
【あらすじ】
「シンシア・バートン。今日この場を借りてお前に告げる。お前との婚約は破棄だ。もちろん異論は認めない。お前はそれほどの重罪を犯したのだから」
シンシア・バートンは、父親が勝手に決めた伯爵令息のアール・ホリックに公衆の面前で婚約破棄される。
そしてシンシアが平然としていると、そこにシンシアの実妹であるソフィアが現れた。
アールはシンシアと婚約破棄した理由として、シンシアが婚約していながら別の男と逢瀬をしていたのが理由だと大広間に集まっていた貴族たちに説明した。
それだけではない。
アールはシンシアが不貞を働いていたことを証明する証人を呼んだり、そんなシンシアに嫌気が差してソフィアと新たに婚約することを宣言するなど好き勝手なことを始めた。
だが、一方の婚約破棄をされたシンシアは動じなかった。
そう、シンシアは驚きも悲しみもせずにまったく平然としていた。
なぜなら、この婚約破棄の騒動の裏には……。
転生令嬢だと打ち明けたら、婚約破棄されました。なので復讐しようと思います。
柚木ゆず
恋愛
前世の記憶と膨大な魔力を持つサーシャ・ミラノは、ある日婚約者である王太子ハルク・ニースに、全てを打ち明ける。
だが――。サーシャを待っていたのは、婚約破棄を始めとした手酷い裏切り。サーシャが持つ力を恐れたハルクは、サーシャから全てを奪って投獄してしまう。
信用していたのに……。
酷い……。
許せない……!。
サーシャの復讐が、今幕を開ける――。
婚約破棄の特等席はこちらですか?
A
恋愛
公爵令嬢、コーネリア・ディ・ギリアリアは自分が前世で繰り返しプレイしていた乙女ゲーム『五色のペンタグラム』の世界に転生していることに気づく。
将来的には婚約破棄が待っているが、彼女は回避する気が無い。いや、むしろされたい。
何故ならそれは自分が一番好きなシーンであったから。
カップリング厨として推しメン同士をくっつけようと画策する彼女であったが、だんだんとその流れはおかしくなっていき………………
殿下、あなたが求婚した相手はわたくしではありません
仲室日月奈
恋愛
「十六歳の誕生日、おめでとうございます。あのときの約束を覚えていますか? 俺はあのときのことを忘れたことはありません。もう一度、改めてプロポーズさせてください。どうか、俺の妃になっていただけませんか」
突然の求婚に、ヴェルハイム伯爵令嬢のステラはただただ困惑した。
目の前には見目麗しい第三王子が跪いている。
けれど、どれだけ記憶を呼び起こしても、そんな約束をした覚えはない。
これは、勘違いから始まる恋のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる