上 下
3 / 21

2・家族の総意

しおりを挟む

 我が国の陛下は、とかく我が国自体に一切関心を持たれない方だった。
 元々国王になりたくてなった方ではなく、仕方なくその立場を受け入れざるを得なかったのだとは聞いていた。
 そのおかげと言えばいいのか、その所為と言えばいいのか、王妃様とご実家の侯爵家は、陛下を差し置いて国主のような顔をして、いつの間にか好き勝手にこの国を動かすようになってしまっていた。
 当然彼らは、国民のことを第一に考えるような高尚な思想を持った方たちでは全くない。
 私の生まれた侯爵家の役割は、そんな王宮、否、王妃様とご実家の侯爵家と、国民との間を取り持つようなものだった。
 王妃様や公爵家の方々を諫め、宥め、可能な限りご希望に添うようにしながら、民に影響がいかないようにできるだけ苦心する。
 逆に言えばそれが、高位貴族としての務めであると、少なくとも父は、まるで自分に言い聞かせるかのように幾度となく口にしていた。
 そんな中での、不本意な私への婚約の打診と、他でもない第二王子殿下ご本人の態度である。
 早晩、国を見限るようになり、それは私の希望とも合致した。
 つまり、第二王子殿下との婚約の破棄は、我が家の総意ということだ。
 とは言え、そう決まったとして、では一体どうすればそのようなことが出来るのか。
 少なくとも我が家からは決して言えない。
 第二王子殿下から希望してもらう必要があった。
 それでいて余計な罪をかぶったりなども、しないようにしなければならない。
 いったいどうすればいいのか、具体案を思いつかないまま年を経て、もういっそ物語などを参考にするのはどうだろうと考え付いたのは、中等部の卒業を控え、高等部への進学も近づいてきた時だった。
 奇しくも、第二王子殿下が私を疎んじているのは間違いない。
 加えて第二王子殿下は、お世辞にも優秀な方とは言い難かった。
 勉強や鍛錬などもサボりがちで、その癖ご自身のお生まれには誇りを持って驕っている。
 第二王子殿下の周りには、当然、殿下に賛同する者しかおらず、すでに王家自体に見切りをつけている父も私も何も言わず、しかし何も言わずにいたからこそ、王妃様から敵意を向けられずに過ごすことが出来たと言っていい。
 とにかく、多分些細なきっかけ・・・・・・・があれば、思う通りに進めることはできるのではないかと思われた。
 参考にする物語は、時間がない中、慎重に吟味した。
 私から直接殿下にお伝えすることはできないし、そもそもそういった機会も持てない。
 取れる手段は人づてのみ。
 幸い、殿下の周囲の者たちにまで、私が避けられているというようなことはなかったし、有難くも私自身を慕って下さっている方などもいて、しっかりとした道筋さえ示せれば、誘導することは可能だった。
 そうして選んだ物語は一冊の本。否、いくつもある、同じような物語。
 いわゆるラブロマンス小説である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~

可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。

悪役令嬢より取り巻き令嬢の方が問題あると思います

恋愛
両親と死別し、孤児院暮らしの平民だったシャーリーはクリフォード男爵家の養女として引き取られた。丁度その頃市井では男爵家など貴族に引き取られた少女が王子や公爵令息など、高貴な身分の男性と恋に落ちて幸せになる小説が流行っていた。シャーリーは自分もそうなるのではないかとつい夢見てしまう。しかし、夜会でコンプトン侯爵令嬢ベアトリスと出会う。シャーリーはベアトリスにマナーや所作など色々と注意されてしまう。シャーリーは彼女を小説に出て来る悪役令嬢みたいだと思った。しかし、それが違うということにシャーリーはすぐに気付く。ベアトリスはシャーリーが嘲笑の的にならないようマナーや所作を教えてくれていたのだ。 (あれ? ベアトリス様って実はもしかして良い人?) シャーリーはそう思い、ベアトリスと交流を深めることにしてみた。 しかしそんな中、シャーリーはあるベアトリスの取り巻きであるチェスター伯爵令嬢カレンからネチネチと嫌味を言われるようになる。カレンは平民だったシャーリーを気に入らないらしい。更に、他の令嬢への嫌がらせの罪をベアトリスに着せて彼女を社交界から追放しようともしていた。彼女はベアトリスも気に入らないらしい。それに気付いたシャーリーは怒り狂う。 「私に色々良くしてくださったベアトリス様に冤罪をかけようとするなんて許せない!」 シャーリーは仲良くなったテヴァルー子爵令息ヴィンセント、ベアトリスの婚約者であるモールバラ公爵令息アイザック、ベアトリスの弟であるキースと共に、ベアトリスを救う計画を立て始めた。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。 ジャンルは恋愛メインではありませんが、アルファポリスでは当てはまるジャンルが恋愛しかありませんでした。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。

藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」 婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで← うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。

【完結】ああ……婚約破棄なんて計画するんじゃなかった

岡崎 剛柔
恋愛
【あらすじ】 「シンシア・バートン。今日この場を借りてお前に告げる。お前との婚約は破棄だ。もちろん異論は認めない。お前はそれほどの重罪を犯したのだから」  シンシア・バートンは、父親が勝手に決めた伯爵令息のアール・ホリックに公衆の面前で婚約破棄される。  そしてシンシアが平然としていると、そこにシンシアの実妹であるソフィアが現れた。  アールはシンシアと婚約破棄した理由として、シンシアが婚約していながら別の男と逢瀬をしていたのが理由だと大広間に集まっていた貴族たちに説明した。  それだけではない。  アールはシンシアが不貞を働いていたことを証明する証人を呼んだり、そんなシンシアに嫌気が差してソフィアと新たに婚約することを宣言するなど好き勝手なことを始めた。  だが、一方の婚約破棄をされたシンシアは動じなかった。  そう、シンシアは驚きも悲しみもせずにまったく平然としていた。  なぜなら、この婚約破棄の騒動の裏には……。

転生令嬢だと打ち明けたら、婚約破棄されました。なので復讐しようと思います。

柚木ゆず
恋愛
 前世の記憶と膨大な魔力を持つサーシャ・ミラノは、ある日婚約者である王太子ハルク・ニースに、全てを打ち明ける。  だが――。サーシャを待っていたのは、婚約破棄を始めとした手酷い裏切り。サーシャが持つ力を恐れたハルクは、サーシャから全てを奪って投獄してしまう。  信用していたのに……。  酷い……。  許せない……!。  サーシャの復讐が、今幕を開ける――。

婚約破棄の特等席はこちらですか?

A
恋愛
公爵令嬢、コーネリア・ディ・ギリアリアは自分が前世で繰り返しプレイしていた乙女ゲーム『五色のペンタグラム』の世界に転生していることに気づく。 将来的には婚約破棄が待っているが、彼女は回避する気が無い。いや、むしろされたい。 何故ならそれは自分が一番好きなシーンであったから。 カップリング厨として推しメン同士をくっつけようと画策する彼女であったが、だんだんとその流れはおかしくなっていき………………

殿下、あなたが求婚した相手はわたくしではありません

仲室日月奈
恋愛
「十六歳の誕生日、おめでとうございます。あのときの約束を覚えていますか? 俺はあのときのことを忘れたことはありません。もう一度、改めてプロポーズさせてください。どうか、俺の妃になっていただけませんか」 突然の求婚に、ヴェルハイム伯爵令嬢のステラはただただ困惑した。 目の前には見目麗しい第三王子が跪いている。 けれど、どれだけ記憶を呼び起こしても、そんな約束をした覚えはない。 これは、勘違いから始まる恋のお話。

処理中です...