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1・私について
しおりを挟む我が国の王室は少し変わっていると私は思う。
とにかく王妃様の権力が強いのだ。
それは偏に、本来なら王太子となるはずの第一王子殿下のお母君が、他国の王族でありながら何故か陛下の妃にはならなかったからであり、陛下は陛下で、しかしそのお母君にご執心で、むしろちっとも国を顧みたりなさらなかったからなのだろう。
実際に国を支えてきたのは、王妃様とそのご実家であられるのは間違いないことなので、ある程度は仕方がないことなのかもしれないとは思う。
そもそも、第一王子殿下ご自身、本当に陛下のお子様なのかと疑問の声が上がることもしばしばで。
王妃様はむしろ否定するどころか率先して、
『卑しい生まれのくせにっ!』
などと蔑んでおられるようだった。
王妃様は第一王子殿下への憎しみやら恨みやらを全くお隠しになられていないらしい。
その話を父から聞いて、仮にも一国の王妃であるはずの人間が、取っていい態度なのだろうか、と幼心に思ったものである。
だけど王妃様のご実家は先も述べたように国を直接支えている侯爵家。
誰も逆らえずにいるのだとか。
そのような王妃様からお生まれになった第二王子殿下は第一王子殿下より五つ下でありながら、生れてすぐに王太子として定められた。
それまではあくまでも仮の立場となっていて、第一王子殿下が最後まで立太子に至れなかったのとは大きな違いである。
もっともその第一王子殿下も、13を迎える少し前、お母君の故国の学校に通われるということで、王宮から居なくなってしまわれたようだったけれども。
その後ご卒業と同時に一度お戻りになられはしたけれど、そのまますぐに他国へと嫁いで行かれたのだと聞いている。
それが今からちょうど五年前の話。
私は、
(体よく厄介払いされたのだろう)
と思ったのを覚えている。
意外だったのはそのご婚姻を、如何に王妃様が勧められたからと言って、陛下が率先してお決めになられたということ。
そういった決断など何もなさらない方だとばかり思っていたので驚いたのを覚えている。
そのような少しばかり、他国とは様子の違う王室のある国で、私は侯爵家の長女として生まれてきた。
王妃様のご実家の侯爵家とは、違う侯爵家だった。
これまで一切婚姻を結んだことがない、だなんてことはあるはずがないので、遠い親戚ではあるのだけれど。
偶然にも第二王子殿下と同じ年だった私は、どうやら幼くして王妃様のお目に留まったらしく、婚約を結ばざるを得なくなったのは、私や第二王子殿下が授乳も済ませていない、1歳になる前のことだったと聞いている。
『お断りしきれなかった……すまない』
そう、父から謝罪を受けたのは、いったいいくつの時だっただろうか。
父はせめてもう少し年が大きくなってからと王妃様に食い下がられたのだそうだが、逆に反感を買いそうになって、結局受けざるを得なかったらしい。
その時からすでに、王妃様は今の片鱗がおありになって、何をされるのかわからなかったと父は言っていた。
さて、そのように幼くして、婚約者となった私と第二王子殿下ではあったのだが、ならば幼い頃からさぞや交流を持たせられたことだろうと通常なら考えると思うのだが、実際にはまったくそのようなことはなかった。
むしろ、
『は。オマエごときがこのボクのコンヤクシャとはなっ』
などと幼くして吐き捨てられまでした程で、はっきりと第二王子殿下は、私を避けておられる始末だった。
そのような相手をどうしてお慕いできるというのだろうか。
私がむしろ第二王子殿下との婚約を解消したいと思うようになったのは当然のことだったのではないかと思う。
だからこそ私はそれが実を結ぶように、動かざるを得なかったのだ。
「それでも……誰かを犠牲にしたいわけでは、なかったわ……」
ぽつり、呟く。
王宮はもう、遠かった。
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