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第2話・過去と今
2-00・始まりの日
しおりを挟む「お願いしますっ! 姉さんを助けて下さいっ!」
襤褸のような粗末な服を身にまとった一人の少年が、床に額づけて懸命に願っていた。
場所は小さな社の一角。
外からだと、ともすれば納屋か何かにも思えそうなほど小さく見えるそこは、だけど中に入ってしまうと驚くほどキレイで大きくて。
ほんのつい今さっき、一度足を踏み入れると同時、臆したように震えた少年は、だけど目の前の女性に気付いた途端、今のようにその場で身を伏せたのである。
そんな少年の後頭部を前に、女性は面倒くさそうな顔を隠さない。
女性がいるのは、少し小上がりになっている部分。
そこにこれでもかと敷き詰められた布の上、女性は億劫そうに寝そべったまま、起き上がることすらしなかった。
女性が、長く櫛を通していないのか、ぼさぼさなままの、まるで老人のように白い髪に覆われた後ろ頭をぼりぼりと掻く。
けれど半面、女性の顔にはしわやシミなど一つもなく、真っ白に透き通っていて。それは赤みの強い瞳も相俟って、この世ならざる美しさを誇っていた。
それは少年にも伝わったのだろう、だからこそ少年は今、こんな体勢で願っていて。
諸々を踏まえても、女性はやはり、面倒くさいとしか思わなかった。
女性が深く溜め息を吐く。
「……助けてって言われても……状況も何もわからないんじゃ、どうしようもないわよ。それにそもそも、それ、私に関係あるの? てゆっか、なんで私が助けなきゃいけないのよぉ……やっぱ、もう少し早く場所は移動しておくべきだったわね……ねぇ、玄夜くん」
女性が後ろを指して呼び掛けた。
すると今まで何もなかったそこに一人の影。
「そんなこと言って……どうせあなたは放っておけないんじゃないですか? 素直にとっとと助けてあげればいいと思いますけどね」
ごねたって結局、結果は変わらないんですから。
呆れたような声音に、女性はむっと口を尖らせた。
「んもぉ、玄夜くんのくせに生意気よぉ! ま、でも……仕方ないかなぁ。全くの無関係ってわけでもなさそうだし。……いいわ、少年。助けてあげる」
女性の言葉に、少年はぱっと顔を上げた。
その頬は期待に赤く染まり、喜色に塗れている。だけど。
「でも。勿論、何の見返りもなくってわけにはいかないの。わかるでしょ?」
少年の喜びに、まるで釘を刺すかのように女性は更にゆるりと笑んで言葉を続けた。
後ろで玄夜と呼ばれた影が、呆れたように溜め息を吐く。
だけど、少年の目は、女性から全く逸らされることはない。
何故なら、意味ありげな女性の笑み。
それはやはりどこまでも、あり得ないほどに美しかったから……――。
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