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第1話・みぃちゃん
1-09・仕事
しおりを挟むなにせ見る限り、少女には実体がない。
ヨウコは抱え上げたりしていたけれども、実は同じことが玄夜に出来るかというと、ある意味微妙な所だった。
先程、袖をめくってやれば、などと思ったけれど、ならそれが実行できたかというと、玄夜には判断出来ないのである。
ヨウコもそれは理解しているのか、いつもと違って、玄夜に少女を運べなどと言わず、自分で布団へと寝かせていたのだから。
だから本来なら今の少女には、食事も睡眠も必要ではないはずだった。風呂や着替えなども同じだ。
なのに今、少女は眠っている。玄夜とヨウコ、二人共の横に位置する布団の中で、すやすやと寝息を立てていた。
そうして見ると、少女はごくごく普通の少女にしか見えなかった。
どこにでもいるような、小さな子供だ。なのに。
「……依頼人、なんですよね…………」
" みぃ ち やん を さ が して ”
『みぃちゃん』が何かさえわからない。
先程までの少女の様子を見る限り、少女自身に訊ねても、詳しいことなど何も、わかるとは思えなかった。
言葉にして教えてくれても、要領を得ない可能性が高い。
それでどうしてどうやって探すのか。
急ぐ必要も、おそらくはある。
とは言え、玄夜に出来ることなどなく、何よりこれは、ヨウコの『仕事』に他ならなかった。
普段から怠惰極まりなく、働きたくないなどと豪語していながら、それでも実は、ヨウコ自身が定めた彼女の『仕事』だ。
義務も義理も何もない、なのにやると決めたのはヨウコ自身。
だから玄夜はいつも、それを彼女自身に突き付けているに過ぎなかった。
他でもない彼女自身が、玄夜がそうすることを望んでいるというのを知っていたからだ。
ヨウコがまた、溜め息を吐く。
めんどくさそうに。億劫そうに。
ややあってからぼそぼそと口を開いた。
「……ほんとはさぁ、探すまでもないんだよねぇ。確証はないから、多分、にはなるんだけど、あの子を此処に連れてきたのもそのみぃちゃんとやらだろうし。今も近くにいるんじゃないかな」
ただ、ここへは入って来られないだけで。
それはヨウコが招いていないからなのだろう、否、違う、そうではなくて。
「あの子の、為ですか……?」
敢えて近づかないでいる?
思い至ったままを口にした玄夜に、ヨウコは小さく頷いた。
「限界だって、そのみぃちゃんとやらも思ったんでしょ」
だからこそ少女はここにいるのだとヨウコは言った。
……――少し迷子になっていたみたいだから、探しに行く羽目にはなったんだけどね、とも。
「なるほど」
まったくよくわからなかったけれど、玄夜は頷いた。
にゃーお。
どこかで遠く、微か。
猫の声が聞こえたような気がした。
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