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第1話・みぃちゃん

1-00・前提

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 とある街の片隅。
 今にも朽ち果てそうな儚さでそれ・・はあった。
 正面の僅かな棚には雑誌。
 しかしそのどれもが、週刊誌などの人に求められるものではなく、いつ発行したのかさえ分からないようなそれ、そもそもいったいそれら・・・どこ・・が発行しているというのか。見たこともないようなものばかり。
 加えて一歩店内に入っても、整然と並べられた背表紙の文字は、やはり他で見ないようなものしかなくて。

(いったい誰が利用するのだろう……)

 誰もがそんな風な感想を抱く、しかしそこは書店だった。
 看板に書かれた文字はアヤカシ。
 怪しいことこの上ない。
 そんな小さな書店へと、今日もバタバタと駈け込む足音が一つ。
 そしてその足音は一番奥まったカウンターを超え、ついに。
 バタンっ!
 派手な音を立てて扉を開け放ったのである。

「ヨウコさん! いつまで寝てるんですかっ! 起きて下さいっ! もう夕方ですよ!」

 言いながら乱暴に靴を脱ぎ、中へと上がり込んだのは近隣の高校の制服を身に纏った青年。
 つやつやと真っ黒な前髪がうっとおしいほど長く、はっきりと片方の目を覆い隠している。
 青年の向かう先にあったのは……――布団の塊である。

「うぅん、まだ朝ぁ……」

 もぞもぞ動く布越しに、くぐもった声が届く。青年は怒りも露わに目の前の布団へと手をかけた。
 バサッ、勢いよく剥ぎ取ったその先にいたのはくるんと丸まった女性。
 バサバサの白い髪はまるで老婆のようだったが、顰められたその顔に、加齢による皺は見えない。
 掛け布団を剥ぎ取られてなお、起きようとしない彼女に、青年は今度こそはっきりと怒声を浴びせた。

「ヨウコさんっ! もう夕方ですっ!」

 それはこの書店においては、あまりにも見慣れた光景だった。
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