ヒロイン何も覚えてない!

猫之介

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ヒロインは日本人

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入学式当日。
多くの生徒が校長先生の話に耳を傾けていた。
スフェーン学園。このゲームの舞台だ。
ヒロインはこの学園で1年を過ごす。異世界から現れて住む場所が無い彼女は学園の寮で生活することになる。
同室の大きな眼鏡で三つ編みをした、キャサリンという女の子がサポートキャラクターとして彼女にこの世界についての説明や、ヒロインの成長や恋愛関係がどのくらい進展しているのかを教えてくれるのだ。

ただ、学園内の生徒を先ほどざっと見てみたが、キャサリンの姿は見つからなかった。
先ほど新入学生代表として挨拶した際に、壇上からじっくり目を凝らしたが、そもそも眼鏡をしているキャラクターが攻略キャラの男子一人しかいないという。
眼鏡をしている男子キャラはヘンリー・クラーク。2年生で、魔法に長けた生徒。
異世界から来たヒロインにかなり興味を持って接してくるが、2年生という事で接触する回数が少ない為、交流回数の多い王子よりは少し攻略難易度は上がるが、元々も好感度が高いので、割と攻略しやすいキャラでもある。
オレンジ色の、太陽のような髪と瞳をもっており、一応ぱっと見は知的キャラ風だが中身はワンコ系だ。
そして本来であれば生徒代表として挨拶するはずだった私の婚約者である王子、アレキサンダー・キャンベル。
髪は紫色から赤のグラデーション、瞳は青と新緑のグラデーションというキャラクターの中で一番色味が多いキャラだ。
ちなみに、王子の髪色と似ている事を私は少し自慢だったりする。
本来のルビーナの場合は王子と同じ髪色を自慢して歩いている。そうだろうな、大好きな人と同じものを持っているというのはそれだけでうれしくなってしまうものだから。
私は王子が嫌いではない。どちらかと言えば好きな部類ではある。
ただ、ゲーム道理の好意を私が王子に対して持っていた場合は、ヒロインと仲良くなったら間違いなく排除しようとするだろう。だから、少しだけ王子とは距離を置いていた。
本気で好きになったら、今の私の能力だったらヒロインをサクッと闇討ちしそうだからだ。
少々私は過激派な所がある。
普段は気を付けているが、むきになったり興奮すると暴走する。
これはルビーナの性格と、私本来の性格が共通している所為だと思う。
好きなことになると相手がどんな顔をしていても気にせず語りつくしたり、プレゼン始めたり、強引な勧誘を行ったりしていたので……その、死んで冷静に見てみると、結構痛い性格だったんだなと。
分ったとしても、一回死んだくらいでは変わらないらしい。
最初にこの世界がゲームの世界だと思い出した時は家族にドン引きされるほど奇声をあげて枕を抱えてベッドの上でのたうち回った。
家族は、熱にうなされての奇行という事で納得してくれた。

とりあえず、この年になってよほどのことが無ければ暴走はしないと思ってはいるが、思っているだけなので現実で出来ているかは分からない。
この乙女ゲームは戦闘がある為、ヒロインのデザインもしっかり書き込まれている。
雪のように白い髪のヒロインはとてもかわいかったのだ。
この世界に召喚されたことで、髪色が変化したという設定で、その結果聖女としての力を覚醒していく。
最後はヒロインが聖女としての力を使い切り、本来の黒い髪に戻るのだが、逆ハーレムエンドの時は聖女の力を残しているので髪は変わらず白のままだ。

そして、校長先生の話が終わって、壇上から誰もいなくなったタイミングで光の塊が出現し、塊が破裂すると、光のエフェクトと共に、白く長い髪の美少女が姿を現した。
彼女がヒロイン、石風信子(いしかぜのぶこ)
奇跡の聖女として、異世界から来たというのにいろいろな属性の魔法を使う事が出来き、闇を払う事が出来る光を秘めている。
この光を解放する条件が恋心なのだが、それは歴史には残っていない。
騎士と聖女が魔を払った、これだけだ。
ヒロインは周囲を見回し、明らかに混乱している。
ゲームでもそうだった。ただ、その時は王子が「貴方は、奇跡の聖女では?」と言って彼女の下に駆け寄る。
そうなるだろうなと、王子に視線を向けるが、王子は驚いて固まっている。ほとんどの生徒がそうだ。教師たちも驚いて誰も動き出さない。
唯一会場内でヒロインに驚かず、周りを観察している私はヒロインとバッチリ目が合ってしまった。大きな瞳は涙を浮かべて壇上から飛び降りて一直線に私の下に走ってくる。
「ちょ、ちょっと!?どういうことですの?」
「うわーん!なにこれー!!訳わかんないんですけど!
私家に帰ろうとしてたのに、ここどこなの?イベント会場か何かなの?
なんでみんな茶髪とかド派手な髪色なの?怖いんだけど!」
ヒロインはなぜか私にしがみ付いて泣き出した。
「私が聞きたいですわ?なんで私に泣きつくの?」
「だって、だって、日本人顔してるのあなたしかいないじゃない!」
「……今、何とおっしゃいました?」
ヒロインはぐすぐす鼻をすすりながら、私の顔を指さす。
「だって、あなただけは黒髪で見慣れた日本人らしい顔なんだもん。他の人と違うから……ここどこなの?」
どういう事なのか。
彼女には私の事が黒髪の平たい日本人らしい顔だという。
その言葉に周りはざわつく。
黒い髪はこのゲームの中では魔族の象徴なのだ。
ヒロインのこの発言は、ルビーナは魔族かもしれないという印象付けになってしまうのだ。
なにせ、彼女は聖女だ。
実際、ゲームの中で私が魔族の手先になり、ヒロインたちを罠にはめようとしたときに魔族の気配を感じ取り他の人にそれを告げるシーンがある。
けれど、待ってほしい。
私はまだ、ルビーナだ。魔族との接触は一度もない。

だが、ヒロインの言葉で教師や生徒たちがざわめきだす。
そしていきなり私は教師に魔術で拘束されて、どこか知らない部屋に飛ばされた。
恐らく隔離処理されたのだろう。
ゲームの後半で私は確かにヒロインの言葉で捕まる事にはなるが、早すぎないだろうか?
もしかして、ヒロインもこの世界の事を知っている人だったら?
私が邪魔になると思って、真っ先に私を排除しようと考えているのかしら?
どうしましょう。いきなりヒロインと対立するつもりなんてないのに……いきなり先制攻撃されたわ。
部屋から出ることは難しくはない。
魔術で拘束されているとはいえ、解除方法を知っているし、この程度の術式なら普通に筋力で引きちぎれる。ドアもけ破れるけど、後でお母様に怒られるから止めておくしかないわね。
石作りの部屋には唯一ベッドだけ置かれている。
兎に角今は、ヒロインがどんな扱いを受けて、私がどうなるか言い渡されるまで待つしかないわね。
ベッドに腰かけて、誰かが来るまでぼーっと待っていた。

「ルー、げーんき?」
突然の声に驚く。目の前にはクロードの顔。
「なんで?」
「いや、迎えに来たんだよ。そしたら寝てるし」
体の拘束はいつの間にか解かれていた。どうやら私はぼーっとしている間にベッドの上でしっかり寝ていたらしい。布団もばっちりかけてある。
「私の扱いはどうなったの?」
「とくになにもないよ。あ、さっきの女の子は暫く学園の教師たちが面倒を見るみたい。
それにしても失礼な子だよね。なんでも聖女だって教師はいってたけど、どうだか」
ハンッ、とクロードは鼻で笑った。
「貴方は聖女伝説を信じないの?」
「聖女がいるとしたらルーじゃない?めっちゃ強いし」
にっこりと笑う。笑顔はどこか幼く見えるクロード。彼のキャラ設定は表向きは単純で真っすぐ、脳筋的だが裏設定があり、親密度が高くなった相手にだけ見せる独占欲による狂気。
攻略した時にあの狂気に歪む笑顔は結構好きだった。
「私が聖女なんてありえないわ。ちょっと強いだけで聖女になれるならすでにお母様が聖女になっているはずよ」
「確かに、ルーのお母様は強いよな」
「……あの、クロード?もしかして、学園でもルーって呼び続けるつもり?」
駄目なの?と首をかしげる姿はちょっとかわいく見えるが、そのあだ名はどうなのかと思う。私の事を狼とよんでいるのだから、他の人には聞かせたくない。
「……周りに誰もいない時だけならいいわ。人がいるときはちゃんと名前で呼んでちょうだい」
「りょーかい。じゃあ、二人っきりの時限定ね」
「はいはい」
その後、私は普通に1日目の授業を終えた。
あの騒動のせいで、教室では誰も近づいては来なかった。
クロードがクラスメイトで本当によかった。
前世でも一人だったから慣れているとはいえ、学園生活一人ぼっちをまた繰り返すのは少し寂しかったからだ。
明日以降、ヒロインがどんな扱いになるのか。それが気がかりだったが、私はとにかく今晩は疲れたので寝ることにした。


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