上 下
57 / 60

サルバドールとミミック

しおりを挟む
「どういう...こと...?」

隠しプログラムでいっぱいだった私の頭が一瞬で打ち砕かれ、混乱の一途を辿った。

今、何が起きているのか分からない。

ただまじまじとモニターに映し出されたミミックと呼ばれたサルバドールさんを見つめていた。

するとまた、モニターから声が聞こえてくる。

「ミミック、お前はなぜここにいるんだ?」

ビリオンは内に秘めた怒りを必死に隠そうとするが、それは顕著に出ていた。

「い、いや、その...」

サルバドールさんは焦っていた。何かあたふたした様子は伝わるが、なぜそんなに困っているのかは私には分からない。

サルバドールさんはサルバドールさんなんだから。ミミックじゃない。

それを分かってはいるのだが、私の中で変な予感が湧いてきた。

ミミックの方を見ると、酷く冷静で落ち着いていた。

なぜ何も反応しないんだ?

自分の名前が呼ばれているのに。

私はいよいよ混乱してきた。

訳が分からない怒りの矛先をミミックと言いながらサルバドールさんに向けるビリオンとなぜか焦った様子のサルバドールさん。

そして、自分の名前が呼ばれているにもかかわらず、ノータッチなミミック。

「ねえ、これどういうことなんですか?」

「何がだ?親が息子に説教しているだけだろ」

私がお爺さんに問うても特に反応が無い。

そりゃそうか。この人はミミックと呼ばれた人がサルバドールさんとは知らないからだ。

心の中で不可解な納得をする。

とにかく私は居ても立っても居られなくなり、この部屋を飛び出した。

「おい、どこに行くんだ?」

「大事な人が困っているんです。尽くせる手は全て尽くします」

「アンタの日記はどうするんだ?」

「それは...私が出して欲しい時に合図しますから、その時に出してください!」

軽く口で伝えて、私は全速力で城を駆け回った。

会場に着いた頃にはヘトヘトだった。

私は新郎新婦のマルクとマリアが入ってきた大扉から勢いよく中へ入った。

「サルバドールさん!なにしてるの!?」

人々の注目は一気に私の方に向かった。

その中にはもちろんマルク、そしてマリアも入っている。

マルクは唖然と、マリアは強ばった顔をしていた。

きっとなぜ私がここにいるか不思議でしょうがないだろう。

でも、今はそんなことよりもサルバドールさんだ。私は2人の仲裁に入った。

「ちょっと、何言ってんのよ!この人はサルバドールさんですよ!」

私が大声で言うと、ビリオンはキョトンとした顔をしていた。

「何言ってんだ。サルバドールはここにいるだろ」

そう言いながらビリオンはミミックの方を指した。

「どう言うこと?」

「それにお前は誰なんだ?俺の大事な娘の結婚式を邪魔してんじゃねえぞ」

邪魔してるのはアンタだろと言いたったが、今喧嘩してもしょうがない。

ここは落ち着いて状況を整理した。

「待ってください。あの人はミミックじゃないんですか?」

私はミミックを指しながら言う。

「はぁ?お前なんなんだ?俺のサルバドールをミミック扱いしてんじゃねえぞ」

「どう言うことですか?ミミックはあなたの息子なんですか?」

「ちげえに決まってん...」

「そうだよ」

ビリオンの言葉を遮るようにサルバドールさんが言った。

「サルバドールもミミックもお前の息子だよ!!子供を十何年も間違えてんじゃねえよ!!!」

勢いよく飛び出したその言葉には積年の恨みがあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

なんだろう、婚約破棄の件、対等な報復を受けてもらってもいいですか?

みかみかん
恋愛
父に呼び出されて行くと、妹と婚約者。互いの両親がいた。そして、告げられる。婚約破棄。

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

裏切りの代償~嗤った幼馴染と浮気をした元婚約者はやがて~

柚木ゆず
恋愛
※6月10日、リュシー編が完結いたしました。明日11日よりフィリップ編の後編を、後編完結後はフィリップの父(侯爵家当主)のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。  婚約者のフィリップ様はわたしの幼馴染・ナタリーと浮気をしていて、ナタリーと結婚をしたいから婚約を解消しろと言い出した。  こんなことを平然と口にできる人に、未練なんてない。なので即座に受け入れ、私達の関係はこうして終わりを告げた。 「わたくしはこの方と幸せになって、貴方とは正反対の人生を過ごすわ。……フィリップ様、まいりましょう」  そうしてナタリーは幸せそうに去ったのだけれど、それは無理だと思うわ。  だって、浮気をする人はいずれまた――

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...