上 下
288 / 317
閑話10.家族の処遇(side:フロックス)

1

しおりを挟む
昼過ぎにクロキュスに呼ばれた
オリビエも側にいるがその顔は少し強張っていた
ここ数日で何かが起こったという記憶は特にないんだけどな…

今日はカフェの定休日で俺たち以外はこの場にいない
静けさに包まれた時間が心地悪くて話を切り出した
「何かあったのか?」
「ああ」
頷いてから少し沈黙が続いた
クロキュスがこんな態度を取るのは珍しい
一体何があったというのか…

「シルバーとブロンズの処遇が決った」

クロキュスの静かに告げた言葉に気を使われたのだと理解する
俺はシルバーの称号を持っていた
クロキュスのおかげでこの地に逃れたが、本来なら俺も罰せられる立場だ
称号持ちであることを嫌悪しながらも、少なからずその称号の恩恵は享受してきた事実は否定することが出来ない

「どうなるんだ?」
少し複雑な思いを抱えながらその先を訪ねた

「ソンシティヴュは一旦更地にする。その上で新たな町を作る」
「新たな町…」
「ああ。その撤去作業や新たな町の土台作りをさせることになった。それに期限内に更地に出来なければ一家そろって奴隷落ちになる」
奴隷落ちという言葉に家族の顔が頭の中に浮かんだ
でも明確に描くことができない自分に驚いた
考えてみれば最後にまともに顔を合わせたのはいつだったかさえ分からない

「その先も亡命者の住まう場所の開拓や僻地の開拓を生涯続けることになるらしい」
「…死ぬまで土木作業員ということか?」
「まぁ、そうなるな」
これまで民を愚民と呼びその上に胡坐をかいてきた称号持ちが、その民の為に働かなくてはならない
さぞかし耐えがたいことだろう
実の親や兄弟のことなのに俺は驚くほど他人事として感じていた

「…俺は…」
無関係ではないだけに少なからず何かあるはずだ
正直聞くのは怖いが聞かずにいれるはずもない

「お前はこの町に居る。それが全てだ」
クロキュスははっきりそう返してくれた
俺の中に生まれたのは驚きと感謝だった

騎士と魔術師として共に最前線で魔物と対峙していた日々を思い出す
俺が無条件で背を預けられるのはクロキュスとダビアだけだった
騎士や魔術師の他の特効や精鋭もそれなりに頼りにはしていた
でも、2人以外に命を預けるだけの信用は最後まで持ち得なかった
今俺がここにいれるのはそのクロキュスのおかげでしかない

「ただ…」
「?」
「お前の家族は…」
言いづらそうにしているクロキュスに苦笑する

「構わない。元々俺は兄上たちのスペアでしかなかったからな」
「…」
「お前も知ってるだろう?俺が物心つく前からあの家の使用人として生きてきたことを」
その話は過去に何度かしたことがある
自分自身のこと、あの国に対して思ってることと、今後のこと
色んな心の内をダビアとクロキュスと一緒に酒を飲みながら語ったのは一度や二度ではなかった
俺達は話すたびに絆を深めることが出来たんだ…

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

思惑をひと匙

BL / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:346

呪われてしまった異世界転生者だけど、今日も元気に生きています

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:19

復讐溺愛 ~御曹司の罠~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:522

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:30,182pt お気に入り:2,109

あの日、北京の街角で2 東京・香港編

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:48

初恋の還る路

恋愛 / 完結 24h.ポイント:333pt お気に入り:307

異世界ブシロード ~チートはいらないから剣をくれ!~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:96

処理中です...