上 下
235 / 317
86.薄情な家族(side:ソンシティヴュ)

1

しおりを挟む
フジェに攻め込んだ騎士は、カクテュスに着くなり即席で用意された牢から城の地下牢に移された
魔術師たちは全ての騎士に自害防止の魔術を施すと同時に、簡単な聞き取りを進める

その日のうちに個人が特定され、その情報をもとにソンシティヴュに入った魔術師と騎士達に捕らわれた者の家族が拘束された
数が多いため、比較的大きな屋敷をいくつか選び、その地下牢に入れることになったのだが…

***side 地下牢に入れられた家族***

「攻め入った息子とはすでに縁を切っているんだぞ!我が家とは関係ないはずだ!」
「うちだってそうよ。あんな野蛮な男は息子でも何でもありません!だから早くここから出しなさい!」
「そうよ!私はこんなところに入る様な人間じゃないのよ?早く出しなさいよ!ここから出たらあなた達なんてすぐに片付けてやるからね!」
ヒステリックに騒ぐ家族たちを冷めた目で一瞥する

「縁を切ろうが我々には関係ない。むしろ窮地に陥って家族を投げ出す者を我々は信用しない。それ以前に都合が悪くなったからと息子を切り捨てる等親として、人としてどうかと思うがな」
「!!」
その言葉に騒いでいたモノが一瞬で口を閉じた
まずいと思っても、吐き出した言葉を回収することは不可能だ

「連帯責任、運命共同体その辺の言葉の意味くらい知ってるだろ?」
「それが何だというのだ?」
「ソンシティヴュの称号持ちも王族も、わが身の事しか考えないことは有名だ。民を奴隷としか見ていないその考え方は、他の3国ではまず受け入れられない」
「だから何なのよ?私たちはその分王族にお金も納めてるのよ?その分贅沢をして何が悪いというのよ?」
「そうよ!贅沢するのは私たちの権利だわ」
「お金を納められない平民を奴隷として扱って何が悪いのよ?嫌なら何としてでもお金を作ればいいだけじゃない」
贅を尽くしたドレスを着た婦人の言葉にため息だけが返される

「今のうちに好きなだけ喚けばいい。だが、この先はあんたたちがしてきたことをやり返される番だと覚悟だけはしとくんだな」
「何だと?」
「どういう意味よ!?」
「あんた達だけで一体何ができる?塀で囲まれた今、食料の入手すら満足にできないくせに偉そうな口きくんじゃねぇよ」
「何ですって?」
「どれだけ金があっても売ってくれる商人がいなけりゃ何も手に入らない」
「自分の力だけでは身なりを保つことさえままならない」
その言葉に牢の中が一瞬静まった
贅を尽くしたドレスもよく見れば皺やシミが目立つ
髪はかろうじてとかしているという状態でしかない
男たちはひげを伸ばしたままか、髭剃りを失敗して傷を作っているかのどちらかしかいない
冷静になればなるほど、人前に出れるような身なりでないことを思い出すのだろう
女性は真っ赤になった顔を手で覆い、男性は顎元に手をやる

「それにしても滑稽だな。誰一人として使用人が残ってないとは…あんたたちがどんな接し方をしてきたのかよくわかる」
「少しでも心の通った接し方をしてれば残る者もいただろうにな」
それが一人もいないということはそれなりの接し方をしてきたということだ
情で残る者もいないのだから
家族たちが牢の中で責任の擦り付け合いを始めるのはこのすぐ後の事だった

***
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

白蓮の魔女 ~記憶喪失からはじまる契約婚? 時を逆行し記憶を失った令嬢ですが、バッドエンドを回避したら何故か溺愛がはじまりました!!

友坂 悠
ファンタジー
「——だから、これは契約による婚姻だ。私が君を愛する事はない」 気がついた時。目の前の男性がそう宣った。 婚姻? 契約? 言葉の意味はわかる。わかるけど。でも—— ♢♢♢ ある夜いきなり見知らぬ場所で男性からそう宣言された主人公セラフィーナ。 しかし彼女はそれまでの記憶を失っていて。 自分が誰かもどうしてここにいるかもわからない状態だった。 記憶がないままでもなんとか前向きに今いる状態を受け入れていくセラフィーナ。 その明るい性格に、『ろくに口もきけないおとなしい控えめな女性』と聞かされていた彼女の契約上の夫、ルークヴァルト・ウイルフォード公爵も次第に心を開いていく。 そして、彼女のその身に秘めた魔法の力によって危機から救われたことで、彼の彼女を見る目は劇的に変わったのだった。 これは、内気で暗い陰鬱令嬢と渾名されていたお飾り妻のセラフィーナが、自分と兄、そして最愛の夫の危機に直面した際、大魔法使い「白蓮の魔女」であった前世を思い出し、その権能を解放して時間を逆行したことで一時的に記憶が混乱、喪失するも、記憶がないままでもその持ち前のバイタリティと魔法の力によって活躍し、幸せを掴むまでの物語。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

処理中です...