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68.2度目の婚姻(side:王宮)

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その日オナグルはナルシスに呼び出された
「父上、ひょっとして歌姫が…?」
はやる心を抑えながらオナグルは尋ねた

「残念ながらその報告ではない」
ナルシスはため息交じりに言う

「では一体?」
「新たな正妃との婚姻の日取りが決った」
そう告げられたオナグルは明らかに不満そうな顔をした

「何度も言っただろう?たとえ歌姫を保護できたとしてもお前の正妃には勿論側妃にもできん。他の3国も我が国を疑い始めている今お前が囲うことも認めん」
「しかし…!」
「これは決定事項だ。お前が次の王となりたいなら、それは絶対条件だと思え」
ナルシスは吐き捨てるように言う

「お前がソラセナと交わした契約内容等以ての外だ。今回の婚姻の条件は新たに加わった1家を加えたゴールド4家で決められた。これがその書面だ」
「なぜ我ら王族を差し置いてゴールドが決めるんです?」
「お前が色々やらかしたからだ」
「色々…?」
「とにかく目を通せ」
そう言って渡された書類にはかなりの条項が記載されていた
その中でオナグルの目に留まったのは数点

『歌姫は保護次第、他の3国と相談して国賓として扱うこと。その際王太子オナグルが個人的に関わることを禁ずる』
『正妃となるマチルダ・ロクタビアの意思はゴールド4家の意思と同等とする。正妃として尊重し、敬い、次代を担う子を設けること。3年以内に子が出来ぬ場合、オナグルは廃嫡の上、塔へ幽閉とする』
『ゴールド4家とシルバー10家を含む議会を設け、政治に関することはその議会で可決した場合のみ執行するものとする。いかに些細なことも王家単独での執行は認めない』

「…一体王家を何だと思ってる?!」
書類を握りしめオナグルは怒りをあらわにした

「聖女や勇者ではなく歌姫を召喚したのがお前の独断だと既に知れ渡っている。そこにソラセナを正妃として迎えた挙句公開処刑したことで、称号持ちからは王家への信頼も敬意も失われた」
「は?」
唖然とするオナグルにナルシスはさらに続けた

「さらにお前が歌姫を手籠めにし、契約で囲った上、お前の元から逃げ出したことも掴まれていた」
「何で…」
「あれだけ騎士団に当たり散らせば当然だろうが。詰所付近は商人も出入りしている。どれだけ騎士団に契約させたとしてもお前自身から漏れたのは火を見るより明らかだ」
オナグルはそう言われて初めて自分が連日詰め所で怒鳴り散らしていたことを思い出す

「王家の、特にお前に対する失望は計り知れない。その上での称号持ちの決定だ。その条項に署名しない場合、お前は王家から追放されることもあり得るだろうな」
「そんな…」
オナグルはその場に崩れ落ちた

「歌姫に関することはお前が国を食い物にしたと判断された。王家から追放されれば即その命を狙われるだろう。その道筋は称号持ちなら簡単に整えることが出来るだろうからな」
「…」
「個人的な復讐で安易にとった行動の責任は自ら取りなさい」
「あなたには息子を思いやる気持ちは無いんですか?」
「先に親である私を切り捨てたのはお前じゃなかったか?」
「うっ…」
オナグルはさらりと切り返され言葉を飲み込んだ

「幼子ならともかくお前はもう成人した大人だ。自由には責任も伴うことくらい知っているだろう?」
「…」
「とにかく、婚姻は1週間後だ。生き延びたければ無駄なことは考えないことだ。そのためにも今日中にその書類にサインして宰相に提出しなさい」
ナルシスはそれだけ最後に告げると部屋から出て行った
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