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10.マスコミへの想い
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次の日2人が抱きしめ合っている写真が大半のスポーツ新聞のトップを飾った
「一哉!」
マンションのインターホンを押しながら誰かが呼んでいた
「…はい?」
ドアを開けると健二と隆が新聞をどっさり抱えて立っていた
「どうしたんすか?」
「どうしたもこうしたもないぞ。ほら」
健二は新聞のトップページを開いてみせる
「あ…」
「この相手って…」
健二の問いに苦笑する
「大丈夫なのか?」
「あ~…多分」
「多分ってお前」
「昨日プロポーズしました」
「は?」
2人は展開についていけない
「俺はもうあいつを離したくないから…あいつも受けてくれたし」
「…そっか」
2人は顔を見合わせる
「そういうことなら俺らは何も言うことないけど彼女の足のことが取り上げられるのは時間の問題だぞ?」
「…とりあえず入りませんか?」
一哉は2人をリビングに通しコーヒーを淹れた
「紗帆が1年前に姿くらましたのは言いましたよね?」
「あぁ」
「そのときあいつは手紙にこう書いてたんです。『これから絶対注目される俺の横で車椅子に乗ってる自分は考えただけでも惨めで泣けてくる』って」
「…」
「俺と一緒にいると何が起こるかあいつは誰よりもわかってる。それでも受けてくれたんです」
「…」
2人は黙り込む
「この1年であいつはたくさんの奇跡を起こしてきました。一生車椅子の生活だといわれてたあいつが自分の足で立つようになったんですから」
「まじ…で?」
「はい。それだけでも奇跡だと…でもあいつは今歩けるんです。そりゃはたから見たら変な歩き方に見えるかもしれない。それでも引きずらずに歩くんです」
「…」
「もしメディアがあいつの足の事を面白おかしく書いたならそのときは世界中の医療や福祉を敵に回すときですよ」
「確かに…」
「紗帆の足のことが取り上げられたとしたら今リハビリに取り組んでるすべての人間に希望を与えられるんじゃないかって、俺はそう思います」
そう言った一哉の顔は2人が今までに見たことのないくらい生き生きとしていた
この日から紗帆と一哉のまわりは文字通り慌しくなった
「…何か嘘みたい」
一哉のマンションのべランダで紗帆はそう言った
「何が?」
「私がここにこうしていること」
「…」
「優斗君のことでそれまで生活の中心だった陸上が出来なくなっていっそ死んだほうがマシだって本気で思った」
紗帆は静かに話す
「元々ね、両親が亡くなった寂しさを埋めるために走り続けてたの。そんな時に一哉に出会って毎晩会ってるうちにどんどん惹かれていくのに気付いて…なのに…」
「…」
「なのに走れないどころか立つことすら出来ないって言われて目の前真っ暗だった。誰に何言われても気休めにもならなくてたった一人で世界から取り残されていくみたいな感じで…だからあの時の一哉の言葉は本当にうれしかったんだよ?」
振り向いてそう言った紗帆は静かに笑っていた
「でも怖かった。全国大会に出ることが決まったときでさえ一哉の周りは眩しくてそんな一哉の横に並ぶのが怖くなった。新聞や雑誌で『悲劇のヒロイン』って取り上げられてる自分が何よりも嫌だったから…」
「紗帆…」
「日本を発つときに言い聞かせたの。一哉の気持ち踏みにじったんだからもう一哉のもとに戻ることは出来ないって。自分のプライドを取ったんだから一哉に望むことは許されないって…」
「…」
「でもどこかで望んでた。一哉が待っててくれること。だからどれだけ辛くても頑張れた」
その言葉に一哉もベランダに出た
「ありがと一哉。あの日公園に来てくれて…」
「それは俺の台詞だろ」
「え?」
「お前がいない間の俺は抜け殻だったんだ。…戻ってきてくれてありがとな」
2人はどちらからともなくキスをした
その日2人そろって記者会見に臨んだ
一哉に車椅子を押される紗帆の姿に皆が釘付けになる
予想を裏切ることなく紗帆の過去の話が持ち出された
それでも紗帆は静かに答えた
「確かに私は事故で足を駄目にしました。この会場にも当時『悲劇のヒロイン』として私の記事を書いてくださった方もおられると思います」
その言葉に記者の中で苦い顔をするものが見て取れた
「正直なんてひどい世界だって思いました。あの記事のおかげで一哉の横にいることに罪悪感を感じるようになりましたから…」
ざわめく会場を気に留めることなく紗帆は続ける
「でも今は感謝しています。あの後一哉と離れたことで私はこうして立てるようになったんですから」
そう言って紗帆は立ち上がった
会場がどよめく
「一生車椅子の生活を送ると言われて、でも一哉の横に立ちたい一心で死に物狂いでリハビリして立てるようになりました。それだけでも奇跡だといわれました」
「それだけでも?」
「…はたから見れば見苦しいかもしれません。でも今は足を引きずらずに歩けるようになりました。まだ長時間立ったり支えなく普通のペースで一人で歩くことは出来ませんけど…」
紗帆はそういって微笑んだ
「こんな私を彼はずっと支えてくれていた。その気持ちを彼に返して行きたいと思っています」
その後もしばらく質問の嵐で会見は30分近くに及んだ
紗帆のまっすぐな言葉に記者たちは心を打たれた
そしてそんな紗帆を暖かく見守る一哉に敬意を示す
一哉の願ったとおり紗帆の足について面白おかしく取り上げる記者はいなかった
「一哉!」
マンションのインターホンを押しながら誰かが呼んでいた
「…はい?」
ドアを開けると健二と隆が新聞をどっさり抱えて立っていた
「どうしたんすか?」
「どうしたもこうしたもないぞ。ほら」
健二は新聞のトップページを開いてみせる
「あ…」
「この相手って…」
健二の問いに苦笑する
「大丈夫なのか?」
「あ~…多分」
「多分ってお前」
「昨日プロポーズしました」
「は?」
2人は展開についていけない
「俺はもうあいつを離したくないから…あいつも受けてくれたし」
「…そっか」
2人は顔を見合わせる
「そういうことなら俺らは何も言うことないけど彼女の足のことが取り上げられるのは時間の問題だぞ?」
「…とりあえず入りませんか?」
一哉は2人をリビングに通しコーヒーを淹れた
「紗帆が1年前に姿くらましたのは言いましたよね?」
「あぁ」
「そのときあいつは手紙にこう書いてたんです。『これから絶対注目される俺の横で車椅子に乗ってる自分は考えただけでも惨めで泣けてくる』って」
「…」
「俺と一緒にいると何が起こるかあいつは誰よりもわかってる。それでも受けてくれたんです」
「…」
2人は黙り込む
「この1年であいつはたくさんの奇跡を起こしてきました。一生車椅子の生活だといわれてたあいつが自分の足で立つようになったんですから」
「まじ…で?」
「はい。それだけでも奇跡だと…でもあいつは今歩けるんです。そりゃはたから見たら変な歩き方に見えるかもしれない。それでも引きずらずに歩くんです」
「…」
「もしメディアがあいつの足の事を面白おかしく書いたならそのときは世界中の医療や福祉を敵に回すときですよ」
「確かに…」
「紗帆の足のことが取り上げられたとしたら今リハビリに取り組んでるすべての人間に希望を与えられるんじゃないかって、俺はそう思います」
そう言った一哉の顔は2人が今までに見たことのないくらい生き生きとしていた
この日から紗帆と一哉のまわりは文字通り慌しくなった
「…何か嘘みたい」
一哉のマンションのべランダで紗帆はそう言った
「何が?」
「私がここにこうしていること」
「…」
「優斗君のことでそれまで生活の中心だった陸上が出来なくなっていっそ死んだほうがマシだって本気で思った」
紗帆は静かに話す
「元々ね、両親が亡くなった寂しさを埋めるために走り続けてたの。そんな時に一哉に出会って毎晩会ってるうちにどんどん惹かれていくのに気付いて…なのに…」
「…」
「なのに走れないどころか立つことすら出来ないって言われて目の前真っ暗だった。誰に何言われても気休めにもならなくてたった一人で世界から取り残されていくみたいな感じで…だからあの時の一哉の言葉は本当にうれしかったんだよ?」
振り向いてそう言った紗帆は静かに笑っていた
「でも怖かった。全国大会に出ることが決まったときでさえ一哉の周りは眩しくてそんな一哉の横に並ぶのが怖くなった。新聞や雑誌で『悲劇のヒロイン』って取り上げられてる自分が何よりも嫌だったから…」
「紗帆…」
「日本を発つときに言い聞かせたの。一哉の気持ち踏みにじったんだからもう一哉のもとに戻ることは出来ないって。自分のプライドを取ったんだから一哉に望むことは許されないって…」
「…」
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「え?」
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「確かに私は事故で足を駄目にしました。この会場にも当時『悲劇のヒロイン』として私の記事を書いてくださった方もおられると思います」
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10
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この機会にご一読いただけると嬉しいです
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【完結済】
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■最後の願い
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