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51.レイの異変
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「サラサ」
「ん?」
「こんな情けない俺の側にこの先もずっといてくれるか?」
少し不安を含んだ声だった
「どっかいけって言われても側にいる。私の居場所は…あの日レイが見つけてくれた時からここだから」
「ああ…そうだったな…」
これまでの事を思い出しながらレイはようやく笑みを見せた
もう大丈夫なのだと思えた
「シアは?」
「家の中を探検してる。レイ」
「ん?」
「シアを抱きしめてあげて?あの子、自分が人に向かって力を使ったことでレイがこうなっちゃったんだって、どこかで思ってるみたいだったから」
「そんなわけないのに…」
「そうわからせてあげて?時々引き戻されたように不安そうに泣き出すの」
「わかった。ちょっと行ってくるよ」
そう言って私に深く口づけてからレイは2階に上がっていった
◇ ◇ ◇
今では懐かしくなってしまった階段をゆっくり踏みしめるように上がる
また、自分だけ逃げたことでサラサがどれだけ不安だったのかと思うとやり切れない
「それでも側にいてくれるサラサには感謝しかないな…」
さっきのサラサの言葉で感じたのは安堵だった
自分の手にポタポタと落ちてくるものがサラサの涙だと気づいた瞬間頭の中の靄が消えていった
でもそれが向こうの家での出来事だったら同じようになっているとは思えなかった
俺自身も気付いていないことを読み取っているサラサが愛おしくて仕方ない
「シアにも辛い思いをさせたな…」
助け出した時のおびえた様子を思い出していた
寝室だった部屋から笑い声が聞こえる
そっと扉を開けるとカーロがこっちを振り向いた
「シア」
何か言いたげなカーロに頷いてからシアを呼ぶ
「パパ…?」
最近の俺と違うとわかったのか少し戸惑っているようだ
「おいでシア」
もう一度呼ぶとシアは泣き出した
俺は側により抱き上げる
「ごめんなシア。寂しい思いをさせた」
「パパ…パパぁ…!」
しがみ付いて泣きじゃくるシアをしっかりと抱きしめる
サラサと同じ俺にとってかけがえのない温もりだ
「愛してるよシア。お前はパパの宝物だ」
そう言う俺をカーロの尻尾が何度もたたく
カーロを見ると呆れたようなホッとしたような目でこっちを見ていた
きっとシアをずっと支えてくれていたのだろう
「カーロも、ありがとな」
『今回だけだからね?次は僕がレイを喰らってやるから』
「ああ。そうならないように努力するよ」
答えながらまだ泣き続けるシアの背をなでる
「パパ」
「ん?」
「嫌い…ならな…で」
『…誘拐されるよりもレイに嫌われる方が怖いんだって』
カーロが囁くようにそう言って部屋を出て行った
「シア」
俺はベッドに腰かけシアの顔が見えるように抱きなおす
それでもシアの手はずっと俺の服を強く握っていた
「シアを嫌いになんてならないよ」
「…」
俺を見上げる涙に濡れた目がまだ不安げに揺れていた
「たとえシアが悪いことをしても、シアが何も出来なくても、どんなシアでも嫌いになったりしないよ」
「ほん…と…?」
「本当だ。悪いことをすれば叱ることはあるだろうけどな。でも嫌いになんてならない」
「…前みた…に…あそ…でくれる?」
「ああ。いっぱい遊ぼうな」
そう言いながら目元に口づけると嬉しそうに笑った
「パパ…大好…き」
「パパもシアが大好きだ。寂しい思いをさせたこと、許してくれるか?」
「うん…!」
シアはそう言いながらしがみ付いてくる
話せるから錯覚しそうになるけどシアはまだ1歳だ
決して広くはない自分の世界で俺の存在が小さいはずがない
本当に悪いことをしたと思いながらシアの気が済むまで抱きしめていた
◇ ◇ ◇
日が落ちてきたためそろそろかと食事の準備をしていた
『サラサご飯何?』
「色々作ってるけど…カーロはサンドイッチがいいんでしょう?」
『うん。オーク入りがいい』
「大丈夫。ちゃんと作ってるわよ」
そう言うと尻尾がパタパタとせわしなく動く
言葉よりも雄弁な尻尾だとつくづく思う
『あ』
「ん?」
カーロの何かに気付いた声に振り向くとシアを抱いたレイが入ってきたところだった
「ママ、パパ治った」
「ふふ…治ったね。良かったねー」
「うん」
その笑顔を見ればシアの不安が解消されたのは明らかだった
「シアいっぱい泣いた?」
「うぅ…」
「ちょっとじっとしてね」
私はシアの目元にそっと魔力を流す
「…いたいのなくなった?」
「ちょっと腫れてたからね。でももう大丈夫よ」
「うん。ママ大好き」
「ママもシアが大好きよ」
そう答えながら目元に口づける
「パパと一緒」
「え?」
「パパもここにチュってしてくれた」
その言葉にレイを見ると苦笑しながら頷いた
「パパもママも同じくらいシアが大好きだからね」
そういうことにしておこう
あながち間違ってもいないはず
久しぶりに賑やかな食事をして、しばらくはしゃいでいたシアは、そのままカーロの尻尾に埋もれるように眠ってしまった
「よっぽど嬉しかったのね」
「え?」
「あんなにはしゃいだシアは久しぶりだから」
「そっか…じゃぁこれからは息子孝行しないとな」
「レイに出来る?」
「そういうこと言うか?」
こんなじゃれるような会話も久しぶりだ
それはレイが元に戻ったのだと実感するには充分だった
2日間私達だけで過ごし、みんなの待つ家に戻ると笑顔で迎えてくれた
レイだけは少しの間カルムさんからからかわれていたみたいだけど…
「ん?」
「こんな情けない俺の側にこの先もずっといてくれるか?」
少し不安を含んだ声だった
「どっかいけって言われても側にいる。私の居場所は…あの日レイが見つけてくれた時からここだから」
「ああ…そうだったな…」
これまでの事を思い出しながらレイはようやく笑みを見せた
もう大丈夫なのだと思えた
「シアは?」
「家の中を探検してる。レイ」
「ん?」
「シアを抱きしめてあげて?あの子、自分が人に向かって力を使ったことでレイがこうなっちゃったんだって、どこかで思ってるみたいだったから」
「そんなわけないのに…」
「そうわからせてあげて?時々引き戻されたように不安そうに泣き出すの」
「わかった。ちょっと行ってくるよ」
そう言って私に深く口づけてからレイは2階に上がっていった
◇ ◇ ◇
今では懐かしくなってしまった階段をゆっくり踏みしめるように上がる
また、自分だけ逃げたことでサラサがどれだけ不安だったのかと思うとやり切れない
「それでも側にいてくれるサラサには感謝しかないな…」
さっきのサラサの言葉で感じたのは安堵だった
自分の手にポタポタと落ちてくるものがサラサの涙だと気づいた瞬間頭の中の靄が消えていった
でもそれが向こうの家での出来事だったら同じようになっているとは思えなかった
俺自身も気付いていないことを読み取っているサラサが愛おしくて仕方ない
「シアにも辛い思いをさせたな…」
助け出した時のおびえた様子を思い出していた
寝室だった部屋から笑い声が聞こえる
そっと扉を開けるとカーロがこっちを振り向いた
「シア」
何か言いたげなカーロに頷いてからシアを呼ぶ
「パパ…?」
最近の俺と違うとわかったのか少し戸惑っているようだ
「おいでシア」
もう一度呼ぶとシアは泣き出した
俺は側により抱き上げる
「ごめんなシア。寂しい思いをさせた」
「パパ…パパぁ…!」
しがみ付いて泣きじゃくるシアをしっかりと抱きしめる
サラサと同じ俺にとってかけがえのない温もりだ
「愛してるよシア。お前はパパの宝物だ」
そう言う俺をカーロの尻尾が何度もたたく
カーロを見ると呆れたようなホッとしたような目でこっちを見ていた
きっとシアをずっと支えてくれていたのだろう
「カーロも、ありがとな」
『今回だけだからね?次は僕がレイを喰らってやるから』
「ああ。そうならないように努力するよ」
答えながらまだ泣き続けるシアの背をなでる
「パパ」
「ん?」
「嫌い…ならな…で」
『…誘拐されるよりもレイに嫌われる方が怖いんだって』
カーロが囁くようにそう言って部屋を出て行った
「シア」
俺はベッドに腰かけシアの顔が見えるように抱きなおす
それでもシアの手はずっと俺の服を強く握っていた
「シアを嫌いになんてならないよ」
「…」
俺を見上げる涙に濡れた目がまだ不安げに揺れていた
「たとえシアが悪いことをしても、シアが何も出来なくても、どんなシアでも嫌いになったりしないよ」
「ほん…と…?」
「本当だ。悪いことをすれば叱ることはあるだろうけどな。でも嫌いになんてならない」
「…前みた…に…あそ…でくれる?」
「ああ。いっぱい遊ぼうな」
そう言いながら目元に口づけると嬉しそうに笑った
「パパ…大好…き」
「パパもシアが大好きだ。寂しい思いをさせたこと、許してくれるか?」
「うん…!」
シアはそう言いながらしがみ付いてくる
話せるから錯覚しそうになるけどシアはまだ1歳だ
決して広くはない自分の世界で俺の存在が小さいはずがない
本当に悪いことをしたと思いながらシアの気が済むまで抱きしめていた
◇ ◇ ◇
日が落ちてきたためそろそろかと食事の準備をしていた
『サラサご飯何?』
「色々作ってるけど…カーロはサンドイッチがいいんでしょう?」
『うん。オーク入りがいい』
「大丈夫。ちゃんと作ってるわよ」
そう言うと尻尾がパタパタとせわしなく動く
言葉よりも雄弁な尻尾だとつくづく思う
『あ』
「ん?」
カーロの何かに気付いた声に振り向くとシアを抱いたレイが入ってきたところだった
「ママ、パパ治った」
「ふふ…治ったね。良かったねー」
「うん」
その笑顔を見ればシアの不安が解消されたのは明らかだった
「シアいっぱい泣いた?」
「うぅ…」
「ちょっとじっとしてね」
私はシアの目元にそっと魔力を流す
「…いたいのなくなった?」
「ちょっと腫れてたからね。でももう大丈夫よ」
「うん。ママ大好き」
「ママもシアが大好きよ」
そう答えながら目元に口づける
「パパと一緒」
「え?」
「パパもここにチュってしてくれた」
その言葉にレイを見ると苦笑しながら頷いた
「パパもママも同じくらいシアが大好きだからね」
そういうことにしておこう
あながち間違ってもいないはず
久しぶりに賑やかな食事をして、しばらくはしゃいでいたシアは、そのままカーロの尻尾に埋もれるように眠ってしまった
「よっぽど嬉しかったのね」
「え?」
「あんなにはしゃいだシアは久しぶりだから」
「そっか…じゃぁこれからは息子孝行しないとな」
「レイに出来る?」
「そういうこと言うか?」
こんなじゃれるような会話も久しぶりだ
それはレイが元に戻ったのだと実感するには充分だった
2日間私達だけで過ごし、みんなの待つ家に戻ると笑顔で迎えてくれた
レイだけは少しの間カルムさんからからかわれていたみたいだけど…
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