[完結]ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました

真那月 凜

文字の大きさ
上 下
159 / 199
閑話.レイが他人を自分のテリトリーに入れた日(side:カルム)

1

しおりを挟む
俺はいつものようにナターシャと一緒に依頼の物色をしていた
「これは?」
「楽過ぎないか?」
「そうねぇ…じゃぁこれとセット」
ナターシャはもう1枚も俺に見せてくる

Aランクの魔物の討伐2件なら妥当だろう
「それで行くか」
俺は2枚の依頼書を受け取り受付に向かおうとした

「あら?レイがこの時間に来るなんて珍しいこともあるのね?」
その言葉に入り口を見るとレイがいた
「?」
その後ろから場違いな女が入ってくる

「何だあれ?」
「さぁ」
ナターシャも首を傾げて2人を見ていた
俺達だけじゃなくギルド内のかなりの奴が見てるのが分かる

「私アラン達呼んでくるわ」
ナターシャはそう言って出て行った

「ようレイ」
「おぅ」
「どうしたんだこんな時間に?」
「ちょっとな」
足を進めるたびに声を掛けられるレイ
それはいつものことだが…

「レイ、依頼受けるなら一緒にどうだ?」
「今日は別件だ。また今度な」
そう言って通り過ぎようとするレイをつかまえる

「何だよ?」
「それはこっちのセリフだ。何だあの女」
「保護した」
「は?」
俺は開いた口が塞がらないというのを初めて体感した

「保護…はわかる。でもお前いつも憲兵に預けるだろ?」
「あぁ…あいつは別。とりあえず家に住まわせる」
「ま…じで?」
「んな驚くことかよ?」
こいつまさか自覚なしか?

「お前が自分のテリトリーに他人を入れるのが信じられないって言ってんだよ」
「…別にいいだろ?俺だってそういう気分になる時くらいある」
そう言うレイの視線の先にはその女がいる

「これ以上ほっとくと絡まれそうだから行くぞ?」
「あ、あぁ…けど今度ちゃんと説明しろよ?」
「説明も何も…まぁとにかく今度な」
レイは呆れたように言いながら去っていく

「大丈夫か?」
そう問いかけるレイの目がまっすぐ女を見ていることにさらに驚かされる
ナターシャですら目を合わすことは滅多にない
それ以外の女は性欲のはけ口くらいにしか思ってない
そんなレイの意外な行動に俺はしばらくその場から動けなくなった

ただ視線だけはレイを追う
まるで守る様に女をエスコートする様はとても冒険者とは思えない洗練された動きだ
あの日から一切にじませた事の無い過去の片鱗
それを表に出す価値がその女にあるというのだろうか?


「カルム!レイが女連れてたって?」
トータとアランがナターシャと一緒に入ってきた
「あぁ、あれだ」
俺の指した先には女に寄り添うレイがいる

「あいつが…?」
「今日依頼受けねぇ方がいいんじゃねぇの?」
こいつらがそう言いたくなるほどにはありえないことが目の前で起こっていた

冒険者にぶつかりそうになった女の背に手を添えて躱してやる姿など、まわりの冒険者すら驚いて見てるくらいだ
結局その後何度か一緒に依頼を受けても適当にごまかされて実際に俺らが会えたのは3か月程経ってからだった

「レイ、本当に大丈夫なのか?」
これまでかなりの頻度で行ってたレイの家に行くのは久しぶりだった
「サラサもいいって言ってるから大丈夫だろ。そのかしあいつにちょっかい出したら追い出すから」
「…レイが、ねぇ…」
ナターシャは驚いたような呆れたようなそんな顔をした

「こいつらがパーティー弾丸のメンバー。俺も時々一緒に依頼を受けてる」
そんな簡単な説明に返ってきたのは丁寧なあいさつだった
初めてではないというとギルドであったことを思い出したようだ

「サラサが来てから快適になった。もともと不便ではなかったはずなんだけどな」
その言葉の通り部屋の中が随分変わっていた
どれだけ俺らが行ってもカーテン一つつけなかったはずなのにだ
それが目の前にはカーテンだけじゃなくカーペットにクッションなんて初めて見るものまである

しかも最近はやり出したサンドイッチがサラサの案だという
話してる様子を見ても互いに受け入れてるのが分かる

「ひょっとしたらそのうち…?」
「なーに?レイとサラサちゃんの事?」
家に帰ってふと呟くとナターシャが覗き込んできた

「ようやくレイが心を許せる相手に出会えたかと思ってな」
「そうね。刃のようなレイがあんな風に笑うとは思わなかったわ」
そんな2人がいずれ寄り添いあえる存在になればいいと思わずにいられなかった

あれから気づいたらもう4年
目に見えて変わったレイがサラサといる姿は当たり前の光景になった
一緒に住み始めてからも転生してきたというサラサには驚かされることばかりだ
レイが守りたいと思った気持ちも何となく理解できる
俺だけじゃなくそれは皆も同じだろう

何にしても、レイが自分のテリトリーにサラサを、そして皆を入れるようになったことを無性に嬉しく思う
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

処理中です...