[完結]ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました

真那月 凜

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9.遊び心(三目並べ)

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この世界での暮らしは以前よりも自分にあってると思う
でも一つだけ少しずつ大きくなる不満があった

「やっぱ足りないんだよね…」
「は?」
本をパタンと閉じてつぶやいた私にレイが自分の読んでいた本から目を離した
それはそれで珍しいことだとつい笑ってしまう

「何だよいきなり?」
「ん~なんていうか…単調?」
そう、単調な日々なのだ
依頼を受ける、迷宮に行く、採取する、家事をする、本を読む
町に出たとしても買い物をする、カフェに入る、食堂に入る
この世界の日々の選択肢はそれくらいしかない

「単調って?」
「なんだろ…遊び心が欲しい」
そうつぶやいて何かがストンと落ちたようにスッキリした
「そっか…趣味や娯楽がないからだ…」

「おーい?」
「え?…ん…!」
顔を上げると口を塞がれた
そのまま頭を引き寄せられて逃れることも出来ない

「…戻ってきたか?」
口づけを終えたレイがニヤリと笑いながらそう尋ねた
「別にどこにも行ってないし…」
「自分の世界に行ってたけどな?」
「う…ごめん」
「別にいいけど。で、趣味とか娯楽って何?」
レイは読書好きなだけあってなじみのない言葉には物凄く敏感だ

「えーとねぇ…趣味は仕事以外で自分が楽しめることで、娯楽は自由な時間にする遊び…になるのかな?」
「楽しみに遊びねぇ…討伐とか?」
かなり物騒な楽しみですこと…

「そういうのとちょっと違うんだけど…何だろ、レイと一緒に楽しめる何かが欲しいなぁって」
「採取?」
完全に生活に密接して離れないようだ
「あーうん。採取も確かに楽しいけど…そういうところから離れた楽しみが欲しい」
「…わかんねぇ」
レイは考え込んでしまった

「娯楽はそうねぇ…討伐とか採取とか生きていくためにしてることとは別に、ただ一緒に楽しめたり競い合ったりできるようなこと。ほら、町で子供たちが追いかけっこしてるような感じ?」
「なるほど。俺も追いかけっこくらいしか知らねぇぇど、あーいうのがもっとあったら楽しそうだな」
「でしょう?」
理解してくれたのが思いのほか嬉しくて喜びが全面に出ていたようだ
そんな私を見てレイは苦笑していた

「で、次は何で楽しませてくれるんだ?」
「それを考えてみるのも楽しそうだよね」
「どうせならあいつらが来た時に出来るのとかがいいな。勝負できるなら絶対乗ってくる」
「みんな負けず嫌いだもんね。簡単に出来て勝負出来るものか…」
私は記憶を探る

「対戦できる遊び…カード系?それにオセロに将棋…チェス、双六…人生ゲームとかあったなぁ…あとは…」
一人ブツブツ言いながら考えるのをレイが楽しそうに眺めていた
聞いた事の無い言葉が次々と出てくるのが面白いようだ

「囲碁、五目並べ…三目並べ!」
自分の中で答えにたどり着いた感覚だった
施設にいた時に地面に線を引いて〇と×を書いて勝負していた記憶
簡単なのに奥が深いお手軽な遊びだ

私は紙とペンを取り出して縦と横2本ずつの線を引いた
「これは?」
書いているのを覗き込んできたレイは興味津々と言った感じだ

「ここに箱が9個あるでしょう?この箱に〇と×を交互に書いていって縦・横・斜めのどこかに同じ記号を先に3つ並べたほうが勝ち」
「へぇ…」
この顔は完全に食いついた顔だ

「やってみる?」
「当然だろ」
「ふふ…じゃぁレイからでいいよ?〇か×をどこかに書いて」
「分かった」
レイはしばらく用紙をじっと見てからど真ん中に〇を書いた
その後交互に記号を書いていく

「あ、サラサちょっとたんま」
レイは〇を書いた直後何かに気付く
「だーめ。私の勝ち!」
私はそのまま横方向に3つ目の×を記入した

「くっそ~」
かなり悔しそうだ
「サラサもっかいだ。次はお前から」
即2回戦が始まった
私の3つ目を阻止するのに徹したせいで引き分けだ

「こういう場合は?」
「引き分け。勝でも負けでもない」
「…次は俺からな」
そう言って次の勝負に挑むレイのおかげでその後かなりの時間を3目並べに費やした

「いやー結構面白いなこれ?」
「結構?こんだけやっといて?」
「…かなり」
大量に書かれた〇と×を見てレイは苦笑する

「これ、登録しろよ」
「登録はいいんだけど…」
「何?」
「紙とペンは誰もが気軽に使うものじゃないでしょう?」
「あぁ…」
レイも思い当たったようだ

紙とペンはどちらも存在してるものの高価な部類に入る品だ
貴族はともかく町の人達はめったに使わない

「軽くて簡単に加工出来るもの…木?」
「いいんじゃないか?でも〇や×って手がかかるのか?」
「そうだね…ほかの形でも問題ないけど」
「じゃぁ□とか△?」
「それいいかも。□と△の角材作って5㎜くらいの厚みに切っていけばいいんだ」
私はレイにありがとうと言いながら用紙に簡単な図を書いていく
薄めの板を底にして5㎜四方の割りばしのような角材で枠と升目を作る
そこに収まるサイズの〇と△のパーツを5つずつ

「いい感じだな?」
横で見ているレイも楽しそうだ
「レイが夢中になったからみんなも夢中になるよね」
「俺が基準か?まぁ実際楽しめたからいいけどな」
そう言うレイに抱き寄せられる

翌日商業ギルドに持ち込むと会長は喜んで登録してくれた
さらにその翌日お礼だと言って完成品を2つ渡された
何でも登録した直後から取り掛かったようで、夕方には試作が出来上がり商業ギルド内でかなり盛り上がったらしい

「でも2つもいる?」
テーブルに並べて2つの3目並べを見て尋ねる
「いんじゃねぇの?あいつら来た時にちょうどいい」
レイが当たり前のように言う
後日弾丸が来たときに3目並べ大会が繰り広げられていたのは言うまでもない
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