[完結]ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました

真那月 凜

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12.不穏な動き

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騒動の数日後いつものように依頼を終えて迎えに来てくれたレイと買い物をしていた
「パンまだあったか?」
「あ、買わなきゃだ」
帰ろうとしていた足を止め来た道を引き返してパン屋に向かう

「いらっしゃい」
テレサさんが笑顔で迎えてくれる

「あんたたち面倒なことに巻き込まれてたんだって?」
「あー」
返答に困りレイを見る

「…依頼の事か?」
「そーだよ。依頼なら仕方ないけどちゃんと選びなよ?最初噂聞いたときたまげたんだから」
「確かにたまげたなぁ。わしはデマの方に賭けたがな。お前にこの町で浮気する度胸はない!」
テレサさんの後ろからベンさんが出てきて笑いながら言い切った
どうやら賭けまで行われていたらしい
一体どれだけの人数で賭けをされていたのか…

「信じてくれんのは嬉しいけどその理由は何か…」
そう言ってレイはうなだれる

「まぁレイが嬢ちゃんにほれ込んでるのは知ってるからな。あんな急に目移りするなんてありえんだろう」
「馬鹿だねぇ。だからたまげたんじゃないか」
「レイが二股かけれるほど器用な奴ならとっくに嬢ちゃんを嫁にしてらぁ」
ゲラゲラと笑いながら言われ反論するのも諦める

「もう好きに言ってくれ。それよりどれにすんだ?」
「新商品全部と平パン2袋かな」
「はいよ。5個ずつだね」
テレサさんは返事も聞かずに5個ずつ詰めていく

「以前に比べるとすごく増えたよね?」
「そーだね。このあたりのをレイが同じようなの作れないかって持ってきてからだからね」
テレサさんが指さした場所には最初の頃に作ったサンドイッチや少し前に作ったパンが並んでいる
そう言えば1切れずつ包めと言われた記憶が…
そう思ってレイを見ると不自然なほど顔を反らした

「なるほどねーって感心してうちのが色々作るようになったのさ。だからレイには感謝してるんだよ?」
「そうだったんだ?これからも楽しませてね」
「まかせとけ」
奥から元気のいい返事が返ってきた
店を出て歩いていてもレイは顔を合わそうとしない

「…悪かった」
「別に怒ってないよ?それだけ気に入ってくれたってことでしょ?」
レイの腕に自分の腕を絡めて顔を覗き込む

「そうなんだけどなぁ…」
「私もまた新しいの作るから楽しみにしててね」
そう言うと気が抜けたような笑みが返ってきた

「あ、そうだ…」
私は思い出したようにインベントリを探る

「あのドタバタで渡すの忘れてた」
そう言いながら取り出したのはあの日に作ったブレスレットだ
それをレイに差し出す

「これは?」
「レイ言ってたでしょう?ブレスレットとかペンダントとか…付けたいけど金属は苦手だって」
「ああ。アクセサリ系は魔石で強化できるからな」
この世界ではアクセサリに取り付けた魔石に魔力を流すことで様々な強化を行うことができる
強化できる力は魔石に依存するものの取り換えることができるため冒険者には重宝されているのだ
ただ、戦うのに邪魔になったら意味がないので大抵はペンダントとブレスレット、リングから2~3個選ぶのが普通だ

「これは皮だから大丈夫かなって。ここに魔石を取り付けることができるの」
そこはゲイルさんに作ってもらった部品の場所だ

「こんなの初めて見たよ…相変わらず面白いことを考えるな」
レイはそう言いながら手首にはめる

「あぁ、いいな。色も金属と違って落ち着いてるし…何より軽い。ありがとなサラサ」
軽く腕を振りながらレイは言う
なるほど。そういうメリットもあるのか
と、一人感心しているといきなり抱き寄せられ口づけられた

「…っ…レイ!」
深くなりそうなのを感じて慌てて身を離す
「ここ…町の中!」
顔が熱くなるのを感じながら必死で訴える

「別に珍しい事でもないだろうに…」
ため息交じりに言いながらもその目は楽しさを含んでいる

抱きしめ合ったりキスをしてる姿はそこら中で見かけるし皆気にも留めない
でもいざ自分がとなると話は別だと思う

「嬉しかったと伝えたいだけなんだけどな」
「それは…」
分かってるという言葉はレイの笑みを見て飲み込んだ
完全にレイの手のひらの上で転がされてる

「町中だからダメなんだよな?じゃぁ帰ったらその分も合わせて伝えるよ。言葉だけじゃ足りないし」
「…!」
意味ありげな妖艶な笑みに息を飲む

「…今日、ナターシャさんのところに泊まってもいい?」
「ご自由に?」
反対されると思っていただけにキョトンとしてしまう

「明日の朝迎えに行く。ただ…」
「?」
「明後日寝不足のまま依頼受けることになるかも。今逃げといて明日の晩寝れるなんて思わないだろ?」
「っ!!」
そう言いながら頬に触れられ心臓が暴れ出す

「…一緒に帰る」
レイの欲望が感情の振れ幅に比例すると気づいたのは最近だ
そのことにレイ自身も気付いているらしい
当のレイが言うのだからそれだけ喜んでくれたのだろうと思うと嬉しいものの…ちょっと複雑な思いを抱えながら歩き出す

結局家に帰ってから明け方まで私はレイの腕の中にいることになり、この日が休みでよかったと心から思うのだった
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