[完結]ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました

真那月 凜

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33.バルドの可能性

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バルドが少し落ち着いてきたのを見て話しかける
「バルド、私も親がいないのよ」
「え…?」
驚いてこちらを伺うバルドに微笑んで返す

「虐待されて育って、物心つく前に捨てられた。今は生きてるか死んでるかもわからないわ」
「…会いたい?」
その問いに首を横に振る

「孤児院に捨てられたと知った時、良かったって思ったくらいだからね。それからはバルドのように必死で自立しようと思った」
「…サラサお姉ちゃんはちゃんと自立出来たんだね?」
「そうね。でも最初からこうだったわけじゃないわよ?思い通りにならないのが当たり前、予想もしなかった壁に阻まれることだってあった」
「その時はどうしたの?」
「そうね…一人でなんとかしなきゃって必死になって、でも思うように出来なくて悔しくて…不安をぶつける相手もいなかったし弱音を吐く相手もいなかった」
そう言いながらバルドの髪をなでる

「私もバルドと同じように必死になったり焦ったりしてたわ。自分がいてもいいのかすら分からなくて、消えてしまった方が周りの人の為になるんじゃないかって思ったこともあったかな…」
バルドはまっすぐこっちを見ていた

「だからいつでも頼っておいで?どんなバルドでも受け止める自信はあるから」
そう言って笑うとバルドはしがみ付いてきた
突然声を上げて泣き出したバルドにみんなの方が驚いて駆けつけてきた

「どうしたの?」
皆の言いたいことを代表して口にしたのはメリッサさんだった
「張りつめてた糸が切れちゃったかな?」
バルドをあやしながら答えるとリルがその場に崩れ落ちた

「リル」
リルはゆっくり顔を上げた
「リルも頑張ったね」
そう言った途端リルまで声を上げて泣き出した
トータさんがそんなリルを抱き寄せる

「…2人とも限界だったか」
レイが呟くように言った
この世界では成人してから少しは時間が経っているとはいえ、まだ19歳で体の弱い弟を抱えているのだから無理もない
日本のように生活が保障されてるわけでも義務教育があるわけでもない
本当の意味で身一つでやっていかなければならないこのミュラーリアでは厳しかったはずだ
リルもトータさんと付き合うことで安心できる部分はたくさんあったはずだが、先の事を考えればバルドに関する不安は拭えなかっただろうことは分かる
バルド自身大好きな姉のお荷物と思い込んでいたのだから精神的にも辛かっただろう

「トータ、リルをそのまま休ませてやれよ」
アランさんが言うとトータさんは頷いてリルと一緒に玩具部屋を出て行った

「今日はお開きにして私たちも休みましょうか」
ナターシャさんが言う
「サラサちゃんテーブルの上だけ片付けとくね」
「ありがと。メリッサさん」
みんながそれぞれに散っていくとレイはバルドの前にしゃがみ込んだ
「お前もよく頑張ったな。これまで我慢してた分も、これからは好きなだけ甘えろ」
バルドの頭をなでて言う

「…俺は向こうでシアを見てるよ」
「うん。お願い」
頷くのを確認してからレイは出て行った

スタンピードはちょうど2年前の出来事だ
それからずっとギリギリのところで生きてきたのかもしれない

しばらくして泣きつかれて眠ってしまったバルドをレイが部屋に運んでいった



「俺らも休もう」
シアを抱き上げたレイに促される

「ゼノビアが言ってたのはバルドの事だったのかな?」
「多分、そうだろうな」
夢の中でアクセスしてきたゼノビアが気にかけていた男の子
身体が弱いうえに親を亡くしてどれだけ心細かったのだろうか
おまけに大好きなお姉ちゃんのお荷物だと言われた時の事を考えるとやりきれなくなる

「バルドが泣けたのはお前のおかげだろうな」
「え?」
「俺らには正直バルドの気持ちは分かんねぇ」
「レイも少しは分かるんじゃないの?」
「いや。確かに俺も10歳で一人になったけど…あの頃の俺の中にあったのは憎しみと絶望だけだ」
生まれのせいだけで殺され魔物の餌とされかけたのだから無理もない

「何の望みも希望も持ってなかったから、もどかしさも何も感じてないな」
「…そっか…」
「お前は違ったんだろ?」
「そうだね。あきらめの方が大きかったけど…どこかでずっと望んでたかな。愛されたいとか誰かの役に立ちたいとか…それに早く自立して周りに迷惑かけずに生きていきたいって」
レイがシアをベビーベッドに寝かせて私たちはベッドに身を預ける

「今は?」
「今は…自分の大切な人たちを守りたい。一人で頑張るより助け合ってみんなで幸せになる方が素敵なことだって思うかな」
そう言ってレイを見る

「ならいい」
そう言ったレイの優しい口づけが落ちてきた
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