[完結]ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました

真那月 凜

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15.ミュラーリアの婚姻の形

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寝る前に何となくバルコニーに出ていた
昼間は蒸して暑い日でも夜はかなり涼しい

少しひんやりと感じる空気が心地よくて、柵にもたれかかりながら暫く堪能していた

「どうかしたのか?」
そう尋ねながらレイが抱きしめてくる
背中でレイの体の熱と鼓動を感じながら今度はレイにもたれかかると、決して軽くはないはずの私の体重をレイは簡単に受け止めてくれる
それが『恥ずかしい』よりも『心地いい』と感じる様になったのはいつからだろうか?
そういう変化に気付く度にレイに堕ちてしまったのだと改めて自覚する

「何か嬉しいなーって」
「何が?」
レイが首をかしげたのが分かる

「私前世でも結婚してたじゃない?」
「あぁ、そう言ってたな」
少し不穏な色を含む声に、そんな心配ないのに…と苦笑する

「すごくね、モテる人だったの。そんな人に付き合ってって言われてすぐに婚約、結婚ってとんとん拍子に進んで浮かれてたのね」
そう言いながら自嘲気味だと自分でも笑える

「あんなにモテる人が何で私を選んだのか考えようともしなかったから、あの人が求めてたのが道具としての妻だなんて気づきもしなかった」
「道具?」尚
レイの手に力がこもるのが分かった

「食事の準備、洗濯、掃除、要は家事をこなす家政婦としての嫁。おまけに自分のストレスのはけ口にできれば尚よしって感じかな」
「…」
「半年くらいしてから友達に会って、結婚前に何もなかっただけじゃなく式さえ挙げなかったのはなぜだって聞かれたとき、私は初めてそのことに気付いたの」
「何もないって…?」
「あ、うん。前の世界では婚姻届けって用紙さえ提出すれば婚姻が成立したから」
「まじ…で?」
レイはかなり驚いていた

「よく考えればすぐに気づけたことのはずだったんだけど、それまでのさげすまれた人生に疲れてたんだろうね。ちょっと優しくされただけでのめりこんで周りが見えなくなった」
そう、私は結婚する前彼の優しい面しか見ようとしていなかった

「当然誰からの祝福もなくて、結婚した後は後悔する日々が待ってたし別れる時も揉めて、あの人に暴力振るわれたせいで入院してやっと別れることができたくらいだった」
「暴力…」
レイはありえないとでもいうように首を振る

「だからね、今はすごくうれしい。大切だと思える人が出来て、仲間だと思ってくれる人たちから祝福されて、ちょっとした顔見知りでしかない町の人たちにまでおめでとうって言ってもらって…」
「サラサ…」
レイが背後から頬に口づけを落とす

「この世界に来れて良かった。レイに出会うことができて、レイと一緒に過ごせる今を誇りに思う」
それは偽りのない本心だった

「俺もサラサに出会えてよかった」
「え?」
「サラサに出会った日から俺の中の止まった時間が動き出した」
「そうなの?」
「ああ。退屈でしかなかった日々に楽しみができた。手放したくないと思ったのは初めてだ」
「…ふふ…」
思わず笑みがこぼれる

「レイにそんな風に言ってもらえると思わなかった」
私は振り向いてレイの背に手を回す
トクン…トクン…と優しく響く鼓動に安心する

「前世でサラサが受けた苦しみがどんなものか想像するしかできないけど…」
「え…?」
「これから先そんな想いは絶対させない」
「レイ…」
「お前が安心できるように頑張るよ」
抱きしめるその手から温もりが伝わってくる

「レイからはもう沢山の安心を貰ってるよ?」
「まだまだだ」
「…どこを目指してるの?」
「そうだな…お前が前世を思い出して辛そうな顔をしなくて済むくらい?」
そう言われてドキッとする
「…そんな顔してた?」
その言葉に答えは返ってこない
その代わり優しい口づけが落ちてくる

「…これからもレイと色んな思い出を作っていきたい」
「任せとけ。俺もだけどみんなでお前を楽しませてやるから」
「うん…楽しみにしてる」
そう答えながら本当に幸せだと思った
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