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4.穏やかな日々
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「ただいま」
「お帰りレイ」
帰ってきたレイに笑顔を向ける
「今日は鶏」
レイはそう言いながらインベントリから取り出した鶏系の魔物の肉でテーブルの上に山を作り上げた
相変わらずの量である
レイは1日おきに依頼を受けたり迷宮に潜ったりしているため、こうして肉の山が作り上げられるのも少しずつ慣れてきた
慣れていくのもどうなの?
そう思わずにいられないもののそれがレイの生活の一部である以上仕方ない
「この肉って素材としても売れるんでしょ?」
「ああ。そこそこランク高いからそれなりに金になる。売りたければ売ってもいいぞ」
あっさり言うもののレイ自身に売る気はないらしい
「私が売りに行ったら怪しまれるって」
「確かにそうだな」
レイはケラケラ笑う
「レイは売らなくてもいいの?」
「別に困ってないしな。インベントリに入れときゃ腐ることもないし」
「それはそうだけど…」
私が悩んでいる理由をレイが察することはない
「何か問題か?」
歯切れの悪い答えに首をかしげながらレイに顔を覗き込まれる
「問題って言うかね、私のインベントリ、既にとんでもない量の素材が入ってると思うの。それこそ食料庫的な?」
その言葉にレイが笑い出す
「まぁ肉も魚も大量にとってくるし、それ以外にお前は野菜を買い込んでるんだっけ?」
その言い方は俺だけのせいじゃないというニュアンスを含んでいる
「そうだけど…消費が追い付かないと思う」
「大丈夫だって。お前がここの暮らしに慣れてきたら消費できるやつ連れて来るから」
「へ?」
予想もしなかった言葉に思わず変な声が出る
その事にレイは噴き出していた
「お前が来るまでは結構な頻度で1つのパーティーのたまり場になってたんだよ」
「え?」
たまり場になっていた
過去形ということは…とレイの顔を見る
「慣れない状況で色んな奴と合わせるのは流石にないと思ってな」
当たり前のように気を遣ってくれることにどこかくすぐったさを覚える
「どうせそのうちにここに泊まり込む時期になるしそろそろ連れてこようと思ってる。まぁ、お前に問題なければだけどな」
「そんな…私の事は別に…」
私のせいで付き合いを断らせていたとは思いもしなかっただけに申し訳なさが先に立つ
「溜まるって言っても依頼の後に町で飯食ってからここで飲むって感じだけどな」
二次会のようなものだろうかと勝手に納得する
「私のせいでレイの生活変えたりしないで?そんなことされたらここにいるの申し訳ないし…」
「大丈夫だよ。別に無理してるわけじゃない」
そう言ったレイの表情から嘘は感じない
でもやはり気になってしまう気持ちは消せない
「俺の親友でもあるし、サラサには紹介しときたいってのもあるからさ。今度連れてくる」
「うん。楽しみにしてる」
そう答えるとレイは少しホッとしたように笑った
「で、今日は何してたんだ?」
「午前中は薬草採取、今はクッション作ってた」
「クッション?」
リビングに向かいながらレイが首をかしげる
ひょっとしてこっちにはないのか?
***
《クッション》
布製の袋にウールや羽毛、ポリエステル繊維、不織布、紙などの柔らかい素材を詰めて作られた調度品である。主に椅子や寝台の上に敷き、座ったり寝たりするときに用いられることが多い
ミュラーリアには存在しない
***
調べてみるとないらしい
でも枕はあるからイメージは付きやすいはずだけど…
そう考えつつも出来上がったものを見せたほうが早いだろうと結論づける
「これ」
そう言って出来上がったクッションをレイに渡す
「枕?にしては形が違うか…」
「ソファで使うためのものだよ。背中に当てたり前に抱えたり…」
そう説明するとレイは実際にやってみている
「へぇ…いいな。本読むときにちょうどいい」
どうやら気に入ったらしい
「本当、お前は色んなもの出してくるよな?」
「そう?」
「ああ。料理もだけどこのクッションやらその辺に置いてる細工もんとかも」
レイは先日購入したチェストに飾ってある小物を指して言う
子供でも作れるような小物類でもレイは驚くことが多い
そもそも『遊び心』や『娯楽』という概念がないのか必需品と呼ばれる簡素なもの以外を店で見かけることも少ない
薬草採取の途中で見つけた花を摘んできて、花瓶代わりにお酒の瓶に生けただけでも驚かれたときにはこっちも驚いた
「こうなってくるとお前に出て行かれると困りそうだな」
「何言ってんの?」
「だってそうだろ?飯は美味いしこの部屋にいれば癒されるし退屈もしない」
「…」
褒められているのは分かる
分かるが褒められていることに慣れていない私には逆にダメージだ
「サラサ?」
「…なんでもない。私だってここにいれるなら安心できるけど…そういうわけにはいかないよ」
気づいたら自分に言い聞かせるように言っていた
レイの側はあまりにも居心地が良すぎるのだ
私がここにいることを無条件に肯定してくれるその空気が優しく包んでくれる
でもレイの人生の邪魔をする権利は私にはない
「…まぁお前がそう言うなら止めないけど…無理に急いで出て行く必要がない事だけは覚えとけ」
「レイ…」
「お前が自立したいって気持ちは理解してるけど記憶もまだ戻ってないんだろ?そんな状態で焦って行動してもいい事なんか一つもないしな」
「…ありがと」
それしか言えなかった
レイをだましているような気がして顔を見れない
何度も全て話してしまおうかと思いながらできずにいた
そのたびに余計に話せなくなっていることにも気づいていた
それでも私の中ではこの穏やかな時間を失いたくない気持ちの方が強かった
「お帰りレイ」
帰ってきたレイに笑顔を向ける
「今日は鶏」
レイはそう言いながらインベントリから取り出した鶏系の魔物の肉でテーブルの上に山を作り上げた
相変わらずの量である
レイは1日おきに依頼を受けたり迷宮に潜ったりしているため、こうして肉の山が作り上げられるのも少しずつ慣れてきた
慣れていくのもどうなの?
そう思わずにいられないもののそれがレイの生活の一部である以上仕方ない
「この肉って素材としても売れるんでしょ?」
「ああ。そこそこランク高いからそれなりに金になる。売りたければ売ってもいいぞ」
あっさり言うもののレイ自身に売る気はないらしい
「私が売りに行ったら怪しまれるって」
「確かにそうだな」
レイはケラケラ笑う
「レイは売らなくてもいいの?」
「別に困ってないしな。インベントリに入れときゃ腐ることもないし」
「それはそうだけど…」
私が悩んでいる理由をレイが察することはない
「何か問題か?」
歯切れの悪い答えに首をかしげながらレイに顔を覗き込まれる
「問題って言うかね、私のインベントリ、既にとんでもない量の素材が入ってると思うの。それこそ食料庫的な?」
その言葉にレイが笑い出す
「まぁ肉も魚も大量にとってくるし、それ以外にお前は野菜を買い込んでるんだっけ?」
その言い方は俺だけのせいじゃないというニュアンスを含んでいる
「そうだけど…消費が追い付かないと思う」
「大丈夫だって。お前がここの暮らしに慣れてきたら消費できるやつ連れて来るから」
「へ?」
予想もしなかった言葉に思わず変な声が出る
その事にレイは噴き出していた
「お前が来るまでは結構な頻度で1つのパーティーのたまり場になってたんだよ」
「え?」
たまり場になっていた
過去形ということは…とレイの顔を見る
「慣れない状況で色んな奴と合わせるのは流石にないと思ってな」
当たり前のように気を遣ってくれることにどこかくすぐったさを覚える
「どうせそのうちにここに泊まり込む時期になるしそろそろ連れてこようと思ってる。まぁ、お前に問題なければだけどな」
「そんな…私の事は別に…」
私のせいで付き合いを断らせていたとは思いもしなかっただけに申し訳なさが先に立つ
「溜まるって言っても依頼の後に町で飯食ってからここで飲むって感じだけどな」
二次会のようなものだろうかと勝手に納得する
「私のせいでレイの生活変えたりしないで?そんなことされたらここにいるの申し訳ないし…」
「大丈夫だよ。別に無理してるわけじゃない」
そう言ったレイの表情から嘘は感じない
でもやはり気になってしまう気持ちは消せない
「俺の親友でもあるし、サラサには紹介しときたいってのもあるからさ。今度連れてくる」
「うん。楽しみにしてる」
そう答えるとレイは少しホッとしたように笑った
「で、今日は何してたんだ?」
「午前中は薬草採取、今はクッション作ってた」
「クッション?」
リビングに向かいながらレイが首をかしげる
ひょっとしてこっちにはないのか?
***
《クッション》
布製の袋にウールや羽毛、ポリエステル繊維、不織布、紙などの柔らかい素材を詰めて作られた調度品である。主に椅子や寝台の上に敷き、座ったり寝たりするときに用いられることが多い
ミュラーリアには存在しない
***
調べてみるとないらしい
でも枕はあるからイメージは付きやすいはずだけど…
そう考えつつも出来上がったものを見せたほうが早いだろうと結論づける
「これ」
そう言って出来上がったクッションをレイに渡す
「枕?にしては形が違うか…」
「ソファで使うためのものだよ。背中に当てたり前に抱えたり…」
そう説明するとレイは実際にやってみている
「へぇ…いいな。本読むときにちょうどいい」
どうやら気に入ったらしい
「本当、お前は色んなもの出してくるよな?」
「そう?」
「ああ。料理もだけどこのクッションやらその辺に置いてる細工もんとかも」
レイは先日購入したチェストに飾ってある小物を指して言う
子供でも作れるような小物類でもレイは驚くことが多い
そもそも『遊び心』や『娯楽』という概念がないのか必需品と呼ばれる簡素なもの以外を店で見かけることも少ない
薬草採取の途中で見つけた花を摘んできて、花瓶代わりにお酒の瓶に生けただけでも驚かれたときにはこっちも驚いた
「こうなってくるとお前に出て行かれると困りそうだな」
「何言ってんの?」
「だってそうだろ?飯は美味いしこの部屋にいれば癒されるし退屈もしない」
「…」
褒められているのは分かる
分かるが褒められていることに慣れていない私には逆にダメージだ
「サラサ?」
「…なんでもない。私だってここにいれるなら安心できるけど…そういうわけにはいかないよ」
気づいたら自分に言い聞かせるように言っていた
レイの側はあまりにも居心地が良すぎるのだ
私がここにいることを無条件に肯定してくれるその空気が優しく包んでくれる
でもレイの人生の邪魔をする権利は私にはない
「…まぁお前がそう言うなら止めないけど…無理に急いで出て行く必要がない事だけは覚えとけ」
「レイ…」
「お前が自立したいって気持ちは理解してるけど記憶もまだ戻ってないんだろ?そんな状態で焦って行動してもいい事なんか一つもないしな」
「…ありがと」
それしか言えなかった
レイをだましているような気がして顔を見れない
何度も全て話してしまおうかと思いながらできずにいた
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