恋愛短編集

真那月 凜

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新しい未来のために

side 俺 後編

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集中治療室の前で1人うなだれている俺の前に
マスターが駆けつけてきた
お礼を言って頭を下げるマスターに俺は尋ねた
『危ないのか?』と
一瞬顔をこわばらせたマスターは
自分の不安をぶつけるかのように全てを話してくれた

1度目の人生で彼女が隠したままだった真実を
俺はこのときはじめて知ることになる
生まれつき体が弱く
これまでの人生の8割がたを病院内で過ごしたこと
体調のいいときだけ店に出ること
そして生まれた時に宣告された命の期限は
もうとっくに過ぎていること
助かるには心臓を移植する以外にないということ・・・

俺は毎日病院へ足を運んだ
枕元に『輝夜』の小説が並んでいるのに気付き
俺はもう1冊書くことを決めた
1度目の人生で彼女に伝えられなかった想いを
小説の中でだけでも伝えたかった
どれだけせがまれても照れくささが先立って
伝えられなかった言葉を添えて・・・

彼女は出来上がったその小説を読んだ後
少しよそよそしくなった
それでも何か想うところがあるのか
俺に色んな話をするようせがんだ

ぶつけられる不安の数が増えるたび
彼女の死を意識してしまう
でも俺はもう2度と彼女を失いたくなかった
不安を受け止めてやるしか出来ない自分が情けないと感じた

そして再び巡る運命の日
俺は何も起こらないことを願った
でもその願いは届かなかったのだろうか
彼女はあの日と同じように吐血し俺にしがみつく
そんな彼女に俺は思わずつぶやいてしまった
『結局俺は何も変えられないのか?』と
その自分の言葉が胸に刺さる
『お前を2度も失うのは嫌だ・・・』
彼女には理解できないだろう言葉
でも本心だった
この日が来なければと関係を変えてみても
結果は変わらないのだろうか

彼女がICUに入りその表示を
ただ眺めていた俺の頭に
混沌とした闇が訪れた
『何も変えられないまま元の世界に戻るのか』
どこかでそう確信している自分がいた
もう抗う気力すら残っていなかった俺は
その闇に身を任せた

誰かの声に目を覚ます
『夢・・・か・・・?』
ふとカレンダーを見る
流星の降った日から半年が経っていた
突然扉を開けて彼女が入ってきた
一瞬目をこすったが幻ではない

その時頭の中で記憶が書き換えられていくのが分かった
彼女はあの日奇跡的に一命を取り留めた
そしてわずかな時間のずれでドナーが見つかった
その心臓で彼女は今も生きている

俺は彼女との新しい未来を手に入れたのだ
流星への感謝を込めてもう1冊だけ話を書こう
そのタイトルは『新しい未来』―――

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