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16.願い

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「・・・ありがとうございました」
火葬場で焚迦釈を送り出して初めて紫音は口を開いた

予期せぬ言葉におばさんはためらう

「最後に会えてよかった・・・」
「紫音さん・・・」
おばさんは紫音を真っすぐ見ていた

「でも一つ分からないんです」
「分からない?」
「どうしてあの日話してくれなかったのか・・・」
紫音は寂しそうに笑った

「・・・怖かったんだと思います」
「怖い?」
「やせ衰えて弱っていく自分を見てもあなたが傍にいてくれるのか・・・残していく後ろめたさと手放さなければいけない歯がゆさ・・・」
「・・・」
「あの子を・・・焚迦釈を人間らしく変えたのはあなたの存在だと思うわ。あなたのことを話すときだけ焚迦釈は笑顔を見せてくれた・・・」
「・・・」
「それだけ大きな存在のあなたに離れていかれたら・・・そう思うと怖かったんだと思います。だからあえて自分から離れた・・・たとえあなたを傷つけると分かっていても・・・」
紫音はおばさんの言葉をかみ締めるように聞いていた

「・・・遺骨分けてもらってもいいですか?」
「え?」

「これからの私の人生を見ててもらいたいんです。誰よりも私の幸せを願ってくれた焚迦釈君に私のこれからをずっと・・・」
「紫音さん・・・」

「あの日『お前は幸せになれ』って『キライ』でなく『イヤ』としか言えなかった焚迦釈君がどんな思いだったのか今なら分かるから・・・」

紫音は空を見上げた
白く大きな羽を羽ばたかせて天に昇っていく焚迦釈が見えた気がした

自分にとって都合のいい幻
それでも紫音は強く願った

『いつかまた出会おうね。今度はもっと素直に気持ちを伝えるから・・・』

その願いに幻の焚迦釈はかすかに微笑んだように見えた―――

Fin

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