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13.突然の別れ

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「焚迦釈君・・・?」
いつもなら開いてる玄関のドアが閉まっていた

付き合い始めて1年ちょっとの間そんなことは一度もなかっただけに不安がよぎる
電話をかけても応答はない
メールを入れても帰ってこない

「何で・・・」
ドアの前で崩れるようにしゃがみこむ

夜になっても焚迦釈は帰ってこなかった
重い足を上げて駅に向かいうちに帰ると紫音は泣き続けた
そんなことが2ヶ月続いた時焚迦釈が現れた

「紫音・・・なんで・・・」
信じられないという目で焚迦釈が見ていた

「何・・・で?・・・会いたかったからに決まって・・・」
紫音の目から涙がこぼれる

「・・・もう来るな」
「え・・・?」
今度は紫音が信じられないという目で焚迦釈を見る

「もう会わない」
「どうして?私何かした?」
「・・・悪い。駅まで送るから帰ってくれ」
「焚迦釈君?!」
わけがわからないまま車に乗せられる

『どうして?焚迦釈君に何があったの?』
車の中で紫音は必死で考えた
でも分かることは焚迦釈が自分も含めて今まで以上に心を閉ざしてしまったということだけだった

『一緒にいたら追い詰めちゃうんだ・・・』
そんな考えが頭をよぎった
『でもこんなのって・・・』
涙が止まらなかった

「・・・気をつけてな」
駅の傍で焚迦釈はそう言った

「お前は・・・幸せになれ」
「え?」
予期せぬ言葉に焚迦釈を見る
悲しそうな目で自分を見ていた

抑えていた想いが溢れ出す
『言っちゃ駄目・・・』
心でそう思っても止まらない

「焚迦釈君が・・・幸せにしてくれるんじゃないの?私が傍にいる間は守ってくれるって言ってくれたじゃない!?」
「・・・」
『止まらない・・・』
「焚迦釈君いないのにどうやって幸せになればいいの?!ねぇ・・・教えてよ!」
身を乗り出し焚迦釈の服を掴んでいた

それでも焚迦釈は何も言わなかった
辛そうな瞳の奥に揺れる強い決意
震えるこぶしが自分への想いを押さえ込もうとしてる事に紫音は気づいてしまった
『もう・・・何を言っても無駄なんだ・・・』
漠然とそう思った

「・・・わかった」
「・・・」
「最後に一つだけ・・・」
「?」
「『キライになった』って言って・・・そしたら・・・ちゃんと諦めるから・・・」
焚迦釈は紫音の震える肩を見て自分のために必死で気持ちを押さえ込もうとしてる事を悟る

「お願・・・ぃ」
でないとここから動くことすらできないと紫音の目が語っていた

「・・・イヤに・・・なった」
長い沈黙の後焚迦釈は言った

『キライとは言ってくれないんだね・・・』
紫音は目を閉じた
楽しかった時間が走馬灯のように溢れてくる

焚迦釈があえて『キライ』ではなく『イヤ』と言った事でとてつもなく大きな『何か』があるのだとイヤでも分かってしまう
目を開けて焚迦釈の目を見る
真っ直ぐ見返される目には『愛してる』と言ってくれた時と同じ愛おしさがあった

紫音は焚迦釈にキスをした
「紫・・・?!」
「ありがとぅ・・・幸せな時間を・・・ありがとぉ・・・」
「!」
焚迦釈は必死で作られた笑顔に顔を背ける

「幸せに・・・ならなきゃ許さないから・・・!」
最後は声にならなかった
溢れてくる涙を必死でこらえて車を飛び出した

振り返る勇気はなかった
ただホームまで走り電車に飛び乗った
『イヤだよ・・・焚迦釈君のいない生活なんてイヤだよ・・・』
その日から紫音は固く心を閉ざしてしまった
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