チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜

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大勢いるはずなのに静まり返った家の中が酷く居心地が悪かった
マリクとリアムがローラと共に戻って来たのに気づいても言葉が出ない
すでに産気づいてから7時間が経っていた
とりあえずとテーブルに並べた簡単につまめるサイズの料理も全く減る気配がない
皆が母子ともに無事であることを祈り続けていた

「…風?」
ふと感じたのは暖かい空気の流れ
それを感じたのは俺だけじゃなかったらしい
レティとマリク、そして父さん達も同じように顔を上げた

「今何か暖かいものが…」
一体何だったのだろうかと首をかしげているところにかすかな泣き声が聞こえてきた
「…生まれた?」
サリーのような元気な産声ではなかった
でも少しずつそれは確実に聞こえる産声に変わる
「メリッサ…」
「っ…母さん!」
「待って、僕も…!
アランさんとヘンリーが階段を駆け上がっていくのをポールが追いかけていく
その直後聞こえてきたのは良かったというヘンリーの声だった
それを聞いて俺達の中にも安堵の空気が流れた

「無事に生まれたようで良かった」
「そうだな。でもあの風は何だったんだ?」
父さんとカルムさんの言葉に俺もレティと首をかしげる
窓は全て閉まっている
それなのに通り抜けて行った風

『あの子の想いが彼女を生かしたんだよ』
「え?」
突然囁いたのは風の妖精だった
『あの子はいつも喜んでたの』
『いつもみんなが気にかけてくれたから喜んでたの』
『これ以上お母さんを悲しませたくないって言ってたの』
『その想いが心地よかったの』
口々にささやかれる言葉
妖精達の言う“あの子”が誰のことか考えるまでもない
俺は導かれるように鑑定していた

***
アリナ 死産・転生
スキル 風魔法 
死してなお他者を思いやる想いの強さに創造神ゼノビアより慈悲を受け、同じ両親の、生まれてすぐ死亡した赤子に転生した稀有な魂を持つ
***

「…そんなことって…」
「シア?」
思わずつぶやいた俺をレティが心配そうに覗き込んでいた
「何か分かったのか?」
父さんが尋ねながら側に来る
「ああ…父さん、あの子のお墓を鑑定してみて!俺はアランさん達に伝えて来る!」
レティを促して2階に駆け上がる

「アランさん!メリッサさん!」
「シア?」
出産に付き添っていた母さんも心配そうに声をかけて来る
「おめでとう…それと…聞いてほしいことがある」
俺がどう切り出すべきか考えていると父さん達も駈け込んで来た
「…レイまで変な感じだな。一体何があった?」
アランさんがメリッサさんの側で生まれたばかりの子を抱いたままこっちを見て来る
ヘンリーとポールも不思議そうな顔で俺を見る

「落ち着いて聞いてほしい」
「ああ」
「何かしら?」
ただ事ではないと思ってくれたのか2人は俺を真っすぐ見返してきた
「その子は…その子の魂はあの子と一緒だって…」
「「え…?」」
「喜ぶべきか悲しむべきか悩むところなんだがな…メリッサの子は生まれてすぐ死んだらしいんだ」
「ど…ゆうこと?この子はこうして…」
「その体にあの子の…アリナの魂が転生したって」
うろたえるメリッサさん達に鑑定で表示された内容を細かく伝えた
余りにも突拍子もない内容に母さんは自らも鑑定しに行ったくらいだ

「そう…じゃぁお腹の中にいた子は無くなってしまったけれど、アリナが転生して生かされたってことなのね?」
メリッサさんが自分の心の中を整理しながらなんとか口にする
「腹の中で育ってた子の体にアリナの魂か…なら俺達は2人共育てられるってことだな」
「アランお前…」
「…いいんじゃないか?2人で1人でも愛しい子には変わらないしな」
「俺もいいと思う」
「そうね。私の体なんて突然湧いて出た物だもの。その点この子は体も魂も本物よ?」
「母さん…言い方」
なんでこう残念な物言いになるんだろうか?
「母さん、父さんもこの子の名前はアリナで決まりだよな?」
「そうだな」
「ええ」
アランさんとメリッサさんがヘンリーの問いに即答した
もともと女の子だったらアリナとつける予定だったことをみんな知ってるから誰も反対しなかった

2人続けて死産だったのに、その2人で共に1人の命をつなぐことが出来るなんて誰が考え付くだろう?
サリーとアリナは皆に新しい家族として当然の様に受け入れられていた


+-+補足+-+
発煙筒は「ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました」の「18.体調不良」で登場します。気になる方は覗いてみてください
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