チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜

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「シア、今いい?」
夕食後に報酬の分割を済ませて部屋に戻るとケインがやってきた

「おう。どうした?」
その問いに答えないままケインは俺のそばまでやってくる
そしてソファーでくつろいでいた俺の横に座ると抱き付いてきた

「甘えん坊タイムか?」
尋ねるとケインは小さく頷いた
シャノンとスカイが甘え上手なせいか、ケインはいつも両親の前で遠慮する節がある
勿論両親もそれに気づいてるから2人がひと段落着いた後にはちゃんとケインの事も甘やかす
でも今日は母さんの妊娠の話があったからスカイが離れないんだろう

「今日は何してたんだ?」
「あのね----」
そう尋ねてやればケインは今日1日の事を夢中になって話し出す
俺はそれをケインの気が済むまで聞くだけだ
それが通称甘えん坊タイム

ケインが自分の気持ちをこうやって吐き出すように伝えるようになったのは事故にあってから
母さんは一種の強迫観念みたいなものだろうって考えてる
あの日出かける前にケインはスカイと大喧嘩してたから余計かもしれない
30分ほどかけて一通り話し終えたケインはスッキリした顔をする
でも今日はそれでもまだしがみ付いていた

「他にも何かあったのか?」
膝の上に載せて抱きしめてやると顔を埋める様にしがみ付いてきた

「ケイン?」
「シアたちが旅に出たらどうしたらいい?」
「どういうことだ?」
「こうやってシアに聞いてもらえなくなる」
「あ~…」
母さんたちはこれまでの様にスカイとケインに時間を割けなくなるってことか
今なら俺が代わりに聞いてやれるがスカイにそれを期待するのは難しい

「そうだなぁ…」
流石に俺にも即答できずにいるとケインのしがみ付く力が強くなる

「ケイン…」
一度母さんたちも俺もいなかった時にケインはパニックに陥ったことがある
これは母さんたちと真剣に考えないといけないか?

「なぁケイン」
「…ん?」
「文字にすることでも少しは落ち着くか?」
「文字?」
「そう。手紙とかだな」
俺がそう言うとケインは考え込んだ

「わからないよ…そんなに字を書いたことないし」
「そういえば読むの専門だったか?」
薬草に関する知識は母さんとバルドさんからが7割、残りの3割が本からだったはず
気持ちは言葉でなくても文字でも伝えられるものだ
もしそれでケインが落ち着けるならケインの為にもいいことだと思うんだけどな

「文字の練習も兼ねて少しずつ書いてみないか?」
「文字の練習…バルドさんが大事だって言ってた」
「そうだな。読み書きや計算が出来れば成人してから選べる道は増えるからな」
「…文字にしたら話しちゃダメ?」
「そうじゃない。話せない時の代わりの手段だ。ケインは誰かに伝えることが出来たら落ち着けるだろう?」
「うん」
「こうやって話をするのは手っ取り早い手段だ。でも文字にしても人に伝えることは出来るんだ」
「…」
「今すぐにそうしろなんて言う気はないからちょっとずつでも試してみないか?」
「試す…」
ケインはつぶやいて黙り込む

「例えばそうだなぁ…シャノンに“Bランクおめでとう”とか、母さんに“お兄ちゃんになるのが楽しみだ”とか、あとはスカイと喧嘩した時に“ごめんなさい”とかかな」
「そんなのでいいの?」
「ん?それで充分伝わるからな。それともケインは喧嘩した時にスカイに“ごめんなさい”って言われても何も感じないか?」
「ううん。僕もごめんなさいって思う。…僕書いてみる!」
「おう。頑張れ」
ケインの頭をなでると嬉しそうに頬ずりしてくる

「ケイン、その手紙な」
「ん?」
「書けたら相手の部屋のドアの下から差し込んでみ」
「ドアの下から?」
「そ。部屋を出入りしようとしたら気付くだろう?」
「うん!シア、ここで書いてもいい?」
「いいぞ。ほら」
テーブルに紙とペンを出すとケインは早速書き始めた
ゆっくり字を思い出すようにしながら一文字ずつ綴っていくのを俺はただ眺める

「…できた!」
10分ほどして1枚書き終えたらしい

「お母さんたちの部屋に置いてくる」
ゆっくりしか動かない足を必死に動かして手紙を置いてきたケインは、満足げに笑いながらまた抱き付いてきた
「お母さんよろこんでくれるかな?」
「ああ。絶対喜ぶよ」
それは断言してもいい
少しの間母さんの反応を想像していたケインは疲れたのか眠ってしまった
ケインの部屋に連れて行こうとして断念する
その手が俺の服をしっかり握りしめていたからだ

「まぁいいか」
俺はケインを抱いたまま本を読み始めた

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