チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜

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8.わだかまり

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あの時
それはルークとシャノンがまだ母さんのお腹の中にいた頃の話だ
俺が力を暴走させたのはあの日だけ

俺と母さんは誘拐されて監禁された
その時俺は母さんの首筋から流れる血を見て力を暴走させた
結果的に事件は解決したけど、下手したら母さんも、お腹の中の2人も含めて殺してたかもしれない
あの時の恐怖を忘れたことは無いし、今でも時々夢に見る

「父さんが誰よりも愛してる母さんを殺しかけた俺を許せるはずがないんだ…俺はずっと恨まれて…」
ずっと心の中で抱き続けた言葉をようやく口にすることが出来た

長男として大切にしてくれてるのは分かってた
でもいつもどこかぎこちなくて、そのことを言えばそれさえ失ってしまうと思うと口にはできなかった

「シアお前…」
父さんは驚いたような顔をしていた
そのことに、俺の方が驚いた

「…お前はずっとそんな風に思ってたのか?」
その声はかすかに震えてるような気がした

「何でもっと早く言わなかった?」
「え…?」
「いや、違うな…お前が何かにおびえてるのに気づきながら確認しなかった俺が悪い」
次の瞬間俺は力強い腕に抱きしめられていた

「と…さん?」
こんな風に抱きしめられたのはいつ振りだ…?
ルークもシャノンも、最近でも父さんに抱きしめてもらってるのを見てずっと羨ましかったんだ
この腕の中は守られてるって教えてくれる
あの事件の前は当たり前のように抱き上げてくれた
父さんに飛びつけば必ず抱きしめてくれた

「…俺…この腕の中が好きだった…」
羨ましいと思う理由なんてそれしかなかったんだ

「もっと早くに、ちゃんと話せばよかったな…シア」
父さんの体が離れていくのを寂しいと思った
もうすぐ成人するのにかっこ悪い…

「お前を恨んだことは無い。許すも許さないも…お前は何も悪いことはしてないだろ」
「嘘だ…じゃぁなんで…」
なんで俺だけ距離があったんだよ?

「俺から離れて行ったのはシアだぞ」
「え…?」
心臓がドクンと脈打った
俺が…離れた?

「あの事件の少し後からか…お前は俺にくっついてこなくなった」
「そんなこと…」
「サラサが気を使って抱き上げたお前を俺に預けてきても、そのたびにお前の体は強張るようになった。だから俺は、無理にお前に触れるのをやめた」
嘘だろ…

「でも…だからってなんで…」
「…俺はお前に拒否されても仕方がないと思ってたからだ」
「どういうこと?」
「お前は覚えてないかもしれないけどな…事件の後、サラサとシア、サラサの腹の中の双子を失いそうになった恐怖から俺は逃げた」
「逃げた…?」
「情けない話だ…自分の中に閉じこもったんだよ。しばらくの間お前にも寂しい思いをさせた」
そんなの知らない…

「正気に戻ったとき、お前が最初に口にしたのは『嫌いにならないで』って言葉だった。流石にあれは堪えた」
父さんの言うことは俺の記憶にはない

「カーロには誘拐されるより俺に嫌われる方が怖いと言っていたらしい。あの時ちゃんと話して、お前は笑顔を取り戻してたから大丈夫だと安心してたんだけどな…」
そう言って父さんは大きく息を吐きだした

「お前はまだ幼かった。いつ過去に引き戻されてもおかしくなかったんだよな」
父さんの手が俺の頬に触れる
大きなゴツゴツした、そのくせ優しい手

「お前の言う通り俺はサラサを愛してる。それはサラサがいなかったら今の俺は無いからだ」
「…」
そんなこと言われなくても知ってる
だから父さんは俺を…

その先は分かってるのに聞くのが怖かった
でも…



+-+補足+-+
過去の事件に関するに興味をお持ちの方は
「ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました」を覗いてみてください
サラサと幼いシアが誘拐された話:50.事件
レイが逃げていた時:51.レイの異変
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