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本編
愛が重い婚約者と婚約者の運命の少女(自称)
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リディナ様の理解不能な発言(『私は彼の運命の乙女』だの、『どうせ断罪されるんだからさっさと譲れ』だの)を聞き流していると、何やら周囲が(主に女性陣)ざわつき始めました。途端、私の本能が『逃げろ』と告げました。私は本能に従い周囲に気付かず今だ何かを仰っているリディナ様に背を向け、走り去りました。否、走り去ろうとしました。私が一歩踏み出す前に、何者かが私を抱きすくめたのです。···いいえ、私にこんなことをする方は『あの人』しかおりません。
「おはよう、僕のアイネ。相も変わらず今日の君も世界一美しいね。あまりの美しさに、周りの景色が霞んで見えてしまうよ。」
「おはよう、ございます。····エミリオ殿下。」
件の私の婚約者で、リディナ様曰く彼女の運命の御相手のロージェンス王国王太子エミリオ·ロージェンスその人が夏の空を思わせる瞳(糖分過多)で私を見つめていました。
▷▶▷▶▷▶▷▶
「えっ、エミリオ様っ!?」
エミリオ殿下が姿を見せた途端、先程まで意味不明な言葉の羅列を発していた少し(大分?)おかしな少女が、恋愛小説のヒロインよろしく可憐な笑みを浮かべて殿下の元へ駆け寄ります。···なんという変わり身の早さ。彼女とても演技力が高そうです。心なしかリディナ様の周りに花が舞っているように見えるのですが、これが彼女の言う『おとめげーむ』のワンシーンなのでしょうか。
リディナ様が殿下(と私)の元へ行こうとすると突然、数人の生徒がまるで壁のように彼女の前に立ち塞がったのです。その方々は、普段私と懇意にして下さっている人たちでした。皆一様にリディナ様に敵意剥き出しな様子で睨み付けていました。
と、私と仲の良い友人のミレーヌ様が口を開きました。
「貴女先程からアイネリーゼ様に失礼ですわよ!治癒魔法が使えるからと言って公爵令嬢のアイネリーゼ様にそのような無礼をするのは許される事ではございませんわ。」
「そうですわ!それにエミリオ殿下に対しても馴れ馴れしくエミリオ様などと···!殿下の婚約者はアイネリーゼ様ですのよ!」
私のご友人たちに諭されるものの、リディナ様はどこか嬉しそうな笑みを浮かべています。
「ゲームのプロローグそのものじゃない···!やっぱりここは『ヒー♡ラバ』の世界なのね!そしてヒロインはわ·た·し♡あぁ、これから愛しのエミリオ様との胸キュンスクールライフが始まるのね!やっぱりアイネリーゼには卒業記念パーティーなんかじゃなくて、もっと早い段階で退場してもらわなきゃ!だってその方がエミリオ様ともっともーっと一緒に居られるもの···♡」
早口で何を仰っているのか全く分かりませんが爛々と光る瞳や、時折口から漏れるあまり上品でない笑い方(デュフフフとかハスハスとか)のせいで折角の可愛らしいお顔が台無しになっています。周囲の方々ドン引きです。ミレーヌ様たちも後退りしていますし、殿下に至っては虫ケラを見るよりも酷い顔をしながら益々私をキツく抱き締めました。く、苦しい·····。
「アイネリーゼに虐められてるって印象付けるには、やっぱり泣いた方が良いわよね?······ウワーン、ウワーン、アイネリーゼ様酷いー(棒)ワタシガナニヲシタッテイウノー(棒)」
謎の言語を発したと思ったら、今度はいきなり泣き真似をし始めました。台詞が棒読みな上に涙が一滴も垂れていないのですが···。しかし嘘泣きとは言え、女性を泣かせたままでいるのはいかがなものでしょう。私は今だ私を抱き締めて離さない殿下を見上げました。
「エ、エミリオ殿下、リディナ様を慰めてあげて下さいませ。」
「···どうして?あの子が先程アイネを侮辱していたのは知っているんだよ。彼女たちの言い分も尤もだし。慰める必要なんてある?」
····相変わらず、私に害を為すと認定した方にとても厳しい人です。どうしてここまで私に固執するのか分かりませんが···。初めて出会った時から殿下は少し変なのです。(·····いえ、かなり?)
「わ、私に対してどのような態度を取ろうと、この国に住まう民に変わりありませんわ。そして王族は何時如何なる時も民を守る為にあるのですから。」
「あぁ、アイネ····!君はなんていじらしいんだ!自分を侮辱する相手に対しても貴族の矜持を忘れないその気高さ····!どこまで僕を夢中にさせれば気が済むんだ····!!」
ちょ、骨、骨折れます殿下!そんなにキツく締め付けないで下さい···!
「はぁ、仕方ない。僕はあんな奴に話しかけることすら不快だけど世界一愛おしい婚約者の頼みだ、引き受けるよ。」
ちょっと待っててね、と私の後頭部にチュッと軽く口づけた後、とても不本意そうに嘘泣きをしているリディナ様の元へ向かい、ハンカチを差し出しました。
「·····オルヴァリーク男爵令嬢、いい加減泣き止んで下さい。」
「グスッ、エミリオ様····!わ、私が悪いのです。私、市井で育ったせいで貴族のルールなんて何も知らなくて····。だから、アイネリーゼ様たちに迷惑を····。」
·····リディナ様、中々に強かですね。市井出身で貴族の事が分からないからあんな態度を取ってしまった。だから彼女たちは悪くない、悪いのは自分だ、と言っています。自分の無知を詫びて相手を立てる事で同情を買うつもりですか。周囲の人々の何人かは、そんな彼女の作戦にまんまと乗せられてしまったようです。
エミリオ殿下は····、相変わらずの鉄仮面ぶりですね。殿下は私以外の方の前では基本的に無表情なのです。寧ろ周囲の方たちにとって、私と居る時のあの蕩けた表情が異常なのだそうです。
そんな私と殿下の出会いは私たちが五歳の時まで遡ります。
「おはよう、僕のアイネ。相も変わらず今日の君も世界一美しいね。あまりの美しさに、周りの景色が霞んで見えてしまうよ。」
「おはよう、ございます。····エミリオ殿下。」
件の私の婚約者で、リディナ様曰く彼女の運命の御相手のロージェンス王国王太子エミリオ·ロージェンスその人が夏の空を思わせる瞳(糖分過多)で私を見つめていました。
▷▶▷▶▷▶▷▶
「えっ、エミリオ様っ!?」
エミリオ殿下が姿を見せた途端、先程まで意味不明な言葉の羅列を発していた少し(大分?)おかしな少女が、恋愛小説のヒロインよろしく可憐な笑みを浮かべて殿下の元へ駆け寄ります。···なんという変わり身の早さ。彼女とても演技力が高そうです。心なしかリディナ様の周りに花が舞っているように見えるのですが、これが彼女の言う『おとめげーむ』のワンシーンなのでしょうか。
リディナ様が殿下(と私)の元へ行こうとすると突然、数人の生徒がまるで壁のように彼女の前に立ち塞がったのです。その方々は、普段私と懇意にして下さっている人たちでした。皆一様にリディナ様に敵意剥き出しな様子で睨み付けていました。
と、私と仲の良い友人のミレーヌ様が口を開きました。
「貴女先程からアイネリーゼ様に失礼ですわよ!治癒魔法が使えるからと言って公爵令嬢のアイネリーゼ様にそのような無礼をするのは許される事ではございませんわ。」
「そうですわ!それにエミリオ殿下に対しても馴れ馴れしくエミリオ様などと···!殿下の婚約者はアイネリーゼ様ですのよ!」
私のご友人たちに諭されるものの、リディナ様はどこか嬉しそうな笑みを浮かべています。
「ゲームのプロローグそのものじゃない···!やっぱりここは『ヒー♡ラバ』の世界なのね!そしてヒロインはわ·た·し♡あぁ、これから愛しのエミリオ様との胸キュンスクールライフが始まるのね!やっぱりアイネリーゼには卒業記念パーティーなんかじゃなくて、もっと早い段階で退場してもらわなきゃ!だってその方がエミリオ様ともっともーっと一緒に居られるもの···♡」
早口で何を仰っているのか全く分かりませんが爛々と光る瞳や、時折口から漏れるあまり上品でない笑い方(デュフフフとかハスハスとか)のせいで折角の可愛らしいお顔が台無しになっています。周囲の方々ドン引きです。ミレーヌ様たちも後退りしていますし、殿下に至っては虫ケラを見るよりも酷い顔をしながら益々私をキツく抱き締めました。く、苦しい·····。
「アイネリーゼに虐められてるって印象付けるには、やっぱり泣いた方が良いわよね?······ウワーン、ウワーン、アイネリーゼ様酷いー(棒)ワタシガナニヲシタッテイウノー(棒)」
謎の言語を発したと思ったら、今度はいきなり泣き真似をし始めました。台詞が棒読みな上に涙が一滴も垂れていないのですが···。しかし嘘泣きとは言え、女性を泣かせたままでいるのはいかがなものでしょう。私は今だ私を抱き締めて離さない殿下を見上げました。
「エ、エミリオ殿下、リディナ様を慰めてあげて下さいませ。」
「···どうして?あの子が先程アイネを侮辱していたのは知っているんだよ。彼女たちの言い分も尤もだし。慰める必要なんてある?」
····相変わらず、私に害を為すと認定した方にとても厳しい人です。どうしてここまで私に固執するのか分かりませんが···。初めて出会った時から殿下は少し変なのです。(·····いえ、かなり?)
「わ、私に対してどのような態度を取ろうと、この国に住まう民に変わりありませんわ。そして王族は何時如何なる時も民を守る為にあるのですから。」
「あぁ、アイネ····!君はなんていじらしいんだ!自分を侮辱する相手に対しても貴族の矜持を忘れないその気高さ····!どこまで僕を夢中にさせれば気が済むんだ····!!」
ちょ、骨、骨折れます殿下!そんなにキツく締め付けないで下さい···!
「はぁ、仕方ない。僕はあんな奴に話しかけることすら不快だけど世界一愛おしい婚約者の頼みだ、引き受けるよ。」
ちょっと待っててね、と私の後頭部にチュッと軽く口づけた後、とても不本意そうに嘘泣きをしているリディナ様の元へ向かい、ハンカチを差し出しました。
「·····オルヴァリーク男爵令嬢、いい加減泣き止んで下さい。」
「グスッ、エミリオ様····!わ、私が悪いのです。私、市井で育ったせいで貴族のルールなんて何も知らなくて····。だから、アイネリーゼ様たちに迷惑を····。」
·····リディナ様、中々に強かですね。市井出身で貴族の事が分からないからあんな態度を取ってしまった。だから彼女たちは悪くない、悪いのは自分だ、と言っています。自分の無知を詫びて相手を立てる事で同情を買うつもりですか。周囲の人々の何人かは、そんな彼女の作戦にまんまと乗せられてしまったようです。
エミリオ殿下は····、相変わらずの鉄仮面ぶりですね。殿下は私以外の方の前では基本的に無表情なのです。寧ろ周囲の方たちにとって、私と居る時のあの蕩けた表情が異常なのだそうです。
そんな私と殿下の出会いは私たちが五歳の時まで遡ります。
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