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プロローグ
自称乙女ゲームのヒロイン
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「エミリオ殿下、どうか目を覚まして下さいませ!そこに居るアイネリーゼ様は私に数々の嫌がらせをした悪女ですの!私のノートをビリビリに破いたのも、私のドレスにジュースのシミを付けたのも全部···!」
全校生徒が集まるホールにリディナ様の甲高い声が響き渡ります。リディナ様の発言に、周りがざわざわし始めました。けれど私は背筋を伸ばして彼女を見つめ続けます。だって、私は彼女に何もしていませんもの。それにしても···、彼女は劇団員か何かを目指すのでしょうか?ご友人の肩に顔を埋めて嗚咽を出していますが、それにしては涙が一向に流れていないのですが。泣く真似をするならもっと練習すべきでは?
「私が殿下とお話をしていたからといって、妬んで嫌がらせをしたのでしょう!?酷いですわ、私はただ殿下と仲良くしたかっただけなのに···!」
殿下がピクリと反応します。あ、まずいです、殿下にあらぬ誤解を与えてしまいました。
「で、殿下、私はリディナ様に嫉妬などしておりませんからね?」
「そうか····、よく分かった。」
それまで沈黙を貫いていた無表情の殿下が口を開きました。
「エミリオ殿下····!」
その言葉にリディナ様が殿下の元へ駆け寄ります。否、駆け寄ろうとしました。しかし、彼女が殿下に触れる事はありませんでした。リディナ様が殿下の腕に触れようとした瞬間、殿下が私をきつく抱き締めたからです。
「そうか、嫉妬をしてくれたのかアイネ!心配しなくても僕は世界で一番君を愛しているよ!あぁ、でも君が嫉妬をしてしまう程僕の事を好いてくれているなんて···!」
あああ、やっぱり殿下は勘違いをなさっています!私は別にリディナ様を羨んでなんていませんし、仲良くするのは私にとっても(精神衛生上)良い事だと思っていますのに!それに、心なしか耳と尻尾の幻覚が見えるのですが!?
「で、ですから誤解なさらないで!」
「照れなくてもいいよ、あぁ、可愛い僕のアイネ。やっぱりすぐにでも式を挙げよう。早く君を僕の花嫁にしたい。」
「話を聞いて下さいませ!」
殿下に説得を試みますが、どうやら己の世界に入り込んでしまったらしく私の言葉は届いていないようです。で、殿下、苦しいです、そんな馬鹿力で抱き締めないで下さいませ!私は必死に殿下の腕を叩きますが、そんな抗議も空しく益々強く抱き締められてしまいました。ちょ、死にます、死にます、絞め殺す気ですか!
チラリとリディナ様の方を向くと、両腕を前に伸ばしている状態で固まっていました。信じられないものを見るような目で殿下を見ています。周りの方々も同様です。そうでしょうね、皆さんの前では無表情を崩さない『鉄仮面王子』が間違ってもこんな大型犬のような姿を見せるとは想像もつかないでしょうね。
と、リディナ様が正気を取り戻したようです。案外早いですね、殿下のこの姿を見た方は三十分は固まったままですのに。私は思わず感心してしまいました。
「エミリオ殿下、ですからアイネリーゼ様は···!「悪いけど、これ以上その雑音を聞かせるようなら···殺すよ?」」
再び声を上げようとするリディナ様を殺気の篭った眼差しと底冷えするような声で黙らせました。リディナ様がひゅっと息を呑むのが聞こえます。そりゃあそうでしょう、貴女は彼の地雷を踏み抜いてしまったのですから。ぶちギレた殿下を相手にして敵う者はいません。
「先程から黙って聞いていれば···、僕のアイネが君を妬んで嫌がらせ?冗談も休み休み言いなよ。たかだか男爵家の庶子でしかない君をどうしてアイネが妬む必要がある?」
「で、ですから、私が治癒魔法を使えて、殿下と仲良くしていたから···!」
「治癒魔法は珍しいだけで、君しか使えない訳じゃない。現に王宮には最精鋭の治癒魔法術師が揃っている。それに君は治癒魔法しか使えないみたいだけど、僕のアイネは火·水·土·風の四種類の魔法を扱える。それに、いつ僕が君と仲良くしていたって?」
「入学式の日に、絡まれていた私を助けて下さいましたし、授業で分からない所を教えて下さいました!それに、私が挨拶をしたら笑顔で返して下さったじゃないですか!」
「君を助けたのはアイネに王族は民を守る為にあると諭されていたからで、分からない所を教えたのは僕の代に落ちこぼれの劣等生を出したくなかっただけだ。それに、挨拶をされたら返すのが常識だろう?君はそんな常識も知らないのか?」
リディナ様の発言を尽く論破していきます。リディナ様の話だと、『げーむ』の中の『いべんと』とやらで『しんみつど』を上げて彼女と殿下が最終的に結ばれるのだそうですが···、
「大体、僕はアイネ以外に興味はない。こんなに愛おしくて、世界一美しい女性が未来の妻だと言うのに他の女などに現を抜かす訳がないだろう。」
殿下はリディナ様にこれっぽっちも心を動かされていませんね。依然として私の腰を抱き締めて離してくれませんし。
「そんな、嘘よ!ゲームでのエミリオ殿下はアイネリーゼなんかに興味なくて、私に、私だけに夢中な筈だったのに!」
「何を訳の分からない事を言っているんだ。それと、その汚らわしい口でアイネの名を馴れ馴れしく呼ぶな。アイネが汚されてしまうだろう。」
それと、と殿下が続けます。
「オルヴァリーク男爵令嬢、君の言うアイネがした嫌がらせとやらだが、全て君の自作自演であるという証拠が上がっている。諦めるんだな。」
殿下がリディナ様の目の前で一枚の紙をペラペラと振りました。恐らく、私がリディナ様に対して何の悪事も働いていない事を示す証拠でしょう。なす術なく殿下に弾圧されたリディナ様はペタンと床に座り込んでしまいました。
「そん、な·····。私が、ヒロイン、なのに···っ!おかしいわ、こんなの····!」
「衛兵、コイツを連行しろ。危うく未来の王妃が謂れのない罪を着せられる所だった。この罪は重いぞ。」
先程までの高飛車な雰囲気は全く感じられず、その姿は何だかいつもよりも小さく見えました。
「大丈夫だったかい?僕のアイネ。もう邪魔な虫は去ったから安心していいよ。」
····リディナ様は『げーむ』の中で殿下と結ばれるのだと言っていましたが、過度なまでに愛情深くて、嫉妬深くて、私の敵に一切の容赦がないこの方が私を捨てて彼女と結ばれる所など想像がつきません(断して惚気などではないです。認めざるを得ない事実なのです。)。寧ろ私が離れてほしいと言ってもきっと一生離してはくれないでしょう。
···彼女は『げーむ』とやらの中の殿下を、一体どうやって落としたのかしら?
全校生徒が集まるホールにリディナ様の甲高い声が響き渡ります。リディナ様の発言に、周りがざわざわし始めました。けれど私は背筋を伸ばして彼女を見つめ続けます。だって、私は彼女に何もしていませんもの。それにしても···、彼女は劇団員か何かを目指すのでしょうか?ご友人の肩に顔を埋めて嗚咽を出していますが、それにしては涙が一向に流れていないのですが。泣く真似をするならもっと練習すべきでは?
「私が殿下とお話をしていたからといって、妬んで嫌がらせをしたのでしょう!?酷いですわ、私はただ殿下と仲良くしたかっただけなのに···!」
殿下がピクリと反応します。あ、まずいです、殿下にあらぬ誤解を与えてしまいました。
「で、殿下、私はリディナ様に嫉妬などしておりませんからね?」
「そうか····、よく分かった。」
それまで沈黙を貫いていた無表情の殿下が口を開きました。
「エミリオ殿下····!」
その言葉にリディナ様が殿下の元へ駆け寄ります。否、駆け寄ろうとしました。しかし、彼女が殿下に触れる事はありませんでした。リディナ様が殿下の腕に触れようとした瞬間、殿下が私をきつく抱き締めたからです。
「そうか、嫉妬をしてくれたのかアイネ!心配しなくても僕は世界で一番君を愛しているよ!あぁ、でも君が嫉妬をしてしまう程僕の事を好いてくれているなんて···!」
あああ、やっぱり殿下は勘違いをなさっています!私は別にリディナ様を羨んでなんていませんし、仲良くするのは私にとっても(精神衛生上)良い事だと思っていますのに!それに、心なしか耳と尻尾の幻覚が見えるのですが!?
「で、ですから誤解なさらないで!」
「照れなくてもいいよ、あぁ、可愛い僕のアイネ。やっぱりすぐにでも式を挙げよう。早く君を僕の花嫁にしたい。」
「話を聞いて下さいませ!」
殿下に説得を試みますが、どうやら己の世界に入り込んでしまったらしく私の言葉は届いていないようです。で、殿下、苦しいです、そんな馬鹿力で抱き締めないで下さいませ!私は必死に殿下の腕を叩きますが、そんな抗議も空しく益々強く抱き締められてしまいました。ちょ、死にます、死にます、絞め殺す気ですか!
チラリとリディナ様の方を向くと、両腕を前に伸ばしている状態で固まっていました。信じられないものを見るような目で殿下を見ています。周りの方々も同様です。そうでしょうね、皆さんの前では無表情を崩さない『鉄仮面王子』が間違ってもこんな大型犬のような姿を見せるとは想像もつかないでしょうね。
と、リディナ様が正気を取り戻したようです。案外早いですね、殿下のこの姿を見た方は三十分は固まったままですのに。私は思わず感心してしまいました。
「エミリオ殿下、ですからアイネリーゼ様は···!「悪いけど、これ以上その雑音を聞かせるようなら···殺すよ?」」
再び声を上げようとするリディナ様を殺気の篭った眼差しと底冷えするような声で黙らせました。リディナ様がひゅっと息を呑むのが聞こえます。そりゃあそうでしょう、貴女は彼の地雷を踏み抜いてしまったのですから。ぶちギレた殿下を相手にして敵う者はいません。
「先程から黙って聞いていれば···、僕のアイネが君を妬んで嫌がらせ?冗談も休み休み言いなよ。たかだか男爵家の庶子でしかない君をどうしてアイネが妬む必要がある?」
「で、ですから、私が治癒魔法を使えて、殿下と仲良くしていたから···!」
「治癒魔法は珍しいだけで、君しか使えない訳じゃない。現に王宮には最精鋭の治癒魔法術師が揃っている。それに君は治癒魔法しか使えないみたいだけど、僕のアイネは火·水·土·風の四種類の魔法を扱える。それに、いつ僕が君と仲良くしていたって?」
「入学式の日に、絡まれていた私を助けて下さいましたし、授業で分からない所を教えて下さいました!それに、私が挨拶をしたら笑顔で返して下さったじゃないですか!」
「君を助けたのはアイネに王族は民を守る為にあると諭されていたからで、分からない所を教えたのは僕の代に落ちこぼれの劣等生を出したくなかっただけだ。それに、挨拶をされたら返すのが常識だろう?君はそんな常識も知らないのか?」
リディナ様の発言を尽く論破していきます。リディナ様の話だと、『げーむ』の中の『いべんと』とやらで『しんみつど』を上げて彼女と殿下が最終的に結ばれるのだそうですが···、
「大体、僕はアイネ以外に興味はない。こんなに愛おしくて、世界一美しい女性が未来の妻だと言うのに他の女などに現を抜かす訳がないだろう。」
殿下はリディナ様にこれっぽっちも心を動かされていませんね。依然として私の腰を抱き締めて離してくれませんし。
「そんな、嘘よ!ゲームでのエミリオ殿下はアイネリーゼなんかに興味なくて、私に、私だけに夢中な筈だったのに!」
「何を訳の分からない事を言っているんだ。それと、その汚らわしい口でアイネの名を馴れ馴れしく呼ぶな。アイネが汚されてしまうだろう。」
それと、と殿下が続けます。
「オルヴァリーク男爵令嬢、君の言うアイネがした嫌がらせとやらだが、全て君の自作自演であるという証拠が上がっている。諦めるんだな。」
殿下がリディナ様の目の前で一枚の紙をペラペラと振りました。恐らく、私がリディナ様に対して何の悪事も働いていない事を示す証拠でしょう。なす術なく殿下に弾圧されたリディナ様はペタンと床に座り込んでしまいました。
「そん、な·····。私が、ヒロイン、なのに···っ!おかしいわ、こんなの····!」
「衛兵、コイツを連行しろ。危うく未来の王妃が謂れのない罪を着せられる所だった。この罪は重いぞ。」
先程までの高飛車な雰囲気は全く感じられず、その姿は何だかいつもよりも小さく見えました。
「大丈夫だったかい?僕のアイネ。もう邪魔な虫は去ったから安心していいよ。」
····リディナ様は『げーむ』の中で殿下と結ばれるのだと言っていましたが、過度なまでに愛情深くて、嫉妬深くて、私の敵に一切の容赦がないこの方が私を捨てて彼女と結ばれる所など想像がつきません(断して惚気などではないです。認めざるを得ない事実なのです。)。寧ろ私が離れてほしいと言ってもきっと一生離してはくれないでしょう。
···彼女は『げーむ』とやらの中の殿下を、一体どうやって落としたのかしら?
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