狂喜と愛の巣

夢咲桜

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6章 隠された秘密

閑話 side ユヴェール

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その日ユヴェールは国王であるウィリアムに呼び出され、アイリスが半ば誘拐のような形で王宮へ連れて行かれてから初めて再びその地へ足を踏み入れることになった。王宮へ向かうにあたって、何も知らないクラリスにはアイリスの婚約者の家へ伺うと言っておいた。ウィリアムはアイリスを必ず妻にすると言って憚らないので、婚約者の家へ行くと言うのも強ち間違いではない。尤も家を出る直前まで愛し合って起き上がれない程疲れて眠ってしまっているので、何ら問題はないとは思うが。
アイリス以外には冷酷で残虐で血も涙もないようなウィリアムを待たせてはいけないと、ユヴェールは大急ぎで支度を整え馬車を走らせた。

「国王陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう。ユヴェール·レクソン·コンフィリオ、只今到着いたしました。」
「遅い。連絡を受けてからどれだけ経ったと思っているのか。」
通された部屋には、何の感情も浮かんでいない作り物めいた美しさを持つウィリアムその人が中心に置かれた二対のソファのうちの一つに座っていた。
「申し訳ありません。何分支度に手間取ってしまいまして。」
「····ふん、まぁいい。本題に移るぞ。座れ。」
ウィリアムは興味なさげに自身の向かいにあるソファを顎で指し示す。それにユヴェールは一礼し、ウィリアムの向かいに座った。
「···それで、ご用件と言うのは?」
「用件は二つ。一つはアイリスを近々国王妃として民衆に発表する事、そしてもう一つは『』をアイリスに話す事だ。」
ウィリアムの言葉に、ユヴェールは思わず息を呑む。一つ目はウィリアムは必ずするだろうと思っていた事なので特に驚きはしなかったが、問題は二つ目だ。
「お、お待ち下さい!それはアイリスには何も告げないと仰っていたのに、どうして今になって····!」
「事情が変わった。私も本当はアイリスには何も知らずにいて欲しかったが···、どうやらあの子はそういった暗い部分を見せる方が私に縛られていてくれると分かったんだ。本当にアイリスは優しくて、純真で······とても愚かだ。」
くつくつと仄暗い笑みを浮かべながらそう言ってのけるウィリアム。彼はアイリスを手に入れる為ならアイリス自身を利用しても、それでアイリスが自分に堕ちてくれるなら一向に構わないのだろう。少なからず自分にもそういった面があるが故にユヴェールは何も言うことが出来ない。
が心配か?お前はアイリスが辛い想いをするのを見ると、妻が苦しんでいるように思えてしまうんだものな。」
「違います!そ、んな事····、私は、アイリスの事が心配で····っ」
「いいや違わない。お前が心の底から愛していて大切にしているのはクラリス·アリア·ただ一人。アイリスを大切にしているのもアイリスが姿をしているからだろう?誰にでも優しく親切なのは、誰に対しても無関心な事の裏返しだと言うじゃないか。」
「······っ」
ウィリアムはいつになく穏やかに、それでいて鋭利な刃のようにユヴェールの心の深くに仕舞い込んでいる部分を切りつける。ユヴェールが言葉を詰まらせている隙に、更に畳み掛けるようにユヴェールの耳に囁く。
「ユヴェール、お前は私と良く似ている。それはお前が一番理解しているだろう?---それに、これはお互いにとって得しかない事じゃないか。私は愛するアイリスを手に入れられる。お前は愛する妻と再び二人きりで暮らしていけるんだ。」
(クララと、誰にも邪魔されず二人だけで····。)
そうだ、本当はずっとそれを望んでいた。ユヴェールは自分の世界にあるのは自身とクラリスだけで良いとずっと思っていた。妻を自分に縛り付ける為の手段として生まれたアイリスは、まるで生き写しのようにクラリスにそっくりだった。だから、アイリスに対して湧かなくていい情まで抱いてしまったのだろう。
「協力、してくれるだろう?ユヴェール·レクソン·。愛する侍女の為に国を滅ぼした王太子殿?」
ユヴェールは、殊更に甘く優しい致死量の毒に手を伸ばした。
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