狂喜と愛の巣

夢咲桜

文字の大きさ
上 下
13 / 26
3章 彼の溺愛包囲網

彼の正体

しおりを挟む
「ん····、ふ、ぁ····」
「···っは、本当、可愛い···、好きだよアイリス。」
初めての口づけは何故だか甘い味がして、アイリスは頭がぼんやりとしてきた。何度も何度も唇を重ねて、お互いの熱を高め合う。
「んぁ、わ、たしも···、好き····っ、んぅっ!?」
頭が上手く回らない中で必死に応えていると、それまで優しく口づけを落としていたウィリアムが突然かぶりつくようにアイリスに口づけた。驚いた拍子に少しだけ開いたアイリスの口腔に、ウィリアムの舌が侵入する。
「んっ、ふぁ·····っ、んぅ···っ」
思わず奥へ引っ込んだアイリスの舌を追いかけ絡め取られる。激しく貪られ、ウィリアムのものかアイリスのものか分からない唾液が溢れてアイリスの顎に垂れていく。ウィリアムはそれを親指で掬い、またアイリスの口腔に戻した。アイリスの口腔は2人の唾液で溢れていた。それを無意識の内にアイリスは嚥下した。するとまるでご褒美だと言わんばかりにウィリアムはアイリスの舌を甘噛みした後、強く吸った。
「んぁ····っ、はあ、!ん、んぅ~~···っ」
その瞬間、アイリスの背中にゾクゾクとした刺激が走った。触ってもいない秘められた中心が疼き、何かが零れそうになった。
やがて長くも短くも感じた口づけが終わり、ウィリアムが唇を離すと2人の間に銀色の糸が引いた。アイリスは快楽によって潤んだ瞳でウィリアムを見る。その扇情的な姿を見たウィリアムは、
「くそ···っ」
と少し乱暴に吐き出すと、アイリスの細い腰に手を回しぐっと引き寄せた。
「ウィル···?」
「アイリス、折角我慢していると言うのに、あまり煽らないでくれ···。君には優しくありたいのに出来なくなってしまう···。」
「我慢···?」
「私が理性も何もないただの獣同然のような男だったら、君は確実に純潔を散らされていたよ。」
酸欠気味で上手く頭が回らないアイリスは、ウィリアムの言葉を理解するのに数秒かかった。やがてその言葉を理解したアイリスは、顔を赤く染めながら視線をあちこちに泳がせた。
「わ、私そんなつもりじゃ···。」
「アイリスにその気がないのは良く分かっているよ。···でもね、男には理屈が通用しない事だってあるんだ。」
好きな女性の前では特にね、とウィリアムはアイリスの銀髪を優しく撫でながら言った。
「だから、私以外にそんな隙を見せてはいけないよ?···良いね?」
アイリスがこくん、と頷くと額に軽く口づけた。
「···ん、良い子だ。」

*****

「そろそろ帰ろうか。」
空の真上に照っていた太陽は、いつの間にか西へ傾いていた。
「もう、そんな時間···。」
想いが重なり合ったからか、アイリスは離れがたく感じていた。
「アイリス、そんな顔をしないで。それに、永遠の別れじゃないだろう?」
「····うん。」
頭では理解していても、やはり寂しいものは寂しいのだ。なおも表情の冴えないアイリスに、ウィリアムは拗ねた子供をあやすように優しく頭を撫でた。
「大丈夫、すぐに会えるよ。····すぐにね。」
来た時と同じようにアイリスを姫抱っこして運ぶウィリアム。アイリスも今度は拒まず、ウィリアムの首に腕を回して身を委ねる。その時アイリスは気付いていなかった。アイリスを抱き締めるウィリアムのその顔に、情欲を滲ませた仄暗い笑みを浮かべている事に。

*****

「ただいま戻りました。」
「····アイリス。」
ウィリアムと共に馬車に揺られ子爵邸へ戻って来たアイリスは、深刻な顔をした父に迎え入れられ浮かべていた笑みを消した。
「·····何か、あったのですか?」
「国王陛下からアイリスへ呼び出しが来た。」
「え····?」
父の言葉はにわかには信じられない事だった。国の頂点に立つ国王が、一介の子爵令嬢にすぎないアイリスに何の用があるというのか。それでも、国王からの命令に逆らえる筈もない。
「分かりました。時間は、今からですか?」
「あぁ、急がなくてもいいがなるべく早く···とのことだ。」
「直ぐに準備します。」
父の言葉にアイリスが国王へ謁見するための準備を整えようとすると、
「あぁその事なんだが、陛下に謁見する時のドレスは陛下が贈って下さった。」
「····え、国王陛下が私のドレスを····?どういう事ですか?」
そうアイリスが父に問うものの、父は困ったように笑うだけだ。何かアイリスには言えぬ事情があると悟り、アイリスはそれ以上言及せず口を閉ざした。
国王がアイリスのために贈ったドレスが入った箱を開けると、一目で上質なものと分かる深緑のドレスと大ぶりの翠玉エメラルドが付いたイヤリングとネックレスが入っていた。
「まあ、とても豪華ですね!それに、アイリスお嬢様に良くお似合いになると思います!」
「本当に、素敵なドレス···。」
隣にいた侍女がはしゃぎながらそう言うドレスは、確かに今まで見たどのドレスよりも豪華でまるでアイリスの為に作られたようだった。
(それにしてもこのドレスと宝石の色···、ウィルの瞳みたい···。)
森のような色をしたドレスや宝石は深く吸い込まれそうな緑色の瞳をしたウィリアムを連想させる。
「ところで···、何故陛下は私にドレスなんて贈って下さったのかしら?」
「女性にドレスを贈るのは『それを着た貴女を脱がせたい』という意味があるらしいですよ。もしかしたらお嬢様を見初めたのかも!」
「まさか、私は陛下にお会いしたことなんてないもの。」
「そうですか···、あ!早く仕度を整えなくては陛下を待たせてしまいます!」
「あ、そうね。急ぎましょう。」

*****

急いでドレスに着替えたアイリスは父の用意した馬車に乗り、パーティー以来の道を辿っていた。
「国王陛下が私などに何のお話なのでしょう···。」
「······さあ、私も詳しくは知らされていなくてね·····。」
父は先程から口数が少なく、顔色も良くない。
「お父様、大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だよ。心配をかけてすまないね。」
何を隠しているのかアイリスには分からなかったが、父の表情を見るに良い話ではないのだろう。アイリスは今すぐにでも問い質したい気持ちを抑え足早に変わっていく景色を見つめた。

やがてパーティーの時に訪れた王宮へ着いた。
「着いたようだね、アイリスここからは1人で行くんだ。」
「お父様は、一緒には行かないのですか?」
「あぁ、呼ばれたのはアイリスであって私ではないからね。」
「でも···。」
知っている人が誰もいないこの場所で1人で居るのは心細い。アイリスは食い下がるが、父は頑として首を縦には振らなかった。
「私、1人で陛下の元へ向かうなど、怖くて出来ません。何か粗相をしてしまったらと思うと···。」
「そんな、「アイリスがいくら粗相をしても怒る筈ないじゃないか。」」
父の言葉に被せるように聞き慣れた声が聞こえる。そこにいたのは、
「ウィル?どうしてここに···。」
「さっきぶりだね、アイリス。あぁ、そのドレスも良く似合っている。」
ウィリアムは先程別れた時とは違う、豪華な服を身に付けている。彼の服の所々には、アイリスの瞳のような碧石サファイアが散りばめられていた。
ウィリアムが突然現れたことに驚き、呆然としているアイリスの横で父が跪いた。
「クラッシュハイド王国国王、ウィリアム·シェリオ·ロドリアス様に御挨拶申し上げます。」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

処理中です...