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オトナ

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「夏休みなんだけどさ…」

最近のイライラの種が喋り始めてみんな耳を傾ける。

「みんな忙しかったりする?」

いつもの自然なフリをして行き過ぎなくらい様子を伺った訪ね方をしてきたせなにおれは相槌を打つことも目を合わす事もせずに作業を続けた。

そんなおれを見て困りながらもせなに対応したのは俺らの中で1番ムードメーカーのカイトだ。

「んー、忙しくないって言ったら嘘になるかなぁ。ほら、おれも含めてみんなまだ進学か就職かすら決めてないじゃん?……だよね、タクヤ?」

「あぁ、そうだな。てか、それで言うとせなも暇じゃねえだろ。」

これでもう決まってるとか言ったらグーパンものだろ。

「え?おれもう学校辞めたし暇だよ?」

「はぁ!?」

思わず声に出してしまった。

「ちょっといきなり大声出すなよ、びっくりしたなぁ」

胸を押えてオーバーにリアクションを取るせな。

「…信じらんねぇ、せな、お前そろそろいい加減にしろよ。」

飄々としてるせなに腹が立ち思わず詰め寄った。

慌てておれらに近寄るカイトとタクヤを無視して続けて言った。ついに言ってやった。

「お前さ、おれらのことなんだと思ってんの?ただのバンドやる為のアイテム?時間潰しの為の道具?」

キョトンしてるせな、いや、これも多分キョトンとしてるフリだ。おれが今何を言いたいのかきっとこいつはわかってる。

「お前にとってのおれらってなんなの?」

返答なんてどうでもいい、どうせ本当の事なんて言うわけが無い。こいつの1番の特技は、歌でも曲作りでも何でもない、本心を隠す事なんだから。

きっと人前で本気で怒ったことも、笑ったことも、泣いたことも、楽しんだことも無いんだ。もしかしたら、自分自身もそんな自分の感情を知らないのかもしれない。

でも、それでいいのかもな

だって、おれたちはそんなせなを好きになったのだから。

「……みんなでさ、東京出ない?」

ほら、東京進出を持ちかけてめちゃくちゃ大事な仲間だと思ってるって見せたいんだろ。

「東京って……本格的にバンドに賭けるって事?」

またいつもの嘘の仮面を付けた笑顔でせなは答える。

「そうだよ、迷惑じゃなければだけどね。まあその前にあっちで通用出来るか確かめたくて、何個か夏休み中に参加できるセッション見つけてきたんだよね。」

「こんな田舎で活動しててもいまこれだけのファンがいるんだからさ、おれたちやれると思うよ?レンはどう?」

そう言って優しさに満ち溢れた嘘の笑顔を向けてきたせなを見て、おれは覚悟を決めた。

世界一信用のできない1番の相棒に、自分の全てを預けよう。

カイトやタクヤが何を思ってるかおれは知らないけど、おれはそうしてみるって決めた。

……でも、この可哀想な相棒がこの先救われることって無いんだろうな。

なあ、気づいてないだろ?お前だけは、お前だけはあいつの本当を貰い続けてるって。おれらの知らないあいつの苦しみを見てあげれるのって……

助けてやれよ、おれらのこと助けてよ。

だってそんなことできるのお前だけだから。

そうだろ?ゆい。
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