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新学期
11
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ステージ上の照明が落とされた。
「ゆい…始まる……」
袖の方からスタスタと4人の男たちが出てくる。
ドラム、ベースの2人は初めて見る人だ。
そして、ギターを持ったレン、真ん中にはセナが着いた。
「えっ」
こんな空間、今まで生きていて味わった事が無かった。
冷やかし程度に残って「お手並み拝見」くらいの感覚で見ていた周りの人達が、一斉に声を上げ盛り上がった。
圧巻だったのはやはりセナの歌声だった。
初めて聴いた本域で歌ってる彼の歌声は、あのバイクの後ろで聞いた歌声とも、海で聞いた歌声とも違う。
本気で魂をすり減らしてる……。
いや、違う。
魂で歌ってる。
そんな歌声だった。
それに、ロック調の激しい曲だけじゃなかった。
バラード調の歌は、そのセナの歌声が聞いてる人間の胸に突き刺さる。それは、切なさを与えるような優しいものでは無い。この世に存在するものの中で、1番鋭い刃物で心臓を抉り取られるような。歌詞も相まって、何日か引きずりそうな、そんな歌と歌声だった。
気づいた時には、もうセナたちの番は終わっていて
周りの人達はみんな興奮を抑えられないようだった。
「ゆい、大丈夫?」
ハルが心配そうに顔を覗き込んできた。
「大丈夫…だよ?なんで?」
「ずっとぼーっとしてるし、身体震えてるよ。もしかして具合悪い!?」
ううん、違う。体調はすこぶるいい。
そうじゃないの。私、なんて言えばいいのか分からない。
多分、こういうのを「食らった」「刺さった」って言うんだろうけど、そんな言葉で済ませたくなかった。
いまの感情、言葉で表すのは私の語彙力では出来ない。
とにかく、このバンドのパフォーマンスに圧倒された。
「楽屋行こ!!!レンくん達待ってるよ!!!」
ハルに手を引かれ、楽屋に向かった。
扉を開くと、セナたちの他にも色んな人達が居た。
「みんなお疲れ様~」
ハルがそう言うと、ベースを弾いてた人が近寄ってきた。
「ハルちゃ~ん、俺たちどうだった?かっこよかった?」
ハルは笑顔で「かっこよかったよ~」と答えながら、彼の頭を撫でる。
「えっと…、誰か紹介してくれない?」
正直、気まづい。
初対面の2人と最近会ってなかった2人。
「あっ、ごめんね。この子はベース担当のカイト。あっちのドラム担当がタクヤ。2人とも!!!この子が噂のゆいちゃん!!!可愛いでしょ~」
可愛いかどうかは余計でしょ…
「よろしくねゆいちゃん!!!ライブどうだった?」
「あっ、いやっその~。」
忘れていた、私が人見知りだってことを。
どうしよう、なんて言えばいいんだろう。
「そんなの聞くなよ、気使っちゃうだろ。」
パッと横からフォローを入れてくれたのはセナだった。
「てか、来るなら来るって言えよな。おれ外行ってタバコ吸ってくる。」
そう言い残してすぐどこかに行っちゃった。
「あいつさ…変だよな」
今度は、レンが話始めた。
「変って…何が?」
「だってさ、ここでタバコ吸えるんだぜ?」
それを聞いて何も気づかないほど、私もバカでは無かった。
あの、バラード調の曲
題名は、分からないけど、歌詞が頭の中から離れなかった。
出会いは運命ってよく聞く話
何%とかってみんな言うけど
それが事実だとしたら
僕らの出会いもそうなのかな
例えばどこか遠い国で2人で
誰にもバレずに静かに暮らして
一生一緒に居れるなら
他に望むものなんてなくて
あの日あの時にもしも僕が
ひとつだけでも言葉を伝えてたら
ほんとに一緒に居たかもね
僕が迎える物語の結末
大事な人にだけ見せる笑顔
全部違うものだったかも
サビは、正直忘れた。
でも、このBメロまでの歌詞が頭から離れない。
それは、聴いてから何年も経った今でもね。
「ゆい…始まる……」
袖の方からスタスタと4人の男たちが出てくる。
ドラム、ベースの2人は初めて見る人だ。
そして、ギターを持ったレン、真ん中にはセナが着いた。
「えっ」
こんな空間、今まで生きていて味わった事が無かった。
冷やかし程度に残って「お手並み拝見」くらいの感覚で見ていた周りの人達が、一斉に声を上げ盛り上がった。
圧巻だったのはやはりセナの歌声だった。
初めて聴いた本域で歌ってる彼の歌声は、あのバイクの後ろで聞いた歌声とも、海で聞いた歌声とも違う。
本気で魂をすり減らしてる……。
いや、違う。
魂で歌ってる。
そんな歌声だった。
それに、ロック調の激しい曲だけじゃなかった。
バラード調の歌は、そのセナの歌声が聞いてる人間の胸に突き刺さる。それは、切なさを与えるような優しいものでは無い。この世に存在するものの中で、1番鋭い刃物で心臓を抉り取られるような。歌詞も相まって、何日か引きずりそうな、そんな歌と歌声だった。
気づいた時には、もうセナたちの番は終わっていて
周りの人達はみんな興奮を抑えられないようだった。
「ゆい、大丈夫?」
ハルが心配そうに顔を覗き込んできた。
「大丈夫…だよ?なんで?」
「ずっとぼーっとしてるし、身体震えてるよ。もしかして具合悪い!?」
ううん、違う。体調はすこぶるいい。
そうじゃないの。私、なんて言えばいいのか分からない。
多分、こういうのを「食らった」「刺さった」って言うんだろうけど、そんな言葉で済ませたくなかった。
いまの感情、言葉で表すのは私の語彙力では出来ない。
とにかく、このバンドのパフォーマンスに圧倒された。
「楽屋行こ!!!レンくん達待ってるよ!!!」
ハルに手を引かれ、楽屋に向かった。
扉を開くと、セナたちの他にも色んな人達が居た。
「みんなお疲れ様~」
ハルがそう言うと、ベースを弾いてた人が近寄ってきた。
「ハルちゃ~ん、俺たちどうだった?かっこよかった?」
ハルは笑顔で「かっこよかったよ~」と答えながら、彼の頭を撫でる。
「えっと…、誰か紹介してくれない?」
正直、気まづい。
初対面の2人と最近会ってなかった2人。
「あっ、ごめんね。この子はベース担当のカイト。あっちのドラム担当がタクヤ。2人とも!!!この子が噂のゆいちゃん!!!可愛いでしょ~」
可愛いかどうかは余計でしょ…
「よろしくねゆいちゃん!!!ライブどうだった?」
「あっ、いやっその~。」
忘れていた、私が人見知りだってことを。
どうしよう、なんて言えばいいんだろう。
「そんなの聞くなよ、気使っちゃうだろ。」
パッと横からフォローを入れてくれたのはセナだった。
「てか、来るなら来るって言えよな。おれ外行ってタバコ吸ってくる。」
そう言い残してすぐどこかに行っちゃった。
「あいつさ…変だよな」
今度は、レンが話始めた。
「変って…何が?」
「だってさ、ここでタバコ吸えるんだぜ?」
それを聞いて何も気づかないほど、私もバカでは無かった。
あの、バラード調の曲
題名は、分からないけど、歌詞が頭の中から離れなかった。
出会いは運命ってよく聞く話
何%とかってみんな言うけど
それが事実だとしたら
僕らの出会いもそうなのかな
例えばどこか遠い国で2人で
誰にもバレずに静かに暮らして
一生一緒に居れるなら
他に望むものなんてなくて
あの日あの時にもしも僕が
ひとつだけでも言葉を伝えてたら
ほんとに一緒に居たかもね
僕が迎える物語の結末
大事な人にだけ見せる笑顔
全部違うものだったかも
サビは、正直忘れた。
でも、このBメロまでの歌詞が頭から離れない。
それは、聴いてから何年も経った今でもね。
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