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「中島さん、私たち別れましょう」
最後にそう言い残して、僕の彼女、吉村さんは去っていった。
問題の手汗は解消したのにである。
しかし、それもまた前回の話である。
今の僕には、時を戻す力がある。
「中島さん、私たち別れましょう」
「ちょっと待ってくれ!」
「なんですか?」
僕は手のひらから湧き出る汗をしっかりとズボンでふき取った。
「どうして別れようなんて」
吉村さんは僕を猫のように睨みつけて、
「わからないならいいです」
と言って去っていった。
「あああ! またこのパターン!」
〇
「中島さん、私たち別れましょう」
「ちょっと待ってくれ!」
「なんですか?」
「確かにあの時は僕が悪かった!」
結局僕にできるのは、勘でそれっぽい言葉を並べることだけである。
しかし、それが案外通用してしまうのだ。
「まあ、反省しているのは伝わりました。でももう決めたことなんです」
「な、ならせめて、改善点だけでも教えてくれ! 僕も成長したいんだ!」
我ながらよくこんな言葉が出るなと感心する。
吉村さんは、はぁとため息をつきながら言った。
「センスです」
「センス?」
「はい、中島さんはセンスがないです。デートで着てくる服も、記念日のプレゼントも、すべて壊滅的です。だからと言ってケチをつけるわけにもいきませんでした。これは価値観の違いだと。ですので」
最期に僕の前で軽く頭を下げて出ていった。
センス。
ファッション、プレゼント。
そうか。
またしても僕は時計を手にしていた。
〇
時を遡り、一か月前。
この日は吉村さんと付き合って一か月の記念日であった。
僕はホテル最上階のレストランを予約しており、そこで吉村さんとディナーをする予定だった。
しかし、このままでは前回と同じ結果になってしまう。
そうだ、あいつに聞いてみよう。
僕は携帯電話を取り出し、とある男性に電話した。
「俺だ、どうした」
「ああ、堀口! お前に相談があるんだ。」
「ほう、この俺に相談か」
「そうだ、しかも重大任務だ」
「なるほど、して要件は?」
「彼女に渡すプレゼントを選んでほしい」
しばらくの沈黙が流れた。
堀口は考え事をするとき、いつもの饒舌とは裏腹に寡黙になる。
「一時間後に駅前だ」
そう言い残して通話は切れた。
一時間後。
「よお中島」
「よく来てくれた、堀口」
「っておい中島、その恰好は何だ」
「何って、普通の私服だが?」
堀口は出会い頭にため息をついた。
「そうだな、まずはその中学生みたいなファッションセンスをどうにかしよう。こっちだ」
よくわからないが、僕は堀口に引っ張られるがままについていき、洋服店で服を買い、デパートでプレゼントを買い、レストランの場所を変えた。
「わかるか、初めてのディナーであんな高級なところを選ぶと、逆に重く感じるだろ。まずはそれほど高くなく、しかし居心地はいいようなところを選ぶんだ」
「お、重いのか」
「そうだ、どうせお前が金を払うんだろ。おごられる側も罪悪感ってものがあるんだよ」
その後、吉村さんと会うまで堀口にカフェでみっちり5時間講習を受け、最後に講習料をふんだんにとられた。
しかし、おかげで自信がついた。
今の僕は、十数人の女をたぶらかす、堀口のたらしスキルがあるのだ。
「こんばんは」
「やあ、こんばんは、吉村さん」
「あら、中島さん。今日はずいぶんとお洒落ですね」
「ふっ、当たり前だろ。こんなにも美しい女性と会うのだから」
「そういってもらえてうれしいです。でもそのしゃべり方はやめてください」
「はい」
僕たちはその後ディナーを終え、何とかプレゼントを渡し、次のデートの約束もした。
プレゼントを渡したときの吉村さんの反応は悪くなかった。
さすが堀口である。
僕は軽くアルコールが入り、気分が良いまま夜道を歩き、アパートへと帰っていった。
〇
一か月後。
吉村さんがうちに来た。
もしやと思ったが、全くその通りであった。
「中島さん」
「はい」
「私たち、別れましょう」
「この感じ、そうですよね」
最後にそう言い残して、吉村さんは去っていった。
どうしてなんだ!!!!
僕の手には再び、時計が握られていた。
最後にそう言い残して、僕の彼女、吉村さんは去っていった。
問題の手汗は解消したのにである。
しかし、それもまた前回の話である。
今の僕には、時を戻す力がある。
「中島さん、私たち別れましょう」
「ちょっと待ってくれ!」
「なんですか?」
僕は手のひらから湧き出る汗をしっかりとズボンでふき取った。
「どうして別れようなんて」
吉村さんは僕を猫のように睨みつけて、
「わからないならいいです」
と言って去っていった。
「あああ! またこのパターン!」
〇
「中島さん、私たち別れましょう」
「ちょっと待ってくれ!」
「なんですか?」
「確かにあの時は僕が悪かった!」
結局僕にできるのは、勘でそれっぽい言葉を並べることだけである。
しかし、それが案外通用してしまうのだ。
「まあ、反省しているのは伝わりました。でももう決めたことなんです」
「な、ならせめて、改善点だけでも教えてくれ! 僕も成長したいんだ!」
我ながらよくこんな言葉が出るなと感心する。
吉村さんは、はぁとため息をつきながら言った。
「センスです」
「センス?」
「はい、中島さんはセンスがないです。デートで着てくる服も、記念日のプレゼントも、すべて壊滅的です。だからと言ってケチをつけるわけにもいきませんでした。これは価値観の違いだと。ですので」
最期に僕の前で軽く頭を下げて出ていった。
センス。
ファッション、プレゼント。
そうか。
またしても僕は時計を手にしていた。
〇
時を遡り、一か月前。
この日は吉村さんと付き合って一か月の記念日であった。
僕はホテル最上階のレストランを予約しており、そこで吉村さんとディナーをする予定だった。
しかし、このままでは前回と同じ結果になってしまう。
そうだ、あいつに聞いてみよう。
僕は携帯電話を取り出し、とある男性に電話した。
「俺だ、どうした」
「ああ、堀口! お前に相談があるんだ。」
「ほう、この俺に相談か」
「そうだ、しかも重大任務だ」
「なるほど、して要件は?」
「彼女に渡すプレゼントを選んでほしい」
しばらくの沈黙が流れた。
堀口は考え事をするとき、いつもの饒舌とは裏腹に寡黙になる。
「一時間後に駅前だ」
そう言い残して通話は切れた。
一時間後。
「よお中島」
「よく来てくれた、堀口」
「っておい中島、その恰好は何だ」
「何って、普通の私服だが?」
堀口は出会い頭にため息をついた。
「そうだな、まずはその中学生みたいなファッションセンスをどうにかしよう。こっちだ」
よくわからないが、僕は堀口に引っ張られるがままについていき、洋服店で服を買い、デパートでプレゼントを買い、レストランの場所を変えた。
「わかるか、初めてのディナーであんな高級なところを選ぶと、逆に重く感じるだろ。まずはそれほど高くなく、しかし居心地はいいようなところを選ぶんだ」
「お、重いのか」
「そうだ、どうせお前が金を払うんだろ。おごられる側も罪悪感ってものがあるんだよ」
その後、吉村さんと会うまで堀口にカフェでみっちり5時間講習を受け、最後に講習料をふんだんにとられた。
しかし、おかげで自信がついた。
今の僕は、十数人の女をたぶらかす、堀口のたらしスキルがあるのだ。
「こんばんは」
「やあ、こんばんは、吉村さん」
「あら、中島さん。今日はずいぶんとお洒落ですね」
「ふっ、当たり前だろ。こんなにも美しい女性と会うのだから」
「そういってもらえてうれしいです。でもそのしゃべり方はやめてください」
「はい」
僕たちはその後ディナーを終え、何とかプレゼントを渡し、次のデートの約束もした。
プレゼントを渡したときの吉村さんの反応は悪くなかった。
さすが堀口である。
僕は軽くアルコールが入り、気分が良いまま夜道を歩き、アパートへと帰っていった。
〇
一か月後。
吉村さんがうちに来た。
もしやと思ったが、全くその通りであった。
「中島さん」
「はい」
「私たち、別れましょう」
「この感じ、そうですよね」
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どうしてなんだ!!!!
僕の手には再び、時計が握られていた。
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