優しい闇に抱かれて

彼の家族 ③

おそるおそる
階段を降りると…
彼が、階段を降りた所で
私を待っていてくれた。



「こっちだから…」





相変わらず
ぶっきらぼうな
態度だけれども…
彼の、犬耳と尻尾が 
ヘニョンとしていて
私を心配して…
気遣ってくれて
いるのが良く解る。






階段を、
降りる前から
凄く美味しそうな
匂いがしていたから…
彼が、向かう先が
キッチンだと
すぐ理解出来た。







私は、堪らず
お腹を抑えてしまった。
だって…考えたら…
一昨日の、晩御飯が
なにかを食べた
最後だもの。





昨日の朝には…
ガンガン痛む頭と
熱で、真っ赤になった
顔をしていたから
かなり、体の具合は
悪かったと思う…。

それでも…
学校を、休むつもりは
まったくなかったのに…
キッチンで家族と、
朝食をとっていた
父が、私の顔色を見て…



「今日は、休め…」





それだけ言って
出勤してしまったから
お休みするしかなかった。
反論は出来ない。





だって義母が、
親の敵のような表情で
私を睨んでいたから…
無理をおして登校したら
父が、よい顔をしないし
多分…今日の私が
まったく使いものに
ならないからだろう。

  




最近オープンした
ちょっと遠方の…
スーパーの買い出しに
“私を使う”当てが
外れたからだろう。







他にも…
お家のお掃除や、
台所の汚れた食器に
お鍋などは…私が
全部洗っているから
油汚れの洗い物が多いと
大変なんだ。洗剤を使うと
手が、ボロボロになる
からね。





「働かざる者…
         食うべからず！」





そう言って義母は、 
私をキッチンから
追い出した。朝ごはんを
…食べる資格が…
私には…無いらしい。







朝ごはんを…
諦めぐうぐう鳴る
お腹を宥めながら…
仕方なく冷たい
ぺったんこのお布団に 
潜り込んだ。







『もう少ししたら…
    お水を飲みに行こう。
    後は…何だろう…
    洗面器とタオルに
    コップ、大きめの 
    やかんかな…』







そして…
真っ赤な顔で
うんうんうなされ…
夢を観ながらうとうと
苦しんでいたら…
何故だか…
知らないうちに…
ここへ来ちゃったん
だった…。






あと少しで…
キッチンという所で
…私のお腹は…
ぐぐうぅぅぅぅ！と
大きく鳴った。





恥ずかしい…
聞かれたくなかった。
お腹を、鳴らした私を
驚いて振り返った…
彼の視線が…痛かった。