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つぼっち

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第二章、二度目の転生

#72 涙

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「俺って意外と二刀流いけるもんだな。」

俺はエンペラーバジリスクの肉を食いながらしみじみと思っていた。

漫画の真似事をしただけであそこまでの威力が出るなんて。

やっぱ漫画って教育にいいんだな。

俺はエンペラーバジリスクを骨まで食ったあと、グラトニアスを目指す。

バジ砂漠がここら辺ならもうすぐでつくはずだからな。

ちょっと緊張してきた。

二人はどんな顔で迎えてくれるだろうか。

俺が一人で国と一緒に死んだのを怒るだろうか。

それとも生きていたことを喜んでくれるだろうか。

はたまた俺のことを忘れているだろうか。

考えていても仕方がないか。

俺はグラトニアスに向けて歩き始めた。








「ゼロ、そろそろ時間だ。」

「わかった。」

この国は一度滅んだ。

それも100年も前にだ。

人間の軍勢が襲ってきてこの国を更地にした。

でも私たち国民は諦めず、滅んで10年後に国を再建することに決めた。

そして再建から90年。

国は元通りに戻った。

でもこの国に国王はいない。

いや、いるといえばいます。

だけど、もうこの世にはいない。

部下思いで、優しくて、たまに抜けてるところもあるけどそこもいい。

国民全員から支持を受け、強くて、頼り甲斐のある、そんなお方だった。

でも国が滅ぶ時、私たちを避難させ、自分は一人で国と共に亡くなった。

今日でマスターが死んでから100年。

私たちは1年に一度マスターの玉座を国の中心の高いところに置き、黙祷する。

今日も国の中心にはマスターがいつも座っていた玉座が太陽の光に晒され、神々しく輝いている。

国民の殆どがこの玉座の前に集まり、黙祷を捧げる。

いつか、帰ってくると信じて。





「おいおい、なんだこれ?祭りか?」

黙祷中に非常識な言葉が飛んできた。

誰だろうか?

非常識な奴め。

終わり次第直ちに排除せねば。

だがその声の主は玉座の前まできて立ち止まった。

「懐かしいな……。」

そしてどういうわけか玉座に続く階段を登ろうとし始めたのだ。

これはもう今すぐ排除しなければ。

あの玉座はマスターだけのものだ。

マスター以外が座ることは絶対許さない。

そう思い黙祷を中止し、攻撃体制に移る。

だが、その男の姿を見て、止まってしまった。

思えば声もあの方に似ていた。

そして太陽の光を浴びた玉座にどさっと座り、足を組む。

そして私とミルドの方を向き、一言。

「久しぶりだなゼロ、ミルド。」

声の主は私たちに優しい声でそういった。

気づいた時には涙がボロボロと流れていた。

私はゴーレム。

感情がなく、笑うことも泣くことも怒ることもできない存在。

それが嬉しさで顔を歪ませながら泣いていた。

隣を見るとスケルトンであるミルドも同じく大粒の涙をこぼしながら佇んでいた。

そして私とミルドは泣きながらひざまづき、声を揃える。

「「おかえりなさいませ!!!!100年の間、ずっとあなたをお待ちしておりました!!!!!!」」

「あぁ、ただいま。100年間この国を守ってくれてありがとう。」

気づいた時にはもう涙を止めることができなかった。
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