神業(マリオネット)

床間信生

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☆第2章☆リエン山

2ー50★思いとは裏腹に

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……

一瞬、全員の声が止まった。
そしてノルドの言葉が具体的にどういった意味か分からないと言う様子で、お互いの顔を見合う。

『あのー、ノルド…もう少し細かく教えてくれないと、どういった判断をすればいいのか…』
『そうです、ノルド様。私も詳しく知りたいです』
『えーっと…、ノルド様、フィリア様を救う手段はあると言うことでしょうか?』

最後のフェンの言葉にノルドが黙って頷くと、俺たちは取り敢えず安堵の表情を浮かべた。
どうやら彼の「彼女を本当に救いたいのですか?」と言うのは、「救う手段は無いので無駄ですよ」と言う意味ではないようだ。

となると次の可能性として考えられるのは…
救うのに多少の時間がかかると言っていただけに、その間誰が面倒を見ると言うことなのだろうか?
でも、具体的にどういうことをして彼女を救うのだろうか…

『ねー、ノルドさん。フィアの様子って呪詛の解除になるの?』
『んー、違います。今の彼女の状態を考えると呪詛のことは単なる儀式だったと割りきった方がいいと思いますよ』
『だよねー。なんかフィア見てると、何で??って部分がたくさんあるんですよね~』
『あー、エルメダさんは本能的に気づいていると言うことなのでしょうかね。将来が楽しみに思えます』

ノルドとエルメダが話している内容が俺には全く分からない。

『あのー、ノルド、もし良かったら分かりやすく…』
『はい、ただ…。それを話すと言うことは…。んー、少しハッキリ言った方がいいかもしれませんね。今の彼女は、特定の方面から非常に価値のある存在です。これは先ほどの話を考えれば分かることだと思います。なので、理由はどうあれ手元においておくと言うことは危険を招く可能性を考えねばなりませんよ。もし、みなさんがそれでも彼女を救いたいと言うのであれば、私は順を追ってお話しするつもりです』


俺は考えに耽った…

ノルドが言う非常に価値のある存在と言う意味を考える。
恐らくなのだが先ほどの言葉から考えるに「契約したのは彼女」と言うのが鍵になるはずだ。
多分、呪詛?儀式?だかを彼女に行い聖杯を使用した。
その後、彼女は聖杯の力を使えるようになったとか、そう言う感じの答えなのだろう。
だから危険だと言うのは、その聖杯を利用するつもりの奴等がいて、そいつ等から守れるのか?
とか、そんな感じの話の内容になるはず…

となるとだ…

明らかに危険な臭いしかしない…
それも生死が絡んでいるのは、この世界に住んでいる者であれば誰もが感じるはず。

先ほどフェンとした自分の欲望丸出しの話し合いなんて、正直どこかへ飛んでいった。
俺の中では財産よりは命が大事!
この優先順位は絶対に覆らない。
もう、俺はこの話し合いをどうやって切り上げていくかだけを考えながら周囲を伺ったのだが…

全員の顔が俺の想像とはかけ離れていた。
アンテロは唇を強く結ぶ表情を見せて、何か強い覚悟のようなものを感じる。
忘れていたけど孤児院出身で前職は修道院にお勤めだったんだよね…
エルメダは両手を自分の後頭部辺りに持っていき、上を見ながら何かを考えている様子。
変な気を起こさずに先ずは冷静に考えて欲しいと思う。
フェンに至っては目からお金がこぼれているような表情を一切崩していない。
ここまで来ると彼の表情は催眠術にでもかかっているのではと疑いたくなるほどだ。

明らかにみんなには任せておけない。
多分、彼らの表情を見る限りノルドの意見を断ると言う選択肢はないはずだ。
それだけに俺が多少強引でも、一度冷静にみんなと話をする必要がある。
俺は、そう思って勢い良く机を叩き立ち上がった!

先ほどから必要以上の会話はされていない静かな空間に、俺が机を叩いた音だけが響き渡る。
手加減何てするつもりはない。
変に遠慮をして、俺よりも先に誰かが喋りだし情報がないままにフィリアを救おうと言う流れになるのは絶対に避けたいからだ。
先ず最初に喋って主導権を握るのは俺でなければいけない。
だから、俺は全員の注意を俺に集めるために滅茶苦茶力を込めて机を叩いた!

でもそうしたら…

机においてあった食料が一斉に俺に向かって襲いかかってきたんだ…
えっ…?
何?
と思った時には、スープやサラダなど全ての料理を俺は引っ被ってしまった。

俺とフェンがみんなを待たせていたからだろうか、スープが意外に熱くないことをラッキーと思ったりしたが…

そうではない!

『きゃぁぁああああ~。ナカノ様、何をなさっているのですか!』

驚き悲鳴をあげながら喋るアンテロの言葉を皮切りに、全員が次々と俺の周りに集まってきた。
各々が心配そうに声をかけてはくれているのだが、食材を引っ被った本人は事態を把握できずに呆然としている。

そんな俺を全員が放置はしておけないと、みんなが直ぐに床に落ちた食料の処理などを始めてくれた。
一瞬の混乱の後、俺の方は先ずは自分の被ってしまった食材の処理をしようと何か拭き取る布はないかと探すと…
後ろからノルドが布を手に持ち使えと言わんばかりに差し出してきた。
そして、その表情は何とも優しい顔だ。

『ナカノ様、そこまで彼女を救いたいと思っていたのですか!なるほど分かりました!』

えっ…、ノルドが勘違いをしているのだが…。
周りの状況を見て、彼に誤解だと諭すことは俺にはできなかった…。
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