神業(マリオネット)

床間信生

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☆第2章☆リエン山

2ー41★誤解

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簡易ではあるが洞窟の中に拠点を問題なく作ることができた。
だからと言って「今日はここまで、おやすみなさい」と言うわけにもいかない。
明日以降の事も考えると、今日できることはなるべく済ませておきたいと俺たちは考えた。
そこで俺たちが次に考えたのが、洞窟の中に立ち込める悪臭問題とグリエルモなる人物の二点だ。

俺たちは今、鼻にとあるマジックアイテムをつめて行動をしている。
と言うのも、この洞窟を最初に発見したトーレの話では、すさまじい臭いがすると言っていたからだ。
そこでどれ程臭うのかとティバーの一人が試しに鼻からマジックアイテムを外したところ、めでたく気絶した。
彼については、ちょうど寝床も完成したので、寝袋に突っ込んで明日の対処で問題はないだろう。
だが彼の反応を見る限り、寝ている最中に間違ってマジックアイテムが外れた時など…
それに自分が被害を被る可能性と言うのも0ではない。
なので先ずは、この悪臭問題を片付けてしまおうと言う話になったのだ。
どうやらフィリアに話を聞いたところ、別に悪臭を直接的に放っているのではなくマジックアイテムの効果らしい。

現に彼女はマジックアイテムを使用していない。
発動させるときに対象を除去する機能があるようだ。
それなら対象に俺たちも…
と彼女に聞いたところ一度発動を止める必要があると言われた。
続きもお願いしてみたところ、彼女が先ほど食べていた羊皮紙の部分にそれらが書いてあるらしい。

湖の近くにあった羊皮紙…
色々聞きたかったが…
今それについて時間をとるよりはマジックアイテムの方を何とかするのが優先だろう。
そこで俺とエルメダの二人は彼女の手引きにより洞窟の奥の扉の更に奥の部屋に来ていた。

扉の外とは違い音が一つも生じない空間がそこにあった。
そうは言っても遠慮して入り口から見ているだけでは何も分からない。
初めてはいる部屋だけに慎重にと思っていたのだが、俺はエルメダに尻を強く押されて中に入っていった。

部屋に入ると先ず真っ正面にベッドが一つ位置してある。
そしてそのベッドに誰か知らない男性が寝ている。
恐らく、この男性がグリエルモなる人物だろうと言うことは予想がつく。
彼女の話では昼間にポーションなどを使用したようで、今は落ち着いていると言うことなのだろう。
ただアンバーやフェンなど他の者の話では狩人ハンターのスキルがとか言う話があった…
なので男に近づいて色々と調べたいのだが…
それを今やってもいいのだろうか…
多分、フィリアも俺が考えていることが分かったのだろう。
男の方へ近づき起こそうとするが俺が止めた。

不思議そうに見た彼女だが、多分今グリエルモが起きた場合。
彼にとっては俺とエルメダは不審人物に見えるはずだ。
おまけに老婆の外見であったろうフィリアは元の姿に近い状態になっている。
無理に起こされた人が、それほどの情報量を一気に整理できるかと言われたら疑問しかない。
なので先ずは先に片付きそうな悪臭問題の解決を優先しようと思う。
俺は、そう思いながら辺りをぐるっと見回した。

中の部屋は大体8畳くらいのスペースと言ったところだろうか…
洞窟だけあって窓などは一切ない。
だが左の壁のところに不自然にくり貫かれた跡が見られる。
そして、その跡に少々の衣服や道具などが無造作に置かれていた。
多分だが、彼女はその跡を棚の代わりに利用しているのだろう。

棚に入っている道具の所在を奥側から確認していると、フィリアが一ヶ所を指差していた。
一辺が30cm位の立方体に見え、一番天辺の面とベッドに近い側の面に何か描かれている。
彼女が指差している動作から、あれが悪臭系のマジックアイテムなのは間違いがないのだろう。
俺は、エルメダに合図を送ると彼女は物体の前まで無造作に近寄りだす。

マジックアイテム関係でメインのことはエルメダに任せようとは思う。
とは言っても他にも手がかりとなることはあるのかもしれない。
そう思った俺は彼女が棚として使用しているスペースを順々に再び目で追ってみた。

すると直ぐにフィリアが何やら不自然な動きをしている。
小走りに動いたと思うと、棚の一部を自分の体で隠す動き。
俺とエルメダは同時に彼女の方を見る。
彼女は焦りの表情を一切隠すそぶりもない。
ただひたすらに何かを隠そうとしていた。

明らかに怪しい!

そう思った俺は彼女の隠そうとしている物を知る必要があると思い近づいていく。
エルメダの方は軽く体を揺すっただけで、特に彼女の方に近づいたりはしなかった。
恐らく俺に信頼を寄せているからなのだと思う。
俺はそう思いながら彼女に近づき、彼女の目の前で右手の平を広げ見せるようにアピールした。

ところが彼女は苦虫を噛み潰したような表情で俺を見るだけだ。
俺は自分のとったジェスチャーが通じなかったのかな?
と思い、再び彼女に同じような仕草をする。

二度目はかなり強めに!

だが彼女は俺に何かを見せるどころか、自分が覆い被さるような姿勢を取り出した。
彼女が首を強く左右に振るポーズは絶対に見せませんと言う決意表明にまで見える。
ここまで来ると彼女が何かを隠しているのは明らかだ。

彼女は今日、俺に様々なことを語ってくれた…
自身の不幸な身の上には俺も同情する。
そして俺なりに親身に話を聞いた事もあり、彼女から信頼を得たと思っていた。
その彼女が俺に隠し事をしている…
疑いたくはない…

だが疑わなければいけない事実がそこにはある…

そう思った俺は、彼女の体を押さえつけて、下に隠してあるだろう何かをかなり強引に外に出した!
あっという間に俺に力負けをしてしまった彼女。
その後、何かを確認するために彼女から一定距離をとる。
だが彼女の方も見られたくはないと、けたたましいほどの金切り声をあげ俺に向かってきた。
目には涙をうっすらとあげながら必死の形相だ。
だがそんなのは俺には関係ない。
彼女が隠しているものが何なのかを確認するのが最重要事項なはずだ。
そう思った俺は彼女を再び押さえつけながら、彼女から奪い取ったものを確認してみた。


確認してみると…

なんと…

それは彼女の着替え類だった…

どうやら彼女は無造作に置かれた自分の着替え類を見られるのが恥ずかしくなり、俺の目から遠ざけようとしたらしい。
確かに若い女の子にとって、そう言うものがおっさんに無造作に見られるのって恥ずかしいよね…
自分が同様の立場であっても隠すと思う…

そう思ってしまった俺は…

『えっ…?』

の言葉の後、一言も出ずに暫く立ち尽くしてしまう。

恐らくエルメダは直ぐに気づいたんだろう…
軽く体を揺すって確認した後、直ぐに気づいたと言うことなんだろうね…
別に俺に全幅の信頼とか、そう言うわけではないみたいで…
だったら教えてくれれば良いのに…

『変態…』

白い目で一言だけ呟いたエルメダの言葉が俺の心に深く突き刺さった。
そしてその直後、俺は無防備の後頭部にとんでもない一撃をもらい気絶してしまう。
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