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ハメられたのか?

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「くっくっくびぃいいぃぃぃ~!はぁはぁ…」

男が明らかに常軌を逸した表情だ。
俺がベンケーの討伐証明として袋を渡した男が、中で叫び声をあげた後、槍を振り回したりとんでもない行動をとっている。
とんでもないパニック症状だ。

「どうした!落ち着け!しっかりしろ!」

あまりにも取り乱す男をみてグスタフが男の肩を掴んで取り押さえる。
放っておくと絶対にこっちまで被害が出そうなほどに暴れているので、それを止める意味でも少し乱暴な手段を取っているのだろう。

「はい、こちら水です」
「ありがとう。さぁ、お前、とりあえず水を飲め」

グスタフが男を落ち着かせたところで、別な男が水の入ったコップを持ってきた。

「んぐ、んぐ、んぐっ…。ふー…。すいません。どうも」

水を飲んだ男。

最初の叫び声からとんでもない様子を見せただけに、一時はどうなることかと心配したがとりあえずは落ち着いたようだ。

良かった。

大したことは無いようだ。

と言うか…

そもそも何でそんなことになっているのかというと…

原因はどうやらコッチにあるらしい。

一番最初レントを救出した際、俺は彼女から山に住むホブゴブリンがベンケーという賞金首の可能性が高いという話を聞いた。

そこで、ベンケーを倒した際に俺は、レント本人に確認をお願いしたところ彼女の方から「恐らくベンケーだとは思うが、100%確かは分からない」といわれてしまったのだ。

一瞬、「えっ?」と思ってしまったが、考えてみると当然のことだろう。

というのも彼女自身、そこまで山の事情に精通しているわけではない。
また探索者や冒険者として魔物退治を生業にしているわけではない。

そんな彼女、ホブゴブリンというのをみたことがあるのか?
それに、もしかするとこの山にホブゴブリンというのは複数いるのかもしれない。

などという可能性も考えられる。

そんな彼女に賞金首となっているモンスターの詳細を聞いてみても関心ないのであれば答えられないのも無理はないと思う。

彼女の中の知識ではどうやら山にはベンケーと呼ばれる懸賞金付きの危険なモンスターがいるらしい。
どのくらいの頻度で遭遇するのかとか、詳しい情報は分からない、みたいな感じで言われてしまった。

そりゃー、捕まるわ。
なんて内心思ってしまったが、もちろん表には出さない。

そんな感じで倒したベンケー。
最初は、懸賞金とかは自分にも関係ないかもしれない。
手続きが面倒くさいかもしれないので黙っておこうと思ったりもしたわけなのだが、あの山が隔離された原因がベンケーにある。
ということは今まで散々、ベンケーに恐怖を感じていた人もいるわけだ。
であれば、そういった人に「枕を高くして寝られますよ!」というアピールをする意味で、機会があれば懸賞金の申請もしてみようと思った今回なのだが…

その時いたメンツというと
俺・リン・カロリー・レント・ガイアス様の5人。
そこでガイアス様に聞いたところ、討伐証明なるものが必要と言われたので、みんなで話し合った結果、生首を提出するのが一番間違いないという結論に達したのだ。

今思うとガイアス様がニコニコではなく、ニヤニヤしていた気がする…

と言うことで今回の手続きで俺は入り口でベンケーの生首を提出したのだが、どうやら違ったらしい。

後からフローラかルカあたりにでも確認をとれば良かった。
あの時、彼女たちにあの生首を見せるのは、トラウマを呼び起こす可能性があると思って遠慮したのが間違いだったのかもしれない。

これは後から聞いた話なのだが、通常の流れとしては討伐クエスト完了の流れは、書類などの手続きが終わった後、討伐証明として魔物の中で指定された一部を(ゴブリン類であれば左耳)を提出、その後で持ってきた水晶に手を当てていくつかの質問を行って手続きは完了するらしい。

どうやら男は袋を手渡された時、不審に思ったらしいのだが、元々が懸賞金もついているモンスターの討伐証明だ。
生ものであるだけに腐敗防止などを考えて厳重に保管しているのだろうと思ったらしい。

そう思って奥でいざ袋を開けてみると、そこには今にも叫びだしそうな顔をしたホブゴブリンの生首がそこにあった。
あまりにも予想外の出来事に思わずパニックになってしまったんだとか。

そういえばベンケーの最後、底に剣がついている落とし穴に落ちた後、無数のゴブリンがふってきて潰されるように絶命したハズだ。

どうにかこうにか叫んだ男が冷静になった後、討伐証明部位には誤解があったものの、クエスト自体が失敗になるわけではない。
その他の書類などは全く問題なかったので、ガーネット領へ入る手続きの方は問題なく済ますことができた。



手続きを終え門を出ると辺りは日が落ちている。

街までの時間をフローラに聞くとまだ数時間ほどかかるらしい。
幼いミンネ、明らかに疲れが見える。
周囲を見ると明かりは見えるが、ポツリポツリにすぎない。
土地勘ある者はフローラだけだ。
となると夜にむやみに移動するのはあまり良い気がしない。
俺たちはどこか休める場所を探すことにしたのだが、どうやらフローラの話によるとこの辺りに安く泊まれる宿というのがあるんだとか。

一瞬だけ『街でもない場所に安く泊まれる場所』というフレーズにフラグ的な何かを感じたが、フローラが知っている場所だけに危険はないだろうと思い、今夜はそこでお世話になることにした。
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