上 下
39 / 78

不思議な行動

しおりを挟む
ゴブリンたちの不思議な様子に戸惑いを感じた俺たちは、時間的に昼となったのでヤツラを見張りつつ、カロリーの用意してくれた昼食を食べることにした。
食事はもちろん交代で、最低でも三人の内で誰か一人はゴブリンから決して目を離すことは無いようにしながら注意深く監視をしていくが、一向にヤツラの様子も変化はない。

三人全員が食事をとり終えても、それでもゴブリンの様子が変わっていない。
ある程度の時間も経過している。
そろそろ何かしらの決断をしなければいけないと感じた俺たちは、その場で今後の行動について話し合うことにした。

とは言っても話し合う内容はゴブリンの行動なのである。
所詮はゴブリンのやっていることだけに、俺たちが少し考えたところで分かるわけもない。

「んー…、じゃー。とりあえずは俺が突撃してみるってことでいいか?」
「ワーは構わんべ」
「んじゃー、開始しようか」

俺の「開始しようか」の言葉を聞くなり、返事もそこそこに距離を取り出すリンとコロン。

ホブゴブリンたちとの戦闘も経験しただけに、ヤツラの驚異というのは俺の方としても最早分かっている。
多分だがベンケー以上の驚異となる存在であるはずがない。
暴れたところでどうとでも対処ができるだろうと考えた俺は、先ずは自分が先攻で突っ込んでみると提案したところ、二人の方からも別段、反対意見は出てこなかった。

俺はメニューを起動させ1分をはかる。
その間に二人は俺から距離をとった。

考えて分かる行動であれば考えてもよいとは思うが、何をどう考えればよいのか分からない段階では考えることは無駄に終わる気がする。
それであれば先ずは行動してみることがベストなはずだ。
そんなことを考え、メニューを見つめていると…

3・2・1

スタート!

突入開始の時間が来た。

★☆★☆

草むらにうつ伏せの状態で隠れていた俺は、おもむろに立ち上がった。
ゆっくりとではあるが不意に現れた俺の姿を、周囲を警戒していたゴブリンたちも確認したのだろう、突然何やら俺の方を指差しながら生物の鳴き声なのか人間の呼び声なのか、よく分からない「ギギィ!」といった感じの声を出す。

声を聞いた直後、今まで目をつぶり正座をしていたゴブリンたちは、一斉に目を開き顔を上げた後、視線を一斉に俺の方へ向けた。

「あれ…??」

俺の存在を認識したゴブリンたち。
今までの感じからすると、一斉に俺の方へ向かってくると予想していたのだが、何故かヤツラが向かってくる様子がない。
俺の方に視線を向けたまま、今も正座の真っ最中なのだ。

「チィッ、なんだよ…」

アイツらの予想外の行動に思わず舌打ちしてしまった。

まともに殴り合うだけであれば、ゴブリンなんかは何びき相手でも今の俺であれば怖くはない。
ただ、事前の情報でダンジョンの周りにはトラップを確認していて、そのトラップを気にしながらやりあうとなると話は違ってくる。
それに援護役のリンの魔法の射程距離の問題もあるので、自分だけが不用意にアイツらと距離を詰めるわけにもいかない。

「おい!こっち来いよ!」

無駄だとは思いながらも大声で挑発をしてみるが、ヤツラの方も反応がない。
と言うか今まで領域テリトリーのギリギリの範囲にいたゴブリンもいつのまにか、その他大勢に混ざるように洞窟の前に座っていた。

「意味が分からない…」

今までの様子からは想像をすることができないゴブリンたち。
ヤツラの狙いが分からないが、俺の方としては最初から一戦交える腹積もりなので、いつまでもこうしてはいられない。
それにヤツラは今正座している。
正座しているということは、俺に対して不意の行動をとることはできないハズだ。
そう思った俺は、とりあえずゴブリンたちに対して徐々にではあるが距離を詰めることにした。

★☆★☆

周囲をよく見る。
ダンジョンの領域テリトリー内にしかトラップを仕掛けることはできないが、それでも物陰などにゴブリンのヤツが潜んでいる可能性だってあるのだから。
不意の一撃だけは喰らわないようにして、俺は慎重に進んでいった。

そうして数分ほどかけて領域テリトリーに一歩足を踏み込んだ瞬間。
突然、お決まりの効果音が鳴り響く。
あのレベルアップの際などに不意に流れる得たいの知れない効果音。
最近、短時間の間に何度も繰り返し聞くことになっただけに、正直なところ暫くは聞きたくないなと感じていたあの効果音だ。

今度マナーモードが無いのかジックリと調べてみようと思う。

なぜ今のタイミングでその効果音がなったのか見当もつかない俺は、とりあえず周囲を見渡す。
ゴブリンたちは以前として洞窟の周囲にいて動き出す気配がない。
俺とヤツラの位置関係から襲ってきたら分かるだろうと感じた俺は、先ずは現状を把握するためにメニューを起動した。

するとそこには…

『ゴブリンたちが仲間になりたそうにこちらを見ている』

と表示されている。

「おいおい、どういうことだよ…」

そんな事を呟き戸惑っていると、後ろの方で何やら声が聞こえだした。
多分、様子からして隠れているリンとコロンではないかと思う。
ふと気になり軽く後ろを向くと、やはり案の定と言うかたちで草むらから二人が出てきた。
もしかすると、リンの方にも今の俺と同じメッセージが表示されているのかもしれない。
そう思った俺は、とりあえず二人に合流することにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

異世界のんびり冒険日記

リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。 精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。 とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて… ================================ 初投稿です! 最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。 皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m 感想もお待ちしております!

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...