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第一章 王国動乱篇

第二十二話 偽物②

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 鼻から血を流し、歪んだ表情を浮かべているが意識はあるらしい。だがまあ、こんなものか。


「っ…………痛、何……え、……? なん、だよ……これ。話が、違っ……!」

「気絶しないところを見るに、内包する力だけは確かなようだな」


 二人と一体分の足音と共に貼り付け状態の男の元へと歩み寄る。何を思ったのかは知らないが、どうにも驚いている様子に見える。

 こいつは状況が掴めていないようだが、私もそれは同じだ。先に質問させてもらおうか。時間が経てば意識を失ってしまう程、弱ってはいないからな。


「何しにここへ来た」

「え、あ……えっと……自分の力を試しに……痛っ」


 口を開くたびに苦悶の表情を浮かべているが、徐々に傷口が塞がっていくのが見える。【魔封呪縛】で魔力の行使は行えないはずだ。

 ライラとヴェルフェール、両方へと視線を送るも何も分からないらしく首を振ってくる。
 まあ直接聞くのが手っ取り早いか。 


「その力は、なんだ。神と関係しているのか」

「……ここに来るときに、力を貰ったんだ」
 

 力を貰った? こいつ、まさか本当に……。いや、あり得ない。勇者であれば、あの程度の攻撃も魔術も、まともに受けるはずがない。こんなに弱いはずはないのだ。


「詳しく話せ」


 【収納】の空間から一本の剣を取り出し、男の首元に突きつける。剣に乗せた殺気を、男は感じている事だろう。
 死ぬか話すか。どこかの国お抱えの暗殺者でもない限り、答えは明白だ。


「わ、わかった、話す! 話すからその剣を下ろしてほしい! ……し、信じられないかもしれないけど、俺は別の世界で死んで、ここに連れてこられたんだ。その時に、悪逆非道の魔王を倒せって神様に言われれ、たくさんの力を貰った。……今のは、魔力を使わない【自己回復】ってスキルの効果」

「別の世界……そんなことって、ほんとにあるんですかねー?」

「ほ、本当だって! 信じてくれ! こ、この服だって、ほら! こっちの世界に無い材質じゃないか!?」

「うーん、服にはあんまり詳しくなくてですねー。そんなことより、まおーさまを悪く言ってた事のほうが重要なんですけどー」

「友の悪口は、看過できん」


 二人が完全にこの男に噛みついている。どうどう。
 怒ってくれるのは嬉しいが、今はそれどころじゃない。もっと大切な事がある。


「少し落ち着け。私は、こいつの話を疑ってはいない。別の世界からというのもあり得る事で――――」

「魔王、様……? 君たち、魔王と知り合い……?」


 男は驚いた――――困惑した? 様子で問いかけてくる。人間の細かな感情なんて分からん。
 
 しかし話が逸れたことは確かだ。ライラ、目を背けるな。

 だが、どうせ言っておくつもりだったから、同じ事か。
 本当に別の世界から来たというのであれば、私の事も、世界の事も詳しくは知らないのだろうからな。

 首元へと向けていた剣を、再び【収納】へとしまう。
 理解が及んでいないのか、困惑している男の頬を一筋の液が伝う。

 私は小さく腕を広げ、揺らぐ双眸を見つめながら告げた。


「嗚呼、申し遅れた。私はノア・エストラヴァーナ。三千年前から魔王と呼ばれていた者であり、貴様の目的の人物であり、腐った神とやらの仇敵あだがたきだ」


 
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