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第一章 王国動乱篇
第二十話 耐性②
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瞬時に視界が切り替わり、私たちは広い空間にいた。
魔大国の修練場と同等か、それ以上か。それ程までに広大な場所だった。
そして、それは不意に現れた。
何もいない空間。いや、何もいないはずだった空間に、突如として巨大な獣が姿を現した。
見下ろすように向けられた二つの眼は、魔眼だろうか、歪に光を放っている。
鋭い鉤爪は私達を切り裂かんとばかりにこちらを向いていた。
逆立った鱗、自身の体躯程の長い尻尾。どれか一つをとっても、人を容易に殺し得る兵器となる。
「バジリスク系か」
「なんの魔眼ですかねー」
「あんな低級のモノ、食らわんだろ」
バジリスク系の魔物の特徴は、一様に魔眼を持ち合わせている事だ。
石化だったり、魅了だったり、麻痺だったり。人間にとっては多大な危険を伴う相手だろう。
しかし、元から魔力に対する耐性を十分に備えている私達にとって、そんなものはただの光る眼に過ぎない。
それでは、殴ってみるとするか。
強化のレベルは、九割。ほとんど全力と言っても差し支えない程の力だ。
足に力を入れ、踏み込む。
地面が抉れ、土煙が巻き上がる。
一瞬にしてバジリスクとの距離をゼロにすれば、がら空きの腹部へ向かって腕を振りぬいた。
鈍い音と共にバジリスクが一歩後退、身体を丸めるようにして衝撃を受け流そうとしていた。
が、完全には威力を殺せなかったようだ。鱗が数枚剥がれ、わずかに足元がふらついている。
「痛い」
殴った拳には、いくつかの切り傷、そして血が流れていた。鱗の強度は想像以上か。ゴーレムより硬い鱗って何事だ。
「いや、いやいや。普通あんなの殴りませんってー」
「魔術が効きにくいのなら、殴ってみるのが普通だろう」
「めっちゃ痛そうじゃないですかー、あの鱗ー」
このまま殴り続けてもどうにかなるのだろうが、相手がどのくらい耐えるのか分からない以上得策ではない。
「Graaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
殴られた痛みからか、雄たけびを上げてこちらへ突っ込んでくる。
巨体からは想像もつかないくらいの速度だ。
しかし、この程度に当たる私達ではない。
当然のように【短距離転移】で背後へと回り込む。
標的を見失ったバジリスクは、ノータイムで尻尾を縦横無尽に振り回す。だが悲しきかな、上空にいる私達には当たらんのだよ。
「これ相手に接戦をする、というのものな」
「体力が多いだけの的ですよー」
「それじゃあ、お前たちがやった方法でいこう。私とライラの、合成魔術だ」
「わかりましたー。何使いますー?」
「そうだな…………いや、待て。流石に詠唱の妨害くらいはしてくるだろう。ここは安全に、幻獣に時間を稼いでもらう」
以前にも言ったが、私が使えるのは魔術だけではない。幻界、というこの世界の裏側に同時に存在している世界から幻獣を呼び出す、召喚術も扱える。
正確には契約を結んだ結果なのだが、意味合いは同じだ。
「まおーさまってー、そんなこともできるんですねー」
「召喚術を最初に作ったのも、私だからな」
「…………はえー」
「じゃあ、数秒時間稼ぎ頼んだぞ」
「やったりますー」
悠々とバジリスクの前に躍り出るライラを横目に、詠唱を開始する。
懐かしいな、誰を呼び出そうか。
この程度の魔眼が効く奴はいないし、誰でもいいと言えばいいが…………よし。
展開された 魔法陣は、八重。
封印から覚めて以降、行使した魔術の中で最も質の高い魔術。
『----幻界に座する神速の王よ、この声に応えてくれるか。盟約の友に、親愛の証を』
「来い、【召喚術:白狼ヴェルフェール】」
世界を繋ぐ、真なる召喚術。
現界と幻界を引き合わせる、神話の魔術。
一言一言、慎重に魔力を練り上げる。
体内の魔力がごっそり削られる感覚に、思わず苦笑いを漏らしてしまう。
足元の魔法陣から眩い光が放たれる。そこから、圧倒的な存在感が生まれた。
正真正銘、生物としての格が違う、存在。
「随分とみっともなくなったモノだなぁ、ノア」
「は、余計なお世話だヴェルフェール。貴様こそ、眠りすぎて運動不足じゃあないのか?」
「たわけ」
内包する魔力も、溢れ出るオーラも、規格外。
くつくつと笑うその姿は、誰もが見惚れる美しい毛並み持った、巨大な白狼であった。
後にライラは語ったという。
仲良く笑うお二方の姿は正に、御伽噺の出来事だった、と。
魔大国の修練場と同等か、それ以上か。それ程までに広大な場所だった。
そして、それは不意に現れた。
何もいない空間。いや、何もいないはずだった空間に、突如として巨大な獣が姿を現した。
見下ろすように向けられた二つの眼は、魔眼だろうか、歪に光を放っている。
鋭い鉤爪は私達を切り裂かんとばかりにこちらを向いていた。
逆立った鱗、自身の体躯程の長い尻尾。どれか一つをとっても、人を容易に殺し得る兵器となる。
「バジリスク系か」
「なんの魔眼ですかねー」
「あんな低級のモノ、食らわんだろ」
バジリスク系の魔物の特徴は、一様に魔眼を持ち合わせている事だ。
石化だったり、魅了だったり、麻痺だったり。人間にとっては多大な危険を伴う相手だろう。
しかし、元から魔力に対する耐性を十分に備えている私達にとって、そんなものはただの光る眼に過ぎない。
それでは、殴ってみるとするか。
強化のレベルは、九割。ほとんど全力と言っても差し支えない程の力だ。
足に力を入れ、踏み込む。
地面が抉れ、土煙が巻き上がる。
一瞬にしてバジリスクとの距離をゼロにすれば、がら空きの腹部へ向かって腕を振りぬいた。
鈍い音と共にバジリスクが一歩後退、身体を丸めるようにして衝撃を受け流そうとしていた。
が、完全には威力を殺せなかったようだ。鱗が数枚剥がれ、わずかに足元がふらついている。
「痛い」
殴った拳には、いくつかの切り傷、そして血が流れていた。鱗の強度は想像以上か。ゴーレムより硬い鱗って何事だ。
「いや、いやいや。普通あんなの殴りませんってー」
「魔術が効きにくいのなら、殴ってみるのが普通だろう」
「めっちゃ痛そうじゃないですかー、あの鱗ー」
このまま殴り続けてもどうにかなるのだろうが、相手がどのくらい耐えるのか分からない以上得策ではない。
「Graaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
殴られた痛みからか、雄たけびを上げてこちらへ突っ込んでくる。
巨体からは想像もつかないくらいの速度だ。
しかし、この程度に当たる私達ではない。
当然のように【短距離転移】で背後へと回り込む。
標的を見失ったバジリスクは、ノータイムで尻尾を縦横無尽に振り回す。だが悲しきかな、上空にいる私達には当たらんのだよ。
「これ相手に接戦をする、というのものな」
「体力が多いだけの的ですよー」
「それじゃあ、お前たちがやった方法でいこう。私とライラの、合成魔術だ」
「わかりましたー。何使いますー?」
「そうだな…………いや、待て。流石に詠唱の妨害くらいはしてくるだろう。ここは安全に、幻獣に時間を稼いでもらう」
以前にも言ったが、私が使えるのは魔術だけではない。幻界、というこの世界の裏側に同時に存在している世界から幻獣を呼び出す、召喚術も扱える。
正確には契約を結んだ結果なのだが、意味合いは同じだ。
「まおーさまってー、そんなこともできるんですねー」
「召喚術を最初に作ったのも、私だからな」
「…………はえー」
「じゃあ、数秒時間稼ぎ頼んだぞ」
「やったりますー」
悠々とバジリスクの前に躍り出るライラを横目に、詠唱を開始する。
懐かしいな、誰を呼び出そうか。
この程度の魔眼が効く奴はいないし、誰でもいいと言えばいいが…………よし。
展開された 魔法陣は、八重。
封印から覚めて以降、行使した魔術の中で最も質の高い魔術。
『----幻界に座する神速の王よ、この声に応えてくれるか。盟約の友に、親愛の証を』
「来い、【召喚術:白狼ヴェルフェール】」
世界を繋ぐ、真なる召喚術。
現界と幻界を引き合わせる、神話の魔術。
一言一言、慎重に魔力を練り上げる。
体内の魔力がごっそり削られる感覚に、思わず苦笑いを漏らしてしまう。
足元の魔法陣から眩い光が放たれる。そこから、圧倒的な存在感が生まれた。
正真正銘、生物としての格が違う、存在。
「随分とみっともなくなったモノだなぁ、ノア」
「は、余計なお世話だヴェルフェール。貴様こそ、眠りすぎて運動不足じゃあないのか?」
「たわけ」
内包する魔力も、溢れ出るオーラも、規格外。
くつくつと笑うその姿は、誰もが見惚れる美しい毛並み持った、巨大な白狼であった。
後にライラは語ったという。
仲良く笑うお二方の姿は正に、御伽噺の出来事だった、と。
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