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第一章 王国動乱篇
第十八話 爆破①
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私と同じ速度で付いてくるライラのおかげか、行きと同じ速度で王都近郊の森まで辿り着くことが出来た。
少し経てば朝日が昇るだろうという時間帯だが、周囲はいまだ暗い。少し経てば朝日が昇るだろうという時間帯。しかし睡眠を必要とせず、夜目の効く私達には昼間となんら変わらない。
王国にある六大迷宮は川の中にある、という言葉を思い出し目下にある川の傍へと降り立つ。
左右に揺れる真っ赤な髪は、闇の中でもよく映える。
「さて、ライラ」
「はいー」
私たちはこれから、迷宮へと向かう。当初の優先順位に沿っての行動である。
本来であれば私一人で赴き、攻略する予定だったのだが、様々な要因が考えられる状況になったため一応ライラを連れてきた。
私は強い。全盛期のころであれば、一対一で私と対等に戦える者など一握りいるかどうかという世界だった。確実に負けると感じる相手など、一人もいない。それほどまでに、隔絶した実力差が存在していた。
しかし今は、違う。
確かに強い事には強い。だがその強さは、あくまで一般的なレベルでの強さだ。努力すれば届き得る程度の、底が見えてしまう強さ。そう考えると、身一つで飛び出した昨日の私は、少々慢心していたのかもしれない。
だから、念のため。間違ってもこんなところで死ぬわけにはいかないのだ。
「迷宮がどんなところか知ってるか?」
「勿論でーす。いくつか攻略したこともありますよー」
「それは心強い」
純粋な戦力としてライラを連れてきたが、予想外のところで役に立った。経験者がいるといないとでは全く違う。
ん? そういえば、魔大国にも六大迷宮の一つがあったな。
「魔大国付近にある六大迷宮には行ったのか?」
「あー……七欲の全員で行ったんですけどねー、途中で引き返しましたー」
「…………本当か?」
「本当でーす。敵わない、というわけじゃあないんですけどー、長期間国を空けるのもいただけないってスラヴィアの一言でー、帰還しましたー」
「どの程度まで進んだ?」
「感覚的にー、半分くらいですかねー。丸一日かけてー、そのくらいでしたー」
こいつらで、そのくらい掛かるのか。とんでもなく長いか、質が高いか、量が多いか、またはそれらの全てか。
だが、まあ。勝てないレベルではないと分かれば、そこまで心配する必要もない。
「近いなら先に攻略してもいいかもな」
「行くのであればー、お供しますよー」
丈の合っていない裾をぶんぶんと振りながらのやる気アピール。なんだこの生き物、可愛いな。
さて、いつまでも立ち止まっているわけにはいかない。
距離が分からない以上、多少なりとも時間が掛かってしまう。無駄話は、見つけ終えてからでもできるのだ。
「【探知】」
魔術を展開すると同時に、様々な魔力反応が飛び込んでくる。
野生動物や魔獣の反応を無視し、迷宮の前にいるという衛兵の魔力だけを探す。
人間の、それも大した力も持たない衛兵は――――っと、これか。
探ってみればなんてことない、少し歩けばすぐ着く距離だった。
「見つけたぞ」
「それじゃあ、いきましょー」
衛兵の魔力へ向けて、光の筋を放つ。以前森で冒険者のパーティのために用いたモノと同じだ。そういえば――――なんて名前だったか。冒険者達はあの後どうなったんだろうな。死んだか、逃げ帰ったか、負傷したか。どうでもいいが。
「走るか」
「駆けっこですかー? 負けませんよー!」
「残念だったな、純粋な魔術師のライラと私では、私に分があるんだ」
言い終わると同時に、森を駆ける。器用に木を躱しながら、徐々にスピードを上げる。周りに居た小動物は大慌てで逃げて行く。すまんな、驚かせて。
スタートダッシュは私のほうが早かった。であれば当然、ライラは私の後ろにいるはずだ。
ちらり、と振り返ってみれば、そこには私に肉薄する勢いで駆けてくるライラの姿があった。
あ、こいつ身体強化使ってるのか。ずっる。
まあそんなことをされても、容易に覆らない「差」というモノは存在する。
己が主の力、とくと見るが良い。
少し経てば朝日が昇るだろうという時間帯だが、周囲はいまだ暗い。少し経てば朝日が昇るだろうという時間帯。しかし睡眠を必要とせず、夜目の効く私達には昼間となんら変わらない。
王国にある六大迷宮は川の中にある、という言葉を思い出し目下にある川の傍へと降り立つ。
左右に揺れる真っ赤な髪は、闇の中でもよく映える。
「さて、ライラ」
「はいー」
私たちはこれから、迷宮へと向かう。当初の優先順位に沿っての行動である。
本来であれば私一人で赴き、攻略する予定だったのだが、様々な要因が考えられる状況になったため一応ライラを連れてきた。
私は強い。全盛期のころであれば、一対一で私と対等に戦える者など一握りいるかどうかという世界だった。確実に負けると感じる相手など、一人もいない。それほどまでに、隔絶した実力差が存在していた。
しかし今は、違う。
確かに強い事には強い。だがその強さは、あくまで一般的なレベルでの強さだ。努力すれば届き得る程度の、底が見えてしまう強さ。そう考えると、身一つで飛び出した昨日の私は、少々慢心していたのかもしれない。
だから、念のため。間違ってもこんなところで死ぬわけにはいかないのだ。
「迷宮がどんなところか知ってるか?」
「勿論でーす。いくつか攻略したこともありますよー」
「それは心強い」
純粋な戦力としてライラを連れてきたが、予想外のところで役に立った。経験者がいるといないとでは全く違う。
ん? そういえば、魔大国にも六大迷宮の一つがあったな。
「魔大国付近にある六大迷宮には行ったのか?」
「あー……七欲の全員で行ったんですけどねー、途中で引き返しましたー」
「…………本当か?」
「本当でーす。敵わない、というわけじゃあないんですけどー、長期間国を空けるのもいただけないってスラヴィアの一言でー、帰還しましたー」
「どの程度まで進んだ?」
「感覚的にー、半分くらいですかねー。丸一日かけてー、そのくらいでしたー」
こいつらで、そのくらい掛かるのか。とんでもなく長いか、質が高いか、量が多いか、またはそれらの全てか。
だが、まあ。勝てないレベルではないと分かれば、そこまで心配する必要もない。
「近いなら先に攻略してもいいかもな」
「行くのであればー、お供しますよー」
丈の合っていない裾をぶんぶんと振りながらのやる気アピール。なんだこの生き物、可愛いな。
さて、いつまでも立ち止まっているわけにはいかない。
距離が分からない以上、多少なりとも時間が掛かってしまう。無駄話は、見つけ終えてからでもできるのだ。
「【探知】」
魔術を展開すると同時に、様々な魔力反応が飛び込んでくる。
野生動物や魔獣の反応を無視し、迷宮の前にいるという衛兵の魔力だけを探す。
人間の、それも大した力も持たない衛兵は――――っと、これか。
探ってみればなんてことない、少し歩けばすぐ着く距離だった。
「見つけたぞ」
「それじゃあ、いきましょー」
衛兵の魔力へ向けて、光の筋を放つ。以前森で冒険者のパーティのために用いたモノと同じだ。そういえば――――なんて名前だったか。冒険者達はあの後どうなったんだろうな。死んだか、逃げ帰ったか、負傷したか。どうでもいいが。
「走るか」
「駆けっこですかー? 負けませんよー!」
「残念だったな、純粋な魔術師のライラと私では、私に分があるんだ」
言い終わると同時に、森を駆ける。器用に木を躱しながら、徐々にスピードを上げる。周りに居た小動物は大慌てで逃げて行く。すまんな、驚かせて。
スタートダッシュは私のほうが早かった。であれば当然、ライラは私の後ろにいるはずだ。
ちらり、と振り返ってみれば、そこには私に肉薄する勢いで駆けてくるライラの姿があった。
あ、こいつ身体強化使ってるのか。ずっる。
まあそんなことをされても、容易に覆らない「差」というモノは存在する。
己が主の力、とくと見るが良い。
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