12 / 37
第一章 王国動乱篇
第十話 爪を隠せ②
しおりを挟む「となると、ここから最も近いのは王国にある迷宮というわけね。それはどこにあるのかしら?」
「本当に何も知らないのね、ノアちゃん。もしかして魔大国の箱入り娘だったり?」
「エルザ、個人の詮索はご法度だろ。深入りしてやんなよ」
「はーい、そのくらいわかってますって。答えたくないなら無視していいわよ」
「まあそういう解釈でいて貰って構わないわ」
実質その言葉通りではある。箱というよりは枷であったが。枷付き娘?語感が不穏過ぎる。
「えっと、それで迷宮の場所だったわね? 王都の北門から出て東に行った所に大きな川が流れているんだけど、その中に入口があるのよ」
「川の、中?」
迷宮の入り口が川の中に。そもそも迷宮がどんなものかあまりわかっていないのだが、入り口というのだから最低限入れるところだと考えるのが普通じゃあないのか。
では王都の迷宮は川の中から入って一度浮上することで初めて辿り着ける、と。
確かに生身の人間には少々骨が折れる案件ではあるかもしれない。
「迷宮はなぜか、中の難易度に応じて入口までも辿り着くのが難しくなっているのよね。ここは六大迷宮の中でも簡単な方らしいけど」
「なるほど。……川の中程度ならなんの問題もない、か。有難う、助かったわ。」
「……今何か聞き捨てならないセリフが聞こえた気がするけど、まあいいわ。魔族だもの、人間と一緒にしちゃいけないわよね」
「王都の北門から出て東の川の中、ね。よし、貴方たちも頑張って」
場所さえ分かればあとは行くだけ。待ってて私の欠片。一日もあれば多分大丈夫。
王都に向かって駆けだそうとした途端、サージェス・オーグルドに肩を掴まれる。
「ちょ、ちょっと待てって嬢ちゃん! 今から行くって正気か! 六大迷宮だぞ!?」
「正気も正気よ。それが目的だもの」
「~~っ! ……じゃあ百歩譲って行くのは良い。だが嬢ちゃん、資格は持ってんのか?」
「資格?」
初耳だ。資格とはなんだ。迷宮に入る制限が存在するのか?
「六大迷宮なんだ、最低でも冒険者ランクA。それか学園卒業時に第十席。後は滅多にはないが、ギルド長や学園長の推薦。これらに該当しない限りは迷宮の入り口で止められるだろうよ。他のとこも制限は違えど似たようなものだ」
ふむ、困った。場所さえ分かればすぐに、と思ったがそう簡単にはいかないようだ。
無理に突破しても良いんだが、それを繰り返して人間達に追われでもしたらたまったものじゃない。
大層厳重に守られている事だろう、魔力探知すら行われているかもしれない。機器を壊して忍び込む?騒ぎになる事間違いなしだ。
「うーむ……。まあいい、参考になったわ。礼を言う」
「危険と承知で大森林の中までついてきたんだ、礼なんていらねえよ」
「貸しを作るのは好きではなくて。一つだけ、任務の助けになるかもしれない情報を教えてあげるわ」
噂によれば、それは大きな音や影ということ。であれば、遠くで蠢くアレに間違いはないだろう。
ここまでただただ付いてきただけ、などと格好悪いことはしたくないのだ。
「この方向に進めば、目的の正体が掴めると思うわ」
進行方向より若干右を指さしては魔術の行使。うっすらと光の道筋を表す、というもの。
どこか呆然とした様子の三人に微笑みかけ、一言呟く。
「私は勘が良いの。じゃあ頑張って生きてね、人間」
風のように言葉だけを置き去りにしては、瞬く間にその場から消える。忠告も、具体的な内容も一切無いままに。
さて、王都だったか。頬を凪ぐ風を感じながら考える。
推薦を取り付けなければ迷宮に入ることも面倒なのだ。一々冒険者やら学園だかに入るのも時間の無駄ではある。
よし、まずはギルド長の元へと向かおう。ダメ元でも申し出てみれば意外と何とかなるかもしれない。
森を駆ける。駆ける。駆ける。
気が付けば、目前には王都の正門がそびえ立っていた。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
死に戻り公爵令嬢が嫁ぎ先の辺境で思い残したこと
Yapa
ファンタジー
ルーネ・ゼファニヤは公爵家の三女だが体が弱く、貧乏くじを押し付けられるように元戦奴で英雄の新米辺境伯ムソン・ペリシテに嫁ぐことに。 寒い地域であることが弱い体にたたり早逝してしまうが、ルーネは初夜に死に戻る。 もしもやり直せるなら、ルーネはしたいことがあったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる