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第一章 王国動乱篇

第十話 爪を隠せ②

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「となると、ここから最も近いのは王国にある迷宮というわけね。それはどこにあるのかしら?」

「本当に何も知らないのね、ノアちゃん。もしかして魔大国の箱入り娘だったり?」

「エルザ、個人の詮索はご法度だろ。深入りしてやんなよ」

「はーい、そのくらいわかってますって。答えたくないなら無視していいわよ」

「まあそういう解釈でいて貰って構わないわ」


 実質その言葉通りではある。箱というよりは枷であったが。枷付き娘?語感が不穏過ぎる。
 

「えっと、それで迷宮の場所だったわね? 王都の北門から出て東に行った所に大きな川が流れているんだけど、その中・・・に入口があるのよ」

「川の、中?」


 迷宮の入り口が川の中に。そもそも迷宮がどんなものかあまりわかっていないのだが、入り口というのだから最低限入れるところだと考えるのが普通じゃあないのか。

 では王都の迷宮は川の中から入って一度浮上することで初めて辿り着ける、と。
 確かに生身の人間には少々骨が折れる案件ではあるかもしれない。


「迷宮はなぜか、中の難易度に応じて入口までも辿り着くのが難しくなっているのよね。ここは六大迷宮の中でも簡単な方らしいけど」

「なるほど。……川の中程度ならなんの問題もない、か。有難う、助かったわ。」

「……今何か聞き捨てならないセリフが聞こえた気がするけど、まあいいわ。魔族だもの、人間と一緒にしちゃいけないわよね」

「王都の北門から出て東の川の中、ね。よし、貴方たちも頑張って」


 場所さえ分かればあとは行くだけ。待ってて私の欠片。一日もあれば多分大丈夫。

 王都に向かって駆けだそうとした途端、サージェス・オーグルドに肩を掴まれる。


「ちょ、ちょっと待てって嬢ちゃん! 今から行くって正気か! 六大迷宮だぞ!?」

「正気も正気よ。それが目的だもの」

「~~っ! ……じゃあ百歩譲って行くのは良い。だが嬢ちゃん、資格は持ってんのか?」

「資格?」


 初耳だ。資格とはなんだ。迷宮に入る制限が存在するのか?


「六大迷宮なんだ、最低でも冒険者ランクA。それか学園卒業時に第十席。後は滅多にはないが、ギルド長や学園長の推薦。これらに該当しない限りは迷宮の入り口で止められるだろうよ。他のとこも制限は違えど似たようなものだ」


 ふむ、困った。場所さえ分かればすぐに、と思ったがそう簡単にはいかないようだ。
 無理に突破しても良いんだが、それを繰り返して人間達に追われでもしたらたまったものじゃない。

 大層厳重に守られている事だろう、魔力探知すら行われているかもしれない。機器を壊して忍び込む?騒ぎになる事間違いなしだ。


「うーむ……。まあいい、参考になったわ。礼を言う」

「危険と承知で大森林の中までついてきたんだ、礼なんていらねえよ」

「貸しを作るのは好きではなくて。一つだけ、任務の助けになるかもしれない情報を教えてあげるわ」


 噂によれば、それは大きな音や影ということ。であれば、遠くで蠢くアレに間違いはないだろう。
 ここまでただただ付いてきただけ、などと格好悪いことはしたくないのだ。


「この方向に進めば、目的の正体が掴めると思うわ」


 進行方向より若干右を指さしては魔術の行使。うっすらと光の道筋を表す、というもの。
 どこか呆然とした様子の三人に微笑みかけ、一言呟く。


「私は勘が良いの。じゃあ頑張って生きてね、人間」


 風のように言葉だけを置き去りにしては、瞬く間にその場から消える。忠告も、具体的な内容も一切無いままに。


 さて、王都だったか。頬を凪ぐ風を感じながら考える。

 推薦を取り付けなければ迷宮に入ることも面倒なのだ。一々冒険者やら学園だかに入るのも時間の無駄ではある。

 よし、まずはギルド長の元へと向かおう。ダメ元でも申し出てみれば意外と何とかなるかもしれない。


 森を駆ける。駆ける。駆ける。

 
 気が付けば、目前には王都の正門がそびえ立っていた。
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